第4回 三合菴が満席になった日。

おいしいそばだけでなく、
割烹料理のレベルの和食を出すことで
確実にファンをつかんできた「三合菴」。
その仕事ぶりは、どのようなものなのでしょう。
嬉しいことは? 足りないことは?
店主の加藤裕之さんに、お聞きしていきます。

糸井 「三合菴」が始まってから、ぼくはだいたい、
横目でずーっと見てたんですけど、
‥‥加藤さん、そんなふうに、
いろいろいいところを知っちゃったら、
材料とか何とかって、
いいものを使うようになるだろうし、
お金かかっちゃうでしょう?
それはもう戻れないですよね。
加藤 はい、戻れないですね。
「重よし」さんに関わったことで、
そこは戻れなくなりました。
でも、ぼくも、そうしたかったですから。
糸井 そうでしょう。
雑な言い方をして申し訳ないですが、
材料費って、どのくらい違うイメージですか?
倍くらい違うんですか?
ピンからキリでしょうけど。
加藤 ピンキリですけど、
そば粉だったら、5、6倍は違います。
糸井 そんなに違うものですか。
そば粉って古くなっても
捨てなくてもいいものですか?
寿司ネタと違って。
加藤 いえ、もって、挽いてから3、4日です。
うちでは石臼を置いてないので、
粉屋さんに注文をして、
その日に挽いてもらって、
即日送ってもらうんですが。
糸井 こねる分量っていうのは?
加藤 1日2回で、6キロ。
糸井 初期の頃は、
お客が来なければ、
自分で食べていたんですか?
加藤 食べたこともありますが、
食べる量は、たかが知れてますからね、
結局全部処分していました。
注文を受けてから打つわけにはいきませんし。
粉から、切るところまでで
1回、1時間はかかりますから。
糸井 経営が大丈夫だと思ったのは
どのくらい経ってからですか?
加藤 糸井さんが「ほぼ日」に
載せてくれたぐらいから、
あれよあれよという間に忙しくなっちゃって。
もうがらっと変わったよね?
おかみさん うん。
糸井 あ、そう!
それはものすごく自分が
「重よし」になったような気がします(笑)。
加藤 いやいや、ほんとですよ。
がらっと変わりましたもん。
あれからですね。
糸井 ぼくもね、心配だったんです。
何をすればいいんだろうって、
分かんなかったから。
でもその後、来たら、加藤さんが、
こんなことを言ったんです。
「糸井さん、満卓になりました。
 はじめて満卓になった日、
 ぼくは1回、外に出てから、
 もう1回、満卓の店内を見たんです」
って。俺、今でも覚えてる。
それが俺、嬉しくて。
で、会社に行って、
「いやー、よかったーっ!!!」
て叫んだの。
加藤 はい!
糸井 加藤さんは、こんだけ大変なのに
料理を絶対やめようとしなかったですよね。
昔ね、料理やめてそばだけにすればいいのにって、
心からね、親のような気持ちで思ったんだ。
だけど、あんとき言わなくてよかった(笑)。
おかみさん (笑)。
糸井 そばがあんなに美味しいんだし、
そばに絞って入れ替えしてけば
ここまで大変じゃないのにって。
だって出汁の取りかたから何から全部、
料理とおそばは同じじゃないわけでしょ?
加藤 違いますよ。
糸井 下ごしらえして、仕入れもやって、
でもお客さんが来てないんだとしたら、
危ないですよね、体か金かどっちかが。
でも、そこを食いつなげていったんですよね。
セーフだったんですよね。
加藤 よくセーフになりましたよね。
糸井 アウト直前、
みたいなことはありましたか?
加藤 体力的にはありましたが、
経営的には、ないですね。
おかみさん たとえば、請求書が来て、どうしよう、
お金がない、っていうことはないです、1回も。
それだけは、ないです。
従業員のお給料が払えないという心配も、
していないです。
糸井 それは俺、理由、分かる。
おかみさんがいたからですよ。
おかみさん そうですか? 何でだろ(笑)。
糸井 つまり、加藤さんだけだったら、
その計算、多分、しなかったと思う。
加藤 多分、できないですよね。
ぼくもそう思います。
とんでもないところまで
いっちゃいそうな気がする。
糸井 ね、性格的にそうだと思う。
何とかなるって、自分を励ましてさ。
加藤 (笑)。
おかみさん 彼はいまだにお金をほとんど持たないですね。
お財布の中、3,000円ぐらいです。
糸井 加藤さんは、お金のこと、知らないくらいで、
ちょうどいいんですよね。
やってこれたのは、
奥さんがいたからに決まってますよ、それ。
加藤 そうですねえ。今、ぼくもそう思いました。
あなたのおかげ。
おかみさん (笑)。
糸井 よかったね。そうか、
「重よし」さんの思うつぼですね。
全員 (笑)。
糸井 今までで、いちばん嬉しかったのは
何のときですか?
加藤 いちばん嬉しかったのは
初めてのお客さんが来てくれたときです。
あれは忘れないですね。
何を注文されたかも覚えてます。
8年前のことなのに。
異常に緊張しましたけどね。
糸井 ふらっと来た人ですか?
加藤 ふらっと来てですね、
「にしん蕎麦」を1杯、注文してくださって。
糸井 ああ!
それがいちばん嬉しかったことですね。
ほかには、ありますか。
加藤 この仕事やっていて
すごく素敵な人にたくさん会えることです。
絶対出会えそうもない人と
出会う機会があったりするので。
糸井 うん。あの、それは、
加藤さんの運命ですね。
ここには、ときにすごい人、いますよね、
それでもね、
「ただのそば屋の客」じゃないですか。
経済界の大物も、ロックミュージシャンも、
隣り合ったただの客。
それがいいですよね。そば屋って。
加藤 (笑)。
糸井 不足してるのは、やっぱり「人」ですか?
加藤 はい、人ですね。
糸井 このあいだ、お店を1週間、
休まざるをえないことが
あったじゃないですか。
たしか、厨房の子が‥‥
加藤 はい、爪を怪我してしまって、
調理ができなくなりました。
そうすると、分担している厨房の仕事が
まったく、回らなくなるんです。
ですから、治るまでのあいだ、1週間、
店を閉めました。
糸井 それくらい、ぎりぎりなんですね。
いまは、全部で何人ですか。
加藤 厨房が、ぼくを入れて2人。
洗い場に、夕方からアルバイトで
1人、入ってもらっています。
あと表(接客)が2人です。
糸井 おかみさんと、
もうひとり若い男の子ですよね。
加藤 そうです。
ただ、その子がもうじき辞めることになっていて‥‥。
糸井 じゃあ、表の人もほしいですよね。
それから、やっぱりほしいのは、調理場に入る、
おそばの職人さんですか。
加藤 そうですね。
糸井 年齢とか経験はどうしますか?
おかみさん なんだか、募集要項みたいですね(笑)。
糸井 この取材の最後に、募集のことも
付け加えるという手もあるかなぁと思って‥‥。
なかなか、こういう店の募集って、難しいでしょうし、
こういう店で修業したいっていう人も、
ふつうの求人雑誌とかでは出合えないでしょう。
おかみさん そうなんです。
なかなか、来てもらえなくて困ってたんですよ。
糸井

