はたらくことのおもしろさ。 佐々木俊尚×糸井重里 はたらくことのおもしろさ。 佐々木俊尚×糸井重里
作家・ジャーナリストの佐々木俊尚さんと
糸井重里が「はたらくこと」をテーマに
トークイベントを行いました。
話はさまざまな方向に転がり、
「(よくしゃべったのは)会場の若い人たちが
とても真剣に聞いていたから、
その熱のせいなんじゃないかとも思えました」と、
糸井は翌日の「今日のダーリン」に書きました。
とくに白熱したのは最後の質疑応答の時間で、
会場の方からたくさんの質問が挙がったんです。
その様子もふくめての全7回、
どうぞご覧ください。

※今回の対談は、佐々木俊尚さん、松浦弥太郎さん、
灯台もと暮らし、箱庭が運営する
コミュニティ「SUSONO(すその)」の企画で
おこなわれました。
「SUSONO」については、こちらからどうぞ
3週間無料のクーポンもあるそうですよ。
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第6回:まずは、自分を養うこと。
佐々木
そろそろ質疑応答の時間に入りましょうか。
司会者
みなさん、いかがでしょうか。
「はたらく」について、
糸井さんや佐々木さんに聞きたいことはありますか?

(※続々と手が挙がり、順番に質問していただきました)
男性
(質問者)
最近、父を亡くしたんですけど、
お二人が、ご自身のお父様から
はたらくことについて直接教わったことや
姿を見ていて教わったことなどはありますか?
糸井
ぼくは、自分の仕事が嫌だなと思う原因を
つくってくれたのは父親です。
毎日二日酔いで、
嫌そうに仕事に出かけて行くんですよ。
それを見て大人って大変だなと思いました。
自分はそれが嫌で泣いたんです。
でも大人になってみてわかったんですけど、
仕事って嫌とも限らないんです。
あとは、こんなに嫌な仕事なんだから、
何とかラクをしてしのぎたいと思って、
アイデアというものを大事にするように
なったんだと思います。
だから、反面教師ですね。
佐々木
ぼくの父親は本当にろくでなしで、
借金の保証人になって住むところを転々としたり、
だまされて会社つくって相手に逃げられたり、
もう散々だったんです。その姿を見ていて、
こんなふうでも生きていけるんだ、
と強く感じましたね。
だから、人生意外に何とかなる、
という安心感を得たことが、
父親から得た唯一の教訓だと思っています。
男性
(質問者)
今年から新社会人としてはたらいているのですが、
プレゼンテーションの研修をする中で、
アイデアがあらぬ方向へ行って
おもしろくなったりすることがあったんです。
そういう意味でのプレゼンテーションというのも、
無駄なんでしょうか。
糸井
それはプレゼンテーションじゃなくて、
考えることについての話ですよね。
だから、いいと思います。
ぼくは、こう言うと変ですけど、
ずっと考えているんですよ。
誰よりも、というか、
もう、かわいそうなぐらい、
いつも考えているんです。
それでときどきネタが出て来るとか、
偶然に考えたことと何かがつながるとか
いい結果が生まれています。
考えるというのは、
ボクサーがトレーニングするのと同じで、
嫌じゃなくそれができる人は、
それだけで財産だと思っていいと思います。
佐々木
プレゼン資料をつくっているのと、
思考のメモづくりと、
ごっちゃにしないように、ということですね。
糸井
そうですね。
ぼくが広告の世界にいたときは、
プレゼンテーションというのは
基本的には1案みたいな感じで、
真剣にやりました。
何案もあったら、真剣になれないですよね。
コピーの指導する人って、
100本書けとか、1000本書けって、
よく言うんですよ。
あれは、考えようがなくなるまで
無意識で考え続けなさいという意味なら
わかるんだけど、
本当はそんなことやっても意味ないと思います。
「とにかく、これしかない、これだ」
と思って真剣に1本考えるしかないんです。
それが考えられてから、
次のもっといいものを縦に重ねていけばいいのに、
ただ似たものを横に並べちゃう。
