岩手じゃなければ無理だった。

──
鮫島さんは、酒井さんの化粧品を、
ふだんから使ってらっしゃるんですよね?
鮫島
使ってますよ。
──
もともと化粧品会社にいらっしゃったから、
そこの目は厳しいと思うのですが‥‥。
鮫島
化粧品業界は長かったので、
その内側も、いろいろ見てきてはいます。

オーガニックとかエシカルという言葉が、
単なるマーケティング用語になっている、
そういうブランドも少なくないなか、
里奈さんのお化粧品は、
本当にいい原料だけを選び抜いてるから、
安心して使えるんです。
──
なるほど。
鮫島
里奈さんの会社を中心にした循環モデルも、
本当に、納得できるし。
酒井
わあ、ありがとう‥‥。
──
相手のつくっている製品がギモンだったら、
ここまで仲良くはできませんよね。
酒井
そうかもしれない、それは、お互いに。
鮫島
たとえば夏場なんか、お風呂に入ってから
出掛けることもありますよね。
花火大会だったりとか。

そういうとき、虫除けスプレーなんかでも、
人工的なものを使うのって、
ちょっと‥‥イヤじゃないですか、気分が。
──
たしかに。
鮫島
里奈さんからは、
「売れない」とか「サッパリもうからん」とか、
いろんな愚痴を聞くんですが‥‥。
──
居酒屋で(笑)。
鮫島
そう(笑)、そんなことないと思うんですが、
でも、たとえそうでも、
原料や手法を変えずにやっている姿を見ると、
「わたしも、ちゃんとしなきゃ」って。
──
起業家どうし、いいご関係なんですね。
ジャンルは違えど、切磋琢磨というか。
鮫島
最近だと、ポジティブなことだけを口にしよう、
みたいな考え方もありますけど、
わたしたちは愚痴も含めて、
グダグダ言い合いながら自分に喝を入れてます。
酒井
そういう意味でも、わたし、
彼女の帰国を、楽しみにしてるんです(笑)。
──
酒井さんは、お米由来のエタノールから
何をつくろうかって、
迷っていた時期も、あったわけですよね。
酒井
そうですね。そもそもわたし、
企業コンサルタントになるはずだったし、
エタノールの事業家になるなんて、
思ってもいなかったし、
自分で自分の工場を建てるつもりなんて
考えてみたこともなかったし、
ですから、モノをつくって売るつもりも
サラサラなかったんです。
──
でも、あんまり決めないうちに
現場に出ちゃって、
試行錯誤してるうちに、方向が定まって。
酒井
こんな日々になるとは思いもしなかった。
──
遠いところに「現場」があるって、
いいこと悪いことの両方あると思うんです。

どうですか、そのあたりについては。
酒井
岩手に工場がある「いい点」としては
東京に比べるといろいろ経費がかからない、
ということもあるんですけど、
わたしにとっては、やっぱり「人」ですね。

家族みたいな仲間ができましたし、
今の仕事も、
あそこじゃなかったら絶対できてないです。
鮫島
そうなんだ。
酒井
うん。岩手じゃなかったら、できてないよ。

あれだけ先の見えない事業を
「一緒にやろう」っていってくれる仲間は、
なかなか、いないと思うから。
──
なるほど。
酒井
本当に気持ちを一緒にできる
お米農家さんがいて、養鶏農家さんがいて、
一緒にはたらいてくれる人がいて。
──
ひとつ故郷が増えた、みたいな感じですか?
酒井
完全に「実家感」ありますよね。
人のぬくもりも、すごく心地いいですし。
──
でも、外から来た者としての苦労とかも、
あったんじゃないですか?
酒井
それが、わたしの場合、なかったんです。
鮫島
え、何にも?
酒井
うん。
──
酒井さんのキャラクターもありますよね。
それは、きっと。
鮫島
あるある(笑)。

だって、どんなに有能だったとしても、
とっつきにくければ
コミュニケーション回らないですから。
酒井
運がいいんだと思います、わたし。
いい人に出会える運があると思う。

サメちゃんと会ったのも、そうだしさ。
鮫島
でも、なんか、わかるな。

それ、起業してうまくいっている経営者の
共通点かも。
「いい人に出会えている」ってことって。
──
類は友を呼ぶ、という言葉もありますね。
酒井
単にお米から何かをつくるだけじゃなく、
わたしの事業がきっかけで
人が移動したり、
人同士の交流ができていたりして、
そのことも、ありがたいなと思ってます。

地方ってところは「流動性」が低いから、
へたすると
1年間、知り合いが増えないってことも、
あるらしいんですよ。
──
ああ‥‥。
酒井
東京にいて、何かしら仕事をしていたら、
そんなことないじゃないですか。

だけど、わたしのやっている事業が
人の流れの起点になって、
知らない人が
岩手の外からたくさんやってくること、
そのことで
地域に貢献できてるならうれしいです。
鮫島
自分の仕事の幅も、広がるものね。
酒井
交流がないと、おもしろくないし。
──
多様性が、刺激をくれるんですね。
酒井
そういう意味でも、いつか、
東京にもエタノール工場を建てたいです。

おしゃれなカフェとかで、
お米が発酵して蒸留していくプロセスを、
ビール工場の見学みたいに、
楽しんでもらえたらいいなと思ってます。
──
おお、おしゃれなカフェに、発酵マシン。
おもしろそう、科学実験みたいで。
酒井
野望があります。もう場所も決めてます。
鮫島
えぇ?
──
場所まで、はやくも(笑)。
酒井
はい、野望だけはデッカイんです(笑)。

<つづきます>

2017-05-20-SAT