佐々木俊尚 × 糸井重里  メディアと私。  ──おもに、震災のあと。
震災の直後、混乱する情報のなかで、 ジャーナリストの佐々木俊尚さんと 糸井重里はツイッターを介して コミュニケーションを交わしました。 それは、好感とか相性というよりも、 相手の姿勢を支持し合うことで 自分の水平感覚を確認するというような、 ちょっとめずらしいタイプの 出会いであったように思います。 「実際に会ってみたらどうなるのだろう?」 本人たちの意思という以上に、 周囲の好奇心から実現した対談では、 会わなければ触れなかったであろうことが つぎつぎに語られました。

佐々木俊尚さん Profile

 
当事者としての立ち位置。 2012-01-23-MON
インターネットの両極端な世界。 2012-01-24-TUE
ブログとツイッター。 2012-01-25-WED
リアルな情報。 2012-01-26-THU
メディアの文体。 2012-01-27-FRI
ほんとうに求められるもの。 2012-01-30-MON
当事者意識と中間共同体。 2012-01-31-TUE
いくつかのきっかけ。 2012-02-01-WED
これからのジャーナリズム。 2012-02-02-THU
 


第1回  当事者としての立ち位置。

糸井 ぼくは、おもにツイッターを通じて
佐々木さんのことを知っているわけですけど、
最近、佐々木さんがおっしゃっている
「当事者主義」っていう視点が
おもしろいなあと思っているんです。
佐々木 ああ、はい。
糸井 つまり、当事者として発信することで人は動く。
逆に第三者的な場所、安全圏に身をおいて
当事者としてではなく発信することは
むしろ危険な行為だし、信用もされない。
佐々木 そうですね。
それまでのぼくは、
ずっと「ネット対マスコミ」という感じの
対立軸で話してたんですけれど、
いまはもうそういう軸ではなくて、
「当事者であるか」という点が
すごく重要になってきていると思うんです。
そのきっかけになったのは、
やっぱり、3.11。
糸井 はい。
佐々木 ぼくは4月に入ってから
はじめて被災地に入ったんですが、
そこで気づいたことは、
「自分に語れるものがなにもない」
ということだったんです。
陸前高田とか、気仙沼とか、
荒れ果てた景色が広がっているんですけど、
自分がそこでなにか語れるかっていうと、
語れるものはほとんどない。
そこにいる人に取材して書くっていう、
いわゆる従来の新聞社の手法は
あるかもしれないんですけど、
それをやっても、たぶんなにか違うだろうなと。
糸井 いちおう、それで形にはなるんでしょうね。
佐々木 はい。
よくある新聞の雑感記事には
なるかもしれないんですけど、
それをやろうとは思わなかったし、
実際にそれをやってる新聞やテレビの姿勢には
すごく疑問を感じていた。
ところが、河北新報。
糸井 はい。
佐々木 仙台に本拠地のある河北新報の記事が
すばらしいんです。
どこがいいかというと、
一般的な新聞の記事というのは、
特異な例を取りあげたがるんですよ。
「そんな人、滅多にいないだろう」
みたいな人を探してきて、スポットを当てて、
これがいかにもいまの世の中を示している、
っていうふうに記事にする。
糸井 ああ、そうですね。
佐々木 そういうやり方って、
マスコミの常套手段なんですけど、
河北新報がやってたのは、
ぜんぜんそういうことじゃなかった。
社会面でほぼ毎日連載してた記事があるんですけど、
これがね、ほんとにふつうの人が、
そのときどうしていた、何を感じていた、
ということを書いている。
すごいドラマがあるわけでもなく、
津波に遭ったけれど助かって、
いまはこういうことをしています、
っていうことを、日々、ずっと記録し続けてる。
この記事が非常にすばらしかったんです。
糸井 なるほど。
佐々木 で、その取材チームの中心人物である
寺島さんという名物記者の方に、
お会いしてお話をうかがったんですが、
ああいう記事を書ける理由として、
当たり前のように、
「それはぼくらが被災者だからですよ」って、
おっしゃったんです。
それでぼくは、なるほどと感動してしまって。
糸井 ああー。
佐々木 河北新報の記者は、ほぼ全員が東北の出身。
だから、自分自身ももちろん被災者だし、
自分の家族、親族、あるいは友人、知人、
どこかに、必ず死者がいたり、
行方不明の人がいたり、
避難してる人がいると。
そうすると、取材に行ったときに、
とても、他人事のようには聞けない。
糸井 はい。
佐々木 取材するときに、ふつうだったら、
「どうでしたか」ってところからはじまるんですけど、
もう、被災者と話した瞬間に、
「実はわたしの父もね」とか、
「わたしの友人がね」とか、
そういうやり取りがはじまって、
そのなかで記事を書いてる。
そういうやり方をすると、
いままでのような第三者的な立ち位置からの
記事というのは、書けなくなってしまう。
糸井 うん、うん。
佐々木 でも、それって、ほんとはね、
いままでの新聞のセオリーでは、
やってはいけないって言われてたことなんです。
糸井 つまり、個人の主観ではなく、
第三者として客観的に書きなさいと。
佐々木 そうなんです。
ぼくは1988年から12年半くらい
毎日新聞で新聞記者をやってたんですけど、
とにかく、客観しろ、中立であれ、ということを
基本的な教えとして叩き込まれました。
もちろん、取材対象の気持ちを理解するのは
とても大事なことなんだけれど、
あまりにも対象に入り込んでしまって、
合一してしまってはいけない、
ということを、ずっと言われてたんです。
でも、河北新報の記者たちがやってることは
まったく逆なんですね。
それで、ぼくは寺島さんに、
「それってもう、客観中立報道じゃないじゃないか」
って訊いたんです。
糸井 それは、佐々木さんとしては、
どっちの気持ちで訊いたんですか?
「客観中立報道になってなくて、
 ダメじゃないですか」っていう
気持ちで訊いたのか、それとも‥‥。
佐々木 いえ、そういったセオリーを超えて、
すごくいい方向に来てるんじゃないですか、と。
糸井 つまり、その在り方がいいなと思って。
佐々木 そうです。
というのは、ぼくも常々、
客観中立なんてありえないと思っていたので。
糸井 ああ、なるほど。
佐々木 客観中立がありえないのに、
その幻想にすがってる新聞社は
おかしいじゃないかと言い続けていた。
だからこそ、そこに踏み込んでる
河北新報はすごいなと思った。
幻想とかセオリーを乗り越えて、
すごいところに行っちゃってるじゃないですか。
そういうつもりで訊いたんですよ。
そしたら、ちょっと息をのんで、
「おっしゃるとおりです」と。
糸井 うん、うん。
佐々木 やり取りを通してぼくが思ったのは、
おそらく、これからメディアが発信するものは、
それがマスメディアなのかネットメディアなのか
というようなことはどうでもよくて、
その立ち位置が問われるようになる。
そういう時代に、いま、来ているのかなと。
糸井 あああ、なるほど。
佐々木 たぶん、これまでは、ずっと、
「他人事みたいな感じ」があったと思うんですよ。
政治に関しても、経済に関しても、社会問題に関しても、
「他人事みたいな感じ」を多くの日本人は感じていた。
その「他人事意識」が、
図らずも震災を機会に大転換して、
ついに払拭される可能性がある。
そう感じたら、すごくジーンとしてしまって。
そこから、「当事者としての立ち位置」が
問われる時代なんだって考えはじめたんです。
マスだろうが、ネットだろうが、
当事者意識のない人はもう影響力を持たない。
逆に、当事者意識を持って報道する、
あるいはブログで書く、ツイートする人こそが、
今後の社会を担うんじゃないのかなと。
糸井 そうすると、その問いかけは
自分にも向けられるわけですよね。
佐々木 そうですね。
糸井 震災が起こる前の自分と、
いまの自分が比べられるというか。
佐々木 はい。
  (つづきます)