それがアイデアの一番邪魔になると思います。
男性
(質問者)
お二人が、仕事ってたのしいなと思った
最初の体験を教えてください。
佐々木
ぼくはもともと新聞記者をやっていて、
偉い人のところに
夜回りをかける事件記者でした。
これが本当に辛くて辛くてしょうがない。
でも仕事だから一生懸命やっていて、
それで成果も出ていたもんだから、
おまえは事件記者に向いていると言われて、
ますます抜けられなくなって、
結果的に10年間新聞社にいました。
それで、辞めてから、
テクノロジーやITの話や世の中の構造を
解説するような方向の仕事をしはじめたときに、
「世界ってこういうふうにできているんだ」
というのが、スッと見えた瞬間っていうのがあって、
これが俺のやりたかったことなんだとわかって、
すごくそのときは感動しましたね。
それから本を書くのがラクになりました。
糸井
その書かれた本を、ぼくも読んで感動しました。
佐々木さんの、そのワクワクが伝わってきて、
おもしろかったです。
佐々木
ありがとうございます。
糸井
ぼくはやっぱり、褒められるたびに
うれしかったです。
褒めないで批評するやり方もあるんですけど、
うっかり褒めちゃった、
みたいな話が聞こえてくると、
ものすごくうれしいですよね。
それでなんとか持ってたかもしれない。
いまも似たようなものかもしれないですね。
さっきの「ドコノコ」というアプリも
つくってくれてありがとうという声が
絶えず聞こえてくるんです。
自分に力があるのを見せたいわけじゃなくて、
よろこんでもらうというのは、
やっぱり、うれしいことです。
佐々木
相手を制覇するんじゃなくて、
共感軸の中に一緒に入るんですよね。
どうしても、年を重ねると、
マウンティングしたがる人が多いじゃないですか。
糸井さんの世代って、
そういう人めちゃくちゃ多くないですか?
糸井
多いですね。
マウンティングって
弱さの表れじゃないかと思います。
下になっても、やり返せると思っていたら、
組み伏せられても大丈夫じゃないですか。
ぼくもそんな強い人間じゃないけど、
マウンティングする人は弱いと思います。
佐々木
犬が噛むのも、怖いから噛むんで、
強いから噛むわけじゃない。
あれと同じことですね。
男性
(質問者)
常日頃、日本は経済大国で、
技術立国であることを維持しようと
しているなと思うんですが、
次の時代の日本がどうしたいのかが見えてきません。
おふたりはどう考えてらっしゃいますか。
佐々木
壮大な質問ですね。
どういう世界になっていくのかについては、
ぼくは自分でも本を書いていますが、
明確にビジョンとして持っています。
これからは「分散」の時代だと思います。
20世紀は大きな改革の時代だったから、
21世紀は、その権力がどんどん分散して、
ネットワーク化されていく時代だろうと。
いままでのように広場に集まって
民主主義やるみたいな感じはなく、
それこそ、フェイスブックの人間関係みたいに
網の目のように広がっていくと思います。
ヒエラルキー的なものが終わって、
ネットワーク的なものに移行していって、
その中に力が分散していく社会をイメージしているし、
そういうふうになるように
自分も努力していると思います。
糸井
その分野については、
みんなが為政者のように
考える必要はないと思っています。
つまり、あなたがたは王様でも
総理大臣でもないんだから、
自前の何かをまず見つけるべきだと思います。
いまの時代って、自分が言ったことは
世界中に通用しないとダメ、みたいな話を、
意見同士をぶつけ合うじゃないですか。
あんなことをしてたら忙しいですよね。
大事なのは、まず自分を養うことと、
ちゃんと食わせることだと思います。
それはエゴでも何でもなくて、
当たり前ですよね。
税金も払ってるんだから、社会に参加してるんです。
それじゃだめだと言う人もいるけど、
ぼくは、安心してしょうもないことを
考えたほうがいいと思います。
佐々木
健全な生活者の視点が
大事、ということですよね。
(次回も質疑応答がつづきます!)
2018-07-01-SUN