自分の字を好きになるためのシリーズ Vol.1   六度法で、 きれいな字 富澤先生が教えてくれた3つのルール。
 
その5 「六度法」卒業試験
──── 富澤先生、ありがとうございました。
ひとまずこれで、
「六度法」の基本を教えていただいたと、
そのように考えてもよろしいでしょうか。
富澤先生 そうですね、細かい部分は抜きにしまして、
3つのルールを踏まえていただければ、
まずはきれいな字の領域に入っていけると思います。
──── なるほど、わかりました。
それでは、生徒のおふたりにはですね、
本日の授業を振り返って、
基本編の卒業試験のようなことを
やっていただこうと、思います。
西田 卒業試験?
ナカバヤシ な、なにをやるんですか?
──── 目の前のホワイトボードに、
「ほぼ日刊イトイ新聞」と書いてください。
西田 ああーー、それはきつい。
──── それを先生に採点していただきます。
ふたり ええーーー(笑)。
富澤先生 採点しましょう(笑)。
ナカバヤシ すごい、困った、ドキドキする(笑)。
──── ちなみに、
「ほぼ日刊イトイ新聞」の中には、
漢字、ひらがな、カタカナがぜんぶ入ってます。
西田 はあー、そうかあ、そうですね。
ナカバヤシ ホワイトボードに書く前に、
ちょっと練習させてください。
西田 自主練させてください。
──── わかりました。
でも、ちょっとだけですよ。
ナカバヤシ ひゃー(練習する)。
西田 うわぁ(練習する)。
──── ‥‥ん?
西田くん、その字は‥‥。
西田 え? なんですか?
‥‥あ、まずい、これはまずい、ほんとにまずい。
(書いた字を塗りつぶす)
──── まさかの、誤字。
新聞の「新」の字を間違えました。
「親」と書いてしまいました。
「ほぼ日刊イトイおやぶん」(笑)。
西田 き、緊張してるので。
──── ターイム・アーーップ!
練習終了ー。
では、ホワイトボードに書いてください。
どちらからいきます?
ナカバヤシ ‥‥‥‥‥‥。
西田 ‥‥‥‥‥‥。
ふたり ‥‥さいしょはグー、
ジャンケン、ポン!
ナカバヤシ 勝った。
‥‥先に行きます(立つ)。
西田 先ですか。
ナカバヤシ 当然です、
進んで先に行くべきでしょう(前に出る)。
‥‥自分の名前も書くんですか。
──── もちろんです。
テストは、名前書かないと零点です。
ナカバヤシ わかりました。
じゃあ、書きます。
‥‥ひゃあーーー、緊張(笑)。
西田 ナカバヤシさん、がんばって。
ナカバヤシ ‥‥(集中)。
西田 ‥‥‥‥あ、きれい。
ナカバヤシ (書きながら)このホワイトボード、
薄くマス目が書いてあるんですよ、
だから右上がり六度で書きやすい。
西田 それはほぼ日手帳といっしょですね。
ナカバヤシ ‥‥(書いている)‥‥よいしょ。
こうやって‥‥こんな感じでどうでしょう。
西田 すごい、きれいです。
ナカバヤシ じゃあ、次、西田くんも。
西田 ‥‥はい(ボードの前に立つ)。
ナカバヤシ リラックス。
西田 ‥‥よし。
ナカバヤシ すごい集中力(笑)。
西田 ‥‥(集中)。
富澤先生 ‥‥‥‥。
西田 ‥‥‥‥イトイ‥‥新‥‥
親じゃなくて‥‥新‥‥聞‥‥と。
はい‥‥書けました。
──── お疲れさまです。
ありがとうございました。
じっくり眺めてみましょう。
これがふたりの作品です‥‥。
ナカバヤシ ‥‥どうなんでしょう?
西田 恥ずかしいものですね(笑)。
──── では、富澤先生、
お願いいたします。
遠慮なく点数を付けてください。
富澤先生 ‥‥(ホワイトボードに歩み寄り)わたくし、
感心して拝見していました。
中林さん、93点。
西田さん、87点。
一同 おおおーーーーー!(拍手)
ナカバヤシ すごい高得点。
西田 よかったぁ、やさしい先生で。
一同 (笑)
富澤先生 おふたりとも、右上がり六度を
十分に意識されていましたので、
それだけでかなり合格点なんです。
ナカバヤシ 右上がり、気をつけました。
富澤先生 中林さんは、最初のこれですね。
「中」の角度から、もう、すばらしいです。
ナカバヤシ ありがとうございます。
富澤先生 西田さんも、いいですね、この角度。
西田 ありがとうございます。
富澤先生 「日刊」という漢字も、右上がりで、
右下に重心をしっかりかけてくださいました。
富澤先生 西田さんも、ここはいいですね。
ナカバヤシ カタカナでちょっと迷ったんですよ。
西田 そうそう、右上に六度が‥‥。
富澤先生 それは先ほども言いましたが、
「イ、ト、ノ、ヘ、ム、メ、レ」の
7文字だけは例外で、
六度法に当てはまらないんです。
ナカバヤシ あ