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虚実1:99
総武線猿紀行

総武線猿紀行第228回
「え、その場面ホント?
 『ラストサムライ』を2倍楽しもう!」
 〜佐伯先生と新春・武士の勉強〜その15<最終回>〜
「サムライの奥さんとかはどうなってンダ?」


ホリエモン、盛り上がってますね。
僕の周りにも、昔の長髪のホリエモン知ってるよ、
とか色々な言説がとびかってます。
興味深かったのは、先日TVのアンケートで、
40歳以上の人のほうが、
30代以下よりもホリエモン支持率が高かったこと。

ホリエモンのシステムの正当性を駆使する姿が、
受けたのでしょうか?
一方の30歳代以下は、
ネットのウサン臭い面についても
体で知っている世代といえましょう。
ホリエモンは面白いが、
ネットがすべてを呑みこむようなもののいいかたには、
若い人の方が肌が合わないかも。

あと、賛成反対もない盛り上がり派がいますね。
ここまで盛り上がれば
(中身はどうでも)いいじゃないか? という人。
これも一理あります。
ライブドアに球団獲得で勝った楽天のほうも、
結果、盛り上がってますからね〜。
資本主義の原点は盛り上がり。
しかし、その盛り上がりを継続することも
資本主義には必要。
犠牲者が出ないことを望みます。

当サムライシリーズは、無事、犠牲者を出さず、
そろそろ大団円(次最終回)、
最後までどうかご清聴下さい!
レンタルDVDにシャンパン、
湖池屋のガーリックポテトチップでも片手に、
佐伯先生による、確かにお得なウンチク、
新春、新しいジャパネスクなひとときを貴方に‥‥。

先生、こんにちわ。

「こんにちわ」

総ざらいを続けます。
この映画では、勝元の奥さんが強く印象に残りますが、
ふつうの武士ものの物語では妻という存在は、
大物(将軍など)の妻以外、あまり話題にのぼりません。
戦国以前の実戦時代、奥さんは戦にでる夫をかかえ、
一体どのように生活を守ったのでしょうか?
具体的には、奥さんは農作業をしていたとか。
江戸時代の武士の奥さんのイメージもわきません。
ひたすら、沈黙、という感じでしょうか?

「もちろん階級によるわけで、
 中世の下層の武士の奥さんなら、
 農作業もせねばならないでしょうし、
 江戸時代の貧乏な武士の奥さんなら、
 内職の一つもするでしょう。
 また、時代によっても女性の地位は大きく違います。
 中世には、女性もいろいろな力を持っていました。
 鎌倉時代頃までは、戦場で戦う女武者も実在しましたし、
 北条政子は、承久の乱の時に
 武士達を激励する大演説をやってます。
 室町時代にも、
 日野富子は足利将軍家を代表して経済活動をやってます」



女武者というのがいたのですか?
時代がさらに下っての
「アズミ」(戦国時代でしたっけ?)
は存在した可能性ありますか?
いずれにせよ、女子自衛官は、
そうした歴史の封印を解いた
女武士の再来と考えられますね?

「鎌倉時代から戦国時代にかけて、戦争の数は増えても、
 女武者の数が増えたわけではなく、
 むしろ減ったのではないかと思います。
 まあ、もともと、
 数を数えられるほど史料があるわけではありませんが。
 女子自衛官は現代の男女平等思想によるものですし、
 米軍と違って
 あまり直接的な戦闘には加わらないのでしょうから、
 (おっと、男子自衛官も
  “非戦闘地域”にしか行かないのでした)、
 “女武者の再来”といえるかどうかはわかりませんけど」


エラい人達の奥さんはどうでしょう?