そうかぁ。
「ほぼ日」に書いたからうまくいく、
というものじゃないとは思うんですけどね。
ひとりでも二人でも、
志のある職人さんと出合えるような可能性は、
きっとあると思うんです。

加藤さんたちの仕事をちゃんと伝えて、
この世界のきびしさをわかってもらったうえで、
それを理解してくれた人のなかから、
ここで学びたいっていう人が現れたら、
最高じゃないですか。
いや、ほんとに、
このインタビューに職人さん募集のことを、
書きましょう。

おかみさん それは、とてもうれしいです‥‥。
糸井 そうですか。ご迷惑でないなら、ぜひやりましょう。
じゃあ、ひとつずつ訊いていきますね。
加藤さんがほしいのは、経験者ですか?
加藤 経験のあるなしは、
どちらでもいいと思います。
糸井 どちらでもいいですか?
加藤 はい。体力と気力があれば。
糸井 採用にあたっての、
テストみたいなことってあるのかな?
加藤 じっさいにお会いするということでしょうね。
全く違う世界の人もいるだろうし、
想像だけが膨らんで、
入ってみたら違ったって思う人が
多分たくさんいると思うんです。
だから少しやってもらって、
人を探したいです。
見習いとして、期間を設けて、
アルバイトとして入ってもらって。
糸井 一般のおそば屋のイメージで
このくらいだろうって思ってるのと、
やっぱり違うことしてるお店ですからね。
見習いを受け入れるというのは、
加藤さんがとてもたいへんになるけれど。
加藤 うちは大丈夫ですよ。
糸井 おたがい、たいへんだという覚悟ですね。
じゃあ、見習い期間は、
どのくらいあればいいですか?
加藤 長くて1ヶ月いてくだされば分かりますよね。
糸井 1ヶ月程度の見習い期間があるということは、
今、勤めてる人とかは無理ですよね。
加藤 いや、勤めている人だったら、
夜だけ来てくださっても大丈夫です。
あるいは土日など、
仕事の休みのときに来てみるとか。
糸井 なるほど。それもあり得るね。
そもそも、ご主人と同じだけ働く人を探すのは、
多分無理なんですよね。
加藤さん、自分の若いときみたいな人がいるとは
思わない方がいいと思うんですよ。
加藤 なるほど、そうですよね。
糸井 「重よし」さんだって、
加藤さんを見つけたときに、
自分とは違う種類だろうけども、
ああ、こういうのがいるんだって
思ったんだと思うんです。
全然タイプは違うんだと思いますよ。
同じような人はやっぱり反発もするし。
加藤 そうですよね。
糸井 永ちゃん(矢沢永吉さん)が
一からそば屋としてやり直したりしたらね、
いちばんいいですよね。
おかみさん (笑)。
糸井 でね、きょうの話だけじゃなく、
三合菴の1日っていうのを
ちゃんと取材させていただいたほうが
いいと思うんですよ。
その、朝6時からのようすを
一日、見学させてもらってもいいですか?
加藤 ええ、もちろんです。
(次回は、「ほぼ日」乗組員が
 三合菴にほぼ1日滞在しての
 レポートをおとどけします。
 見習い募集の要項もお知らせしますので、
 興味のあるかたは、ぜひ!)


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