第1回 ほぼ日作品大賞の 審査を終えて。  7人の審査員による終了直後の座談会

糸井 それでは、特別賞について。
そもそも、これは「作品」なのか、
というところから話し合って、
特別賞という新しい枠まで
できてしまったという、
「バイオ洗剤とれるNo.1」です。
そうですね、じゃ、卓さんから、まず。
佐藤 はい。この作品は、
環境に配慮した汚れ落とし、
つまり、洗剤みたいなもので、
いわゆる形をもった作品ではない。
糸井 そうですね。
佐藤 すばらしいコンセプトを
もったものだと思うんですけど、
利益率も悪そうですし、
おそらく大企業は取り組みにくいでしょう。
資料によれば、それをご年配の方々が
奮起しておつくりになっているそうです。
そう聞くと、なんというか、
デザイン性はなくても勇気づけられる。
こういうものを受け入れることが
「作品大賞」っぽくていいんじゃないか、
というふうにぼくは思いましたね。
ひびの これが、特別賞に選ばれたのは、
なんと言っても、この作品大賞の前から
糸井さんが使っていたっていう、
そのひと言が力強かったですね。
糸井 そうなんです。
前に一度、「ほぼ日」に
まったく違う企画のことで
メールをいただいたことがあって、
そこからこの洗剤を知って取り寄せたんです。
そしたら、すごく落ちるんですよ。
なんにでも使えるし、おまけに環境にもいい。
ぼくこれで、頭まで洗いましたから。
ちょっと独特のにおいがあるのが
玉にきずなんですけどね。
で、その人たちが今回応募されていたので
「へーー」と驚いてたんです。
ただ、ふだんからこれを使ってるので
逆にぼくは票を入れなかったんです。
でも、ほかのみなさんにも引っかかったようで
それならということで、後押しを。
大橋 いわゆる作品とか、
「ものをつくる」ということとは
ちょっと違ったものですよね。
でも、はっきり目にみえる形をもってなくても
「作品」になるといえるのかもしれません。
例えば、四角い部屋の中に座らせられて、
ノイズの音が流れてきて、
「はい、これはコンテンポラリーアートです」
って言われると、それが現代美術の
ひとつになってしまうように。
実際には、形をもったものが
つくられているわけではないのだけど、
「作品」と言ってしまえば、
作品になるのかもしれない。
そんな風に思いましたね。
しかも、これは間違いなく実用品として
成り立ってますから。
糸井 ああ、いまおっしゃったことは、
「ほぼ日刊イトイ新聞」そのものとも
共通することがあるかもしれません。
というのは、もともと「ほぼ日」って
文書を中心にしたウェブサイトだったんですけど、
商品とか、イベントをつくれるようになったとき、
そういうものすべてを含めて、
コンテンツなんだよって言い方をしたんです。
つまり、「誰かが考えた結果」が
ものという形の、コンテンツになっている。
文章で書く記事も、イベントも、商品も、
みんな「誰かが考えた結果」なんですよね。
この洗剤も同じで、
いわゆる作品としての形は取らなくても、
「こういう洗剤をつくろうよっ」という
「誰かが考えた結果」として
実現したものの形だと思うんです。
佐藤 ええ、そう思います。
こういうものも認めることが
「作品大賞」というものの
今後の可能性を広げていくでしょうし。
糸井 そうですね。
佐藤 まぁ、正直、これ、
プロダクトのデザインとしては
これからという感じですが。
一同 (笑)
桐島 「ほぼ日」で名前と容器を変えて
売り出してくださいよ。
糸井 ない話じゃないですねぇ(笑)。
考えていきたいと思います。
さて、つぎは、みなさんが
ひとりひとつずつ選ばれた個人賞について
ひと言ずつ、コメントをお願いします。
じゃあ、「ペンギンのパラシュート」を
選んだひびのさんから。
ひびの はい。これ、バリエーションを増やして、
価格もぐっと控えめにして、
普及させたいなあと思いますね。
糸井 もう、普及のことを(笑)。
ひびの はい。
一同 (笑)。
ひびの この仕組みで、ほかにいろいろ
つくれると思うんですよね。
桐島 いろんな動物のパラシュートを
つくってみたり?
ひびの そう!
もっというと、パラシュートだけじゃなくて、
この素材でバッグにもなっていたりしたら、
とても楽しいじゃないですか。
だから、これで終わりにしないでほしい。
じゃないと、私がつくっちゃうぞ、
みたいな気持ちですよ。
一同 (笑)。
糸井 受賞者にプレッシャーをかける審査員(笑)。
つぎは、かれんさん。
なにを選んだか教えてください。
桐島 私がいちばん好きなのは、
今回の大賞を受賞した
「カンカンバッチ」なんですけど、
もうひとつと言われたら、この手帳
(「一詩一冊・雨二モ負ケズ手帳」)です。
このこだわりに対しての敬意です。
もうここまでこだわられたら、
値段は見ないで買ってしまうでしょうね。
糸井 これに関しては、
バイヤーの仕入れとしてではなくて、
ひとりの買い物客として、ですよね。
桐島 はい。
どちらかというと、
外に開いている作品というよりは
内向きの作品だと思うんですが、
特別な紙、特別な革を使っていて、