「戦国大名の奥さん達も、
 一種の外交官のような役割は持っていたと思います。
 ただ、力のある者、戦争に勝つ者が偉い、
 という価値観の中では、
 女性はどうしても軽視されるので、
 戦国時代頃の“武士道”では、
 “女=バカ”という
 露骨な女性蔑視が見られるようになります。
 江戸時代には、
 それまでの女性蔑視と儒教が合体するので、
 “女は親・夫・子に従え”
 という考え方が支配的になります。
 そうなると、上層の武士の妻は、子供を産んで育てて‥‥
 というようなことが生き甲斐になっていったでしょうね」


なるほど!
奥さんは、時代によって変化していったと考えられますね?
なにもしない従順な“武士道の奥さん”は
江戸時代の奥さんなのですね?
戦国時代の“女=バカ”というのもすごいですが。


武士の姿が江戸時代に実戦がなくなったことによって、
いろいろ変化したことがわかりました。
戦国時代以前の“武士精神の伝統”というようなものは、
江戸に入り、なくなったのでしょうか?
それとも、何か別の形で残っているのでしょうか?

「戦国末期に
 戦場の荒々しい精神として生まれた「武士道」は、
 江戸時代に入って、いろいろな形で受け継がれました。
 大きく三つに分けられると思います。
 一つは、戦国「武士道」をそのまま伝えて、
 『手段を選ばず、とにかく勝て!』
 と教えた兵法家の人たちですね。
 現実には戦争がないわけですから、
 この人達だって実際には戦ったことがないわけですが、
 『現実の戦場では、汚いこともやらなきゃ勝てないぞ』
 とか、
 『人の手柄も横取りするのが、日本伝統の武士道だ』
 とか、いろいろすごいことを教えてたみたいです。
 ある意味では
 これが正統派の『武士道』であるわけですが、
 平和な時代の武士がこれではあまりにもヤバいので、
 儒教精神をベースにした『士道』が、
 江戸時代には主流になります。
 その人達からすれば、
 『とにかく勝てばいい』という『武士道』は、
 『ケンカに強いだけの犬と同じだ』とか、
 『戦国時代の遺物で時代錯誤だ』と、
 厳しく批判されてしまいます。
 『農民や町人の手本となって、
  道徳的に正しく生きることこそ、武士の仕事の本分だ』
 ということになるわけです。
 でも、それではやっぱり武士としてつまらない、
 という人もいます」


現代では葉隠が武士道の代表みたいにいわれてますよね。

「平和な体制に順応しきれない武士らしさを、
 ロマン主義的に表現した代表が、
 山本常朝の『葉隠』です。
 主君をとことん愛して、
 主君が死んだら殉死したいというような情熱は、
 理屈っぽい儒教道徳とは違って、ある意味で文学的です。
 ただ、『葉隠』って江戸時代には
 ほとんど誰も知らないんですよね。
 佐賀藩の中で、
 それもごく一部の人しか読んでなかった異端の書です。
 20世紀に入ってから発見され、もてはやされて、
 あっという間に
 『武士道』の代表みたいなものになりました」


そんな武士道は、
新渡戸稲造によってアメリカから発信され、
欧米に「BUSHIDO」ブームを巻き起こし、
今回の「ラストサムライ」のように
「米国で認められたカッコ良さ」
と日本で流行するわけですね?

さて、新渡戸さんはアメリカから発信をされたわけですが、
こうした欧米でものを学んだ人達は、
日本のナショナリストが
「中国やアジアを植民地化しようとするヨーロッパ、
 アメリカはけしからん!」
というものの言い方に対して
どういうスタンスをとったのでしょう。
アメリカ発の武士道で、
アメリカと戦うことに違和感はなかったんでしょうか?
「や〜め〜ろ〜よ〜」とか、いったのでしょうか?

「さあ、そこからが難しいところです。
 新渡戸自身は、アメリカに行けば日本を弁護し、
 日本にいる時は軍部を批判するというのを
 基本的なスタンスとしたようで、
 日本の国粋主義的な人たちからは
 批判も浴びたようですが、
 『新渡戸はやっぱり植民地主義だ』
 という批判もあります。
 欧化主義者の中に、
 『遅れたアジアから早くから脱出し、
  欧米の国々のように強くなって、
  植民地を持つようになろう』
 と思った人たちもいれば、
 アジアの連帯を唱えた人たちの中に、
 『日本はアジアの中で兄なのだから
  時には弟をぶん殴ってでも指導しなきゃならない』
 みたいな感じで、結局、
 『弟をぶん殴る』ことばっかり考えるようになって、
 植民地ぶんどり合戦に加わろうとする
 欧化主義者と同じになる人もいます。
 一方、『武士道』を讃美しながら
 日露戦争に反対した内村鑑三のような人もいます。
 思想の根っこの所と現実との対応は、
 人によって表れ方が違うんですよね」



