やっぱり「飲み友だち」である。

──
そもそも、おふたりが出会ったのって、
いつごろなんですか?
酒井
いつだろ。
鮫島
知り合ったときは、
まだ、どっちも起業してなかったよね。
酒井
してない、してない。

たぶん、2005年くらいかなぁ?
農大に入ってすぐのころ‥‥だと思う。
上の子が赤ちゃんだったから。
鮫島
ああ、そうそう、赤ちゃんだった。
──
どちらで、お知り合いに?
酒井
新潟の田んぼ。
──
は。
鮫島
稲刈りだったよね。
──
新潟の‥‥田んぼの‥‥上?
酒井
そう。
──
カマを持った状態で「はじめまして」と?
酒井
あのときサメちゃん、
ずっと「寒い寒い」って言ってたよね。
鮫島
わたし、寒がりだから‥‥。
酒井
このまえ、メールをたどってみたんですよ。

そうしたら、2005年の、
サメちゃんからのメールが残ってて、
「ずっと寒い寒いって言ってて、ごめんね」
と書いてあって、笑いました。
──
暖かい場所を求めて旅する渡り鳥に、
なりたかった人ですもんね。

でも、なぜ、新潟の田んぼの上で?
鮫島
わたし、当時はまだ、
外資系ブランドでマーケティングをしていたので、
稲刈りは、遊び感覚で。
──
はあ。
酒井
その稲刈り大会の主催者が、
わたしたちの、共通の友人だったんです。

うちの会社のロゴ、商品パッケージなど、
すべてをお願いしている
クリエイターの人なんですけど。
鮫島
でも、ここまで付き合いが深まったのは、
わたしが会社を辞めて、
エチオピアへ行くようになってからです。
酒井
そうだね。
鮫島
わたしは、
エチオピアでこういうことがやりたいの、
という夢レベルの話を、
里奈さんに、
囲炉裏の前で、
お酒を飲みながら聞いもらっていました。
酒井
で、紆余曲折ありながら、
ふたりとも、同じくらいのタイミングで、
会社をスタートしたんです。
──
エチオピアと、岩手とで。
鮫島
なので、こんどは起業家どうし、
悩みとか相談し合ったりしているうちに、
仲良くなっていったんです。
酒井
でも、わたしがまだ実験ばっかりしてた段階で、
彼女はさっさとブランドを立ち上げて、
六本木ヒルズで販売するようになっていました。

だから「サメちゃん、すごい!」と思って、
それ以来の大ファンなんです。
もう、わたし、ずっと追っかけてるんです。
鮫島
いやいや、そんなこと‥‥。
酒井
ほんとだよ。
──
お互いにリスペクトし合っている感じ、
すごく、伝わってきます。
酒井
それは、わたしは、すごくありますね。

ちょっと辛いことがあると、
「サメちゃん、エチオピアなんだし!」
と自分を奮い立たせてます。
──
遠いぞ、と(笑)。
酒井
わたしの現場も岩手だし、
まぁ、遠いっちゃ遠いじゃないですか。

日々、大変なこともいっぱいあるけど、
「でも、でも、
 エチオピアにくらべたら近いし、
 日本語も通じるぞ!」
と思って、がんばってるんです(笑)。
──
「近いし、通じる」(笑)。
酒井
わたし、最近は革の仕事もしてるんです。

だから今、痛感しているんですけど、
革のなめし方ひとつとってみても、
天然の方法から化学的な方法にいたるまで、
ベストな方法を見つけるまで、
キリのない戦いがあるわけなんです。
──
ええ。
酒井
サメちゃんは、そんな果てのない戦いを、
わたしが行ったこともない、
遠い異国の地でやっているのが、すごい。

さらに、そうやってつくった商品を、
六本木ヒルズや都会の百貨店なんていう、
またすごい場所で販売してるんです。
──
酒井さんの商品だって、
渋谷のヒカリエだとか、LOFTだとか、
東京のど真ん中でよく見ますけど。
酒井
はい、とっても、ありがたいです。

でも、サメちゃんがよく出店している
百貨店なんて、品質から納期から
日本でも
トップレベルで厳しいところじゃないですか。
──
そうなんでしょうね。
酒井
サメちゃんは、
それらのハードルをぜーんぶ乗り越えて、
エチオピアからバッグを持ってきて、
堂々と、かっこよく、販売してるんです。

わたしにしたら「どっひゃー!」です。
鮫島
里奈さんもブランドをつくっているから、
その気持ちは、わたしも同じです。

だから「大変なんだよ!」と言いながら、
ふたりで、お酒を飲んでるんだよね。
酒井
そう、エチオピアと岩手から集まっては。
鮫島
たとえば、
「アフリカは、こんなにひどいんです。
 岩手だって、こんなに大変なんです」
って言って売ったら、
買ってくれる人、いるとは思うんです。

でも、わたしや里奈さんは、
そういうやり方をしたいと思ってない。
酒井
うん。
鮫島
エチオピアで言えば、飢餓とか干ばつとか、
ネガティブ要素が
メディアでは取り上げられがちですけど、
いいところや、素敵なところも、
もちろんたくさんありますから、
そこに、目を向けてほしいなと思ってます。
酒井
サメちゃんのサイトでも、
「エチオピアは素晴らしい国ですよ」って、
書いてあるもんね。
──
そうなんですね。
鮫島
でも、そんな「いいこと」ばかり言っていると、
どんどん滓が貯まってくるので、
たまーに里奈さんにぶちまけるっていう(笑)。

だから、里奈さんは、
わたしにとって、本当にかけがえのない、
ガスを抜いてくれる人。
酒井
それは、わたしも同じです(笑)。
──
そういう関係性が、いいなあと思います。

エチオピアと岩手とで、
場所も違うし、つくっているものも、
ぜんぜんちがうけど、
ふたりを見ていると、
やっぱりどこか似てるなって思いますし。
酒井
あの稲刈りの日には、
こんな日がくるとは思わなかったなあ。
鮫島
思わなかったね。

あの囲炉裏の前で「寒い寒い」って言いながら、
お酒を飲んでいた、あの日には。
──
おふたりは、同志って感じですか?

起業家同士ですから、
ある意味では、ライバルでもあると思いますが。
酒井
んー、なんだろう。
ただの友だちっていうのとも、違うからね。
鮫島
うん。
酒井
やっぱり「飲み友だち」かな(笑)。
鮫島
‥‥だね(笑)。

<おわります>

2017-05-23-TUE