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2012-01-23-MON

 
ipadで「メディアと私。」を読む。

先日、Appleが誰にでも簡単に電子書籍がつくれるツール、
「iBooks Author」を発表したのをご存じですか?
どんなもんだろう、と思って、試しに、
この、佐々木俊尚さんと糸井重里の対談、
「メディアと私。」を流し込んでみたら、
わぁ、できちゃいました。
iPadで電子書籍のようにさくさく読めます。
いまのところiPadでしか読めないのがちょっと残念ですが
せっかくだから、ダウンロードできるようにしておきます。
試しに短時間でつくったものなので、いろいろと、
つくりの甘いところもあるかと思います。
不具合などあると思いますが、なにとぞご容赦を‥‥。
(ご意見、アドバイスなどあれば、こちらからお願いします)


・iPadでしか読めません。iPhoneでは読めません。
・iBooksを最新版にアップデートしておいてください。
・iPadのSafariで下のアドレスを開いてください。
・iBookstoreからダウンロードされるわけではなく、
 「ほぼ日」のこのページからのみダウンロードできます。
・対談の各回が自動更新されるわけではありませんので、
 更新日の朝11時に新しくなるファイルを
 その都度、読みに来てくださいね。

https://www.1101.com/sasaki_toshinao/sasaki.ibooks

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