オトナな会話(仮)
さくらももこ×糸井重里の対談です。

その11
マッチをともして、夢を見るんだよ。


糸井 雑誌読んでたら、川久保玲さんが、
ロンドンに出した店がすごいんですよ。
海岸に朽ちて立っていた掘っ立て小屋を、
店の中にそのまま入れちゃったり
してるんですよ。
で、自分のライバルにあたるような
デザイナーの連中に、スペースをあげて、
好きに使いなさいっていう店を
作ってるんですよ。
さくら へぇー、面白いですね。
糸井 今までは彼女は、
いっちばんいいと思われる建築家と組んで、
お店をデザインしてたんだけど、
今回は、そういうことをやめて、
掘っ立て小屋とか、あとね、そうそう、
店内にね、公衆便所があるんですよ。
さくら ええ〜?(笑)
糸井 簡易トイレがある。
簡易トイレと、海から持ってきた
掘っ立て小屋があるんですよ、
そのスペースに(笑)。
さくら はははははははは。
糸井 それについてのインタビューで、
「自由であろうとすることは、
 ビジネスとして成立すると
 いうことだと思います」
って言ってるんだよ。
さくら ふーん、すごいですね。
糸井 前々から、すごいなと思ったけど、
この人はずっとこういうことやってるんだなと。
で、俺らも、そこまで言い切れないままに
グズグズとだけど、
要するにそういうことをしたいんですよ。
さくら まぁね。
糸井 こんなもの(神のちからっ子新聞)を
書いたり出したり(笑)。
さくら 私、なんかとうとう
きてる感じがするんですよね(笑)。
糸井 する(笑)。俺もそう。
僕ね、おとなになろうとする
努力はしてたんですよ。つまり、
半端に優等生なところが残ってるから、
人がどうやったら
うまくいったみたいな話とか、
一生懸命読むんですよ。
そうするとね、ほぼ全員がね、
ものすごく苦労してるんですよ。
さくら 苦労してるんですよね。ほんとに。
糸井 で、一方で、
「あの人は苦労したと言ってもね‥‥」
っていう噂が、同時にあるわけだよね。
つまりね、立志伝中の人物には、
だいたい泣いてる愛人がいたりね。
数字こぼしたんだけど、
金渡してごまかしたんだとか、
あの人に会って、
もうひどい目に遭いましたよ、って、
そんな話がいっつもあるわけですよ。
家にいたら針のむしろだとかね、
そんな話ばっかりですよ。
その部下は血の小便を垂れて
早死にしました、
悔いはなかったと思います、とかね(笑)。
さくら はははははははは。
糸井 いや、いいですよ、それは。
悔いはなくてもね。
それはSMクラブに行った人がね、
鞭で叩かれすぎて
死んじゃったみたいな話ですから。
さくら まぁね、そうですね(笑)。
糸井 でも、みんながみんな、
その競争は、まずいだろうと。
さくら 糸井さんみたいな感じの、
そういうおとなの人って、
あんまりいないですよ。
糸井 僕ね、さっきの、ももちゃんがまちがって
サバイバル教室に行くみたいな、
そういう経験は、
けっこういっぱいあるんですよ。
できることならば、なるべくみんなに、
いいぞって言いたいじゃないですか。
だから、一応、おとなのすることも、
見るんですよ。
さくら おとなのすることも見る(笑)。
糸井 でも、このところね、
やめようかと思い始めた。
さくら やめてもいいと思うんですよ。
糸井 ももちゃんでもマンガ描いて
必死になって面白がってる時期って、
それは徹夜しようが何しようが、
へっちゃらなときありますよね。
さくら ありましたよ。うん。
糸井 で、それも、それっきゃない、
という状況だったら、ツライと思うんだ。
ももちゃんが徹夜徹夜の毎日を楽しめたのは、
すごい豪華なホテルに閉じ込められて、
「さくらさん、この1週間は、
 460ページの描きおろしを、
 楽しんでいただきますっ!」
なんつって仕事させられたんじゃ
ないからです。
さくら でもね、それ、ちょっとちがうんです。
私ね、あのころね、けっこう辛くて。
糸井 あー。じゃ、マンガに逃げてたか。
さくら まぁ、そういうとこもあったと思います。
だからあんなに描いてたっていうの、
あるんですよね。
缶詰めにさせられたこともあるんですけど。
そのとき、すごく心地良くって。
ガンガン、仕事してたんですよ。
糸井 マッチ売りの少女がさ、
マッチを1本燃やしてはね、
夢を見るのよ(笑)。
それが、あなたと
ケント紙の関係だったんですよ。
さくら はははははははは!!
糸井 クックックッ‥‥。
さくら そうだよねぇ〜。ほんとに(笑)。
糸井 こう、マッチの擦り方とか、
どんどん上手になってくんだね、
夢の見方がね。
さくら うん、だんだんね、派手になって(笑)。
糸井 永ちゃん(矢沢永吉さん)もやっぱり
子どものときに、
ケーキをぶつけられてもね、
舐めたというんだ(笑)。
そして、路地の裏でね、
火を燃やして、眺めてたって。
やっぱりね、夢の見方は、
苦しいことの中で生まれるんですよ。
さくら そうかもね。
私、考えてみたら、今も、
描くのがすごく好きなんですよ。
本気で好きなんです。
で、私、あのときはどうだったろうと思うと、
好きだったんですけど、
こんなに楽しくなかったんですよ。
今にして思えば。
だからね、やっぱり、
大変だったんですね。

ううむ。夢の見方は、
苦しいことの中で生まれる、のか!
明日につづきます!
明日はなんと「欽ちゃん」の話だよ!
2005-05-23-MON
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