伝統的な製本技術で仕上げてある。
細部へのこだわりが気に入りました。
糸井 この手帳は、
アイディアの切り口のひとつに
宮澤賢治が持っていた手帳と、
その詩のことがあるんですが、
その部分については?
桐島 すいません、
それはどちらでもいいですね。
正直、私には、なくてもいい。
どちらかというと、
惹かれたのは、ものとしての魅力。
製本とか素材の素晴らしさです。
糸井 なるほど。
どんどん行きましょうか。
大熊さん、どの作品に個人賞を?
大熊 僕は、この「がらすのはんこ」を選びました。
単純に、ガラスとはんこの組み合わせって、
見たことなくて、とても新鮮に映ったんです。
オブジェとしてもすごくかわいいし、
作家さんが端材を使って、
そういうこぼれたところから、
作品をつくるっていう発想にも
おもしろさを感じましたね。
ひびの 私もこの作品、好きでした。
糸井 これは、
どうやってつくっているんでしょう。
大熊 きっと、削っているんだと思いますよ。
糸井 それじゃあ、ものすごく
手間がかかっているんですね。
ひびの そう思いますね。
ガラスって、本当に手間がかかるんですよ。
私は体験会のようなところで
つくってみただけでしたけど、
それだけでも大変さがわかりましたから。
糸井 では、大橋さん。お願いします。
大橋 私は、ワイシャツをリフォームした
この服(『かっぽう着』)ですね。
この審査会場には3着しか
届いていないみたいですけど、
書類で見たときに、たくさんの
違った種類のかっぽう着が並んでいて、
その雰囲気がたまらなかったんです。
なんていうんでしょう、
みなさんの選んだものに比べると
ちょっとふつうだったかしら、
とも思うんですけど(笑)。
桐島 いえいえ、私もこれ、気になってました。
糸井 うちのスタッフのなかでも
かなり評判が高かったそうですよ。
大橋 そうですか(笑)。
たしかに、ふつうだったかしら、
なんて言うと、
この「かっぽう着」を
つくった方に悪いですね。
この「かっぽう着」は、
ほんと、好きです、私。
糸井 ありがとうございます。
じゃあ、卓さん。
びっくりしたといえば、僕は、
卓さんが選んだ作品みて、
本当に驚きましたよ(笑)。
佐藤 (ニヤニヤしながら)
この、ふくろうです。
一同 (笑)
佐藤 この、「ふくろうの砂時計」を
選んだ理由も、理屈も、
語りたくないくらいです。
糸井 ふふふふふ。
理論派のあなたが(笑)。
佐藤 ただ、もうなんか、
心を惹かれてしまったというか‥‥。
「なんてかわいいんだろうっ」て、
そう思っちゃったんです。
これ僕からしたら褒め言葉なんですけど、
こういう置物って、
「どうしようもない」感が
あるじゃないですか?
木彫りの置物みたいなね。
ダサいのはわかっているけど、っていう。
「お前、僕が買ってやらなきゃ、
 誰が買ってくれるんだ」みたいな感じ。
本当に‥‥‥‥かわいいっ。
一同 (爆笑)
糸井 正直、卓さんが
普段デザインしているものには、
まったく通じないですよね(笑)。
佐藤 はい。まったくないです。
でも、こういう微妙な置物、
じつは、大好きなんです(笑)。
糸井 こんな佐藤卓、見たことない!
一同 (笑)
糸井 細井さんは、
このお椀(「手つき椀」)ですね。
細井 はい。この作品は、置かれているときから、
自然に指を入れて、こう持ち上げたくなった。
つまり、作者の意図したとおりに、
手に取らせる力が作品にあるということです。
糸井 ああ、なるほど。
細井 別な言い方をすると、つくり手の
「熱いものを入れたときは、
 こう持てばいいですよ」という思いが
この形から明確に汲み取れたんですね。
そして、そんなふうに浮かび上がってくる、
つくり手の「思い」が、なんというか、
とても「いい人っぽい」って思えたんですよ。
糸井 あーー、わかります。
細井 これがいいのかどうかわかりませんが、
僕は、個人的な傾向として、どうしても、
「いい人かどうか」を尺度に
作品を見てしまう癖がありますね。
「すごい稼いでやるぞ」とか、
「俺って、こんな腕がいいんだぞ」
みたいなことのために
つくられている作品というのは、
なるべく選びたくない(笑)。
まぁ、勝手な意見かもしれませんが、
買い手が、もののつくり手と、
長く付く合うためにそこを見るのは、
案外、大切なことなのではないかなぁ
って思うんです。
糸井 ありがとうございます。
じゃあ、ぼくの個人賞について。
このバナナ
(「無着色の木でできたバナナ」)
なんですけど、この作品は、
とにかく、手抜きがないんです。
もうそれにびっくりしちゃった。
なんていうのかな、
どこまでも同じ心で
ひとつの作品をつくっている。
そのつくる心の平らかさ加減に、
感心させられたんです。
佐藤 うん、うん。
糸井 あと、もうひとつ、バナナって、
自分にとっての永遠のアイテムなんです。
佐藤 永遠のアイテム?
それはどういう意味ですか?
糸井 ‥‥そう言われると困りますね。
永遠のアイテムは、
永遠のアイテムですよ。
一同 (笑)


(つづきます)


2010-08-30-MON