ひとりでビルを建てる男。
ひとりでビルを建てる男。
岡啓輔さんの、
蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)ができるまで。
最新の記事 2006/08/02
 
【1】とてつもない建築の冒険


東京の真ん中(の少し下の方)で、
人知れず凄いことが行なわれています。
まずは下の写真を見てください。


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■地下を掘る男

マンションとマンションの間で、穴が掘られてます。
それも、いわゆるユンボのような重機を使わずに、
スコップで土を掘っては袋に詰めて運び出しています。
この大きな穴は人の手で掘られているんです。
場所は港区の有名な大学のすぐ近くです。
銀行の地下金庫まで掘り進めて、
おカネをがっぽりという作戦にしては、
やり方が少々、おおっぴらすぎるような気がします。
遺跡の発掘?
でも両隣にすぐマンションが建っていて、
広さも車2台分ほどしかありません。
こんな窮屈なところでチマチマやらなくても
いいような気もします。
もちろん、掘れば何か出てくるかもしれませんが。

近づいて穴をのぞくと、いました。岡啓輔さんです。
「ああ、どうも」
仕事の手を休めて、岡さんが声をかけてくれました。
いつものように、ちょっとはにかんだような
笑顔を見せながらです。
実はここ、岡さんが自邸を建てている工事現場なのです。


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岡さんはこの土地のオーナーであり、
今建てている家の発注者でもあり、
同時に設計者でもあって、
しかも工事まで自分でやってしまっています。
それも建設機械をほとんど使わず、
岡さん本人の労力と、
たまに来てくれる素人の友達の手伝いだけを頼りに。

岡さんとは10年近く前に、
とある建築の研究会で出会いました。
以前から友達のアパートの部屋(それも2階)に
風呂を増築するなんて、
だいたんな改造を自力建設でやったりしていましたが、
今度は自邸を建てると聞いて、少し驚きました。
もっとびっくりだったのは、
そっと手渡された家の完成予想イラストでした。
どひゃあ、これは凄い。
どこやらの秘密結社が妄想で描いた塔のようです。


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■ダンスのようにつくりたい

「楽しく建築をつくりたいなあと思ってます」
そのときは確か、そんなことを言っていました。
こんなに自由な形で建築がつくれれば、
そりゃあ楽しいでしょうね。
しかし、それだけなら
「じゃあ頑張って下さい」で終わりです。
格好が異常だからといって
ありがたがるほどこちとらウブじゃありません。
世の中には昔から、なぜかヘンな格好の建築を
思いついてしまう人がいて、
建築を知らない人ほど、
その思い込みから抜け出せなかったりするものです。
たまたまその人に資金があればそれは実現しますが、
ただそれだけです。
でも、岡さんの口から続けて出てきた説明は
驚くべきものでした。
「実はコンクリートの打ち方について考えてまして‥‥」
岡さんはこの異様な建築を
自力で建設するというだけでなく、
まったく新しい建築のつくり方を
試そうとしているというのです。
岡さんの話では、
従来の鉄筋コンクリート構造のつくり方には
根本的に欠陥があって、
それがこの方法によれば解決できるのだといいます。
しかも、その新しい工法と
この建物のあの形が密接に関係しているというのです。
「その場のノリで、ダンスをするように、
 建築をつくってみたいんですよね」

もしかしたら革命?
一応、言っておくと、
こちらも多少は建築の世界をかじったことがある身です。
だからこそ、岡さんがここでやろうとしていることの
非常識さとその魅力はよくわかります。
岡さんの新工法については、
後で説明する機会もあるでしょうから、
ここでは詳しく触れません。
ひとつだけ言えるのは、
それは従来の建築のつくり方とは懸け離れていて、
むしろタブーとも受け取られかねない点も
あるということ。
しかし問題の回避法も同時に考えられていて、
完成予想図のブッ飛んだ印象とは裏腹に、
意外なほどそれは理知的でもありました。
自分は今、革命的な建築の誕生に
立ち会おうとしているのかもしれない、
そんな予感すら僕は抱きました。
でも実現するためには想像もできない
難関が待ち受けているような気もします。
規模は小さいけれども、
これはとてつもない建築の冒険です。
これはちょっと目が離せません。
完成までいつまでかかるのかわかりませんが、
それまでこの「革命的建築」について
様々な角度からウォッチしていこうと思います。
というわけなので岡さん、ヨロシク。

ところでこの建物の名前は?
「蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)です」
なぜそんな名前を?
名前の由来も含めて、
この建築の秘密はおいおい聞いていくことにしましょう。

次回から本格的に始まる蟻鱒鳶ルレポートにこう御期待!
 
 
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