それでは最終講義です。
佐伯先生の著書「戦場の精神史」を読んでみましょう。
222ページ

筆者は、近代日本軍に見られる非合理主義や、
偏狭な精神主義は、
むしろ近代日本固有の病理として考察すべきものと考える。
だが、合理的な思考や計画性を欠き、
向こう見ずな勇気ばかりを強調した無謀な戦いが、
「葉隠」の名によって、あるいは「武士道」の名によって
弁護されたことは事実であろう。
それは策略を自明の前提とした「武士道」とは
似ても似つかない精神であり、
おそらく「葉隠」自体とも異質なものであったはずだが、
多くの人がこうした精神を
日本古来の「武士道」であると信じて鼓吹し、
そのためにひどい目にあった多くの人もまた、
それを日本古来の「武士道」であると信じて、
日本人は合理的な思考能力を欠くのだと考えたりした。
「武士道」や日本中世の合戦に関する誤解が生まれる
大きな原因の一つはこのあたりにあったと思われる。


<サエキの解説>

「突撃、全滅」は、本来の武士道や、
おそらく「葉隠」とも別のものであったらしいですね。


佐伯先生に質問を受け付けます!
いよいよ質問受付もあとちょっと!
「ほぼ日」までよろしくお願いします。


佐伯真一先生
1953年生まれ
専門は中世文学
同志社大学文学部卒
東京大学大学院文学研究科博士課程終了
著書に「平家物語遡源」(若草書房)他




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ゲスト サエキけんぞう、鈴木さえ子

会場:Blue Jay Way(ブルージェイウェイ)
●東京都渋谷区神宮前2-32-5 原宿フェイス8953ビル B1
http://www.bj-way.com/
TEL 03-5785-1148FAX 03-5785-1203
JR山手線原宿駅(竹下口)から徒歩8分
地下鉄千代田線明治神宮前駅
5番出口から徒歩6分

というのに急遽よばれました。
YMOの再発を記念し、
細野さんのテクノ歌謡系スタジオ経験の豊かな
鈴木さえ子さんをお招きし、
80年代のニューウェイブシーンについて語る
珍しいトークライブになります。
急なお知らせになりますが、
80年代に興味のある方は是非、お越しください!
第八回 サエキけんぞうのテクノエレガンス
2005年3月25日(金)at. 青い部屋


OPEN 19:00 CLOSE 23:00
CHARGE : \2,800(1D)/\2,500(1D/ADV)

【GUEST LIVE】
SOYUZproject(福間創 Yapoos ex.P-MODEL ,)
ゲリラチャン
ELEKTEL
【GUEST DJ】
サラーム海上
【テクノ情報局】
サエキけんぞう&平田順子(元FLOOR net編集部)
【HOST BAND】
ジーニアス
【DJ】
ELEKTEL
【VJ】
faction bleu

豪華!現在戸川純のバンド、ヤプーズのメンバーで
90年代Pモデル在籍の福間創のSOYUZprojectと、
細野晴臣プロデュースのオムニバス
「Strange Flowers Vol.1」にも参加した
「地獄のピンクレディー」の異名も持つ
女性エレクトロ2人組ゲリラチャン、
新作を発表するエレキテルに、
エレクトロニック指向でエスニック界史上最強
DJ&ライターのサラーム海上が回します!
ジーニアスなどレギュラー陣も強力、
持ち込み音源かけるコーナーあり! CDR持って行こう!

青い部屋
東京都渋谷区渋谷2-12-13八千代ビルB1F
tel / fax 03-3407-3564
青い部屋事務局
渋谷区渋谷1-20-22北沢館402(火土日祝日定休)
tel / fax 03-3406-2322 info@aoiheya.com
サエキのHPがブログになったよ。
トラックバックとか、コメントとか入れてくれんかいのう。
http://www.saekingdom.com/

サエキさんへの激励や感想などは、
メールの表題に「サエキさんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2005-03-10-THU
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