美しく一緒に歳をとっていく。

──
さっそくですが、
鮫島さんは、どのような経緯で
エチオピアに
シープスキン製品の会社を起こしたんですか?
鮫島
革がいいんですよ、なにせ。エチオピアって。
──
そうなんですか。
革の品質が高いのには、何かわけが?
鮫島
はい、3つの理由があります。

まずひとつは、羊の種類が違います。
わたしたちが扱っているのは
セラシエシープという品種なんですが、
この羊、
「毛」の品質がよくないかわりに、
「革」の品質が最高なんです。
──
ものすごい手触りいいですもんね。
酒井
サメちゃんとこのバッグ、
ずうっと触っていたくなるんです。
鮫島
そこへ、標高と緯度の条件が加わります。

これが2つめと3つめの理由なんですが、
標高の高いところに住む動物ほど、
そして、
南北の緯度10度以内の地帯に住む動物ほど、
革の品質がよくなるそうなんです。
──
エチオピアは、その条件を満たしている?
鮫島
はい。品質が良くなる理由としては、
日照量や寒暖差が影響しているようです。
酒井
太陽って、つくづくすごいなあ。
鮫島
その3つの条件を同時に備えているため、
革業界でも密かに
「世界でもっともクオリティが高いレザー」
と言われているのが、
エチオピアのシープスキンなんです。

ふつうの羊の革というのは柔らかいぶん、
裂けやすいんですけど、
エチオピアのシープスキンは
薄くて軽いのに繊維が丈夫で強度もある。
──
美しくて、軽くて、強い。
鮫島
少しくらい傷がついてしまっても、
油分を足して、手でこすってあげれば、
わからなくなるくらい、キメも細かくて、
まるで赤ちゃんの肌のようになめらか。
しかも、すべて食肉の副産物の革です。
酒井
へえ、そうなんだ!
──
ちなみに
鮫島さんが会社を立ち上げたときは、
職人さんから募集したわけですよね?

ほとんど何も知らない、
何のつてもない、エチオピアという国で。
鮫島
そうですね。
──
それって‥‥うまくいったんですか。
鮫島
いや、最初はやっぱり大変でしたね。

日本の職人みたいな、
「オレの背中を見て覚えろ!」的な習慣は
当然ないですし、
教育の普及率も低かったりして。
──
ええ。
鮫島
うちの職人さんのなかには、
小学校を出てない人も、何人かいます。

中学校を中退‥‥くらいの人が、
うちでは、いちばん高い学歴なんです。
──
なるほど。
鮫島
それに、日本の製品って、
表に見えない内側もきれいにしないと、
製品としてダメじゃないですか。

基本的な知識や技術に加えて、
そういう「姿勢」に関わるような部分も、
はじめのうちは、
なかなか理解してもらえなくて。
──
内側、というのは‥‥。
鮫島
エチオピアで売っている
レザージャケットだとかバッグには、
裏側に‥‥と言っても
もちろん脱げば見えてしまう部分に、
「前身頃」「後身頃」「右袖」「左袖」
なんて文字が
現地の言葉で書かれていることも、
めずらしくないんです。

それもマジックで、デカデカと。
──
それは‥‥
「前衛的なデザイン」ではなくて。
鮫島
ええ、違いますね(笑)。

そういう環境なので、
「表から見えなかったとしても、
 内側まできれいじゃないとダメだから、
 つくり直してください」
と言っても、わかってもらえなかったり。
──
身のまわりに、
内側にまで気を配ってる製品がなければ、
すぐに理解は難しいでしょうね。
酒井
でも、エチオピアで売るならまだしも、
それだと、
日本で買ってもらうには、ダメだよね。
鮫島
最初は、わたしが意地悪をしてるって、
思われていたフシもあります。
そんな、着たら見えない裏側の部分まで
うるさく言ってくるなんて‥‥って。

それで職人さんともずいぶんケンカして、
いい大人なのに、プンプン怒ったり、
ワーワー泣いたりとかしてました(笑)。
──
それは何語で‥‥怒ったり、泣いたり?
鮫島
アムハラ語というエチオピアの言語です。

わたし、少しだけ話せるんです。
もちろん、まったく上手くはないですが。
酒井
その言葉で怒って、泣いてたの?
鮫島
だから、めちゃくちゃ怒ってるのに
「なんで、そんなこと、ゆうんでちゅか~」
みたいに
聞こえてたかもしれない、相手には(笑)。
──
激怒の赤ん坊‥‥(笑)。
酒井
そこから製品のクオリティが高まるまで、
どれくらい、かかった?
鮫島
経験のある職人さんを採用して、
その人に技術指導して‥‥1年半くらい。
──
エチオピアには、
もともと縫製ができる人は多いんですか?
鮫島
いえ、そんなことありません。

未経験で入ってくる人の方が多いですね。
1からぜんぶ覚えてもらってます。
酒井
採用不採用は、どんなところが決め手?
鮫島
知り合いの紹介で来ていただくことが
多いんだけど、
やっぱり
腕の良し悪しよりも性格のほうが大事。

一生懸命仕事に取り組んでくれる人は、
今が下手でも、
そのうちに上手くなってくれるからね。
──
なるほど。職人さんは、
今は何人くらいはたらいてるんですか。
鮫島
11人です。男女は、半々くらいですね。
──
その人数だと、
つくれる量にも限りがありますよね。
鮫島
ええ、すべての工程がハンドメイドなので。

大型のバッグになると、
ひとつつくるのに1週間以上かかりますし。
──
ちなみに、アンドゥアメット(andu amet)、
というブランド名の由来は‥‥。
鮫島
アムハラ語で、
「1年」「ひととせ」という意味なんです。

今のファストファッションって
「この瞬間は最高だけど、それでおしまい」
みたいに、
わたしには感じられてしまうんですけど、
そうじゃないことをやりたい、
という想いで立ち上げたブランドなんです。
酒井
サメちゃんとこのバッグ、
使えば使うほど、ツヤツヤになるんですよ。
鮫島
そうなんです。
だんだん艶が出て、持ち主に馴染んでくる。

手に入れたときよりも、
使い込むほどに美しくなる‥‥というのが、
エチオピアシープスキンの特徴なんです。
酒井
なんか「育てる」って、感じよね。
──
ああ、いいですね。その感じは。
酒井
そう、自分だけのものになっていくんです。

だからわたし、
最近は、見栄えだけ整っていても、
品物としてすぐにダメになっちゃうものは、
買うのをやめたんです。
──
結果的には高くつきますしね、それって。
鮫島
そう、持っていても満たされないし。

安価な洋服をどんどん買って、
1シーズンだけ着てどんどん捨てていく、
みたいな今の風潮って、
やっぱり、
「いいものを買った! 大切にしたい!」
という満足感が、
持てないからだと思うんです。
酒井
うん、そう思う。
鮫島
ビジネスとしては、
そっちのほうが儲かるかもしれないけど、
そうじゃなくて、
このバッグをいつもそばに置いて、
ずっと愛用し続けてほしいと思ってます。

ときどき
メンテナンスをしていただきながら、
幸せなときも悲しいときも、
このバッグが
お客さまの人生に寄り添って、
ひととせ、ひととせ、
ともに時を積みかさねるパートナーに
なってくれたら嬉しいなあって。
──
そういう想いの込められた名前。
鮫島
はい、ともに歳を重ねていく、
そして美しく滅びていく‥‥というような。

そういうブランドにしたくて、
アンドゥアメットという名前にしました。

<つづきます>

2017-05-16-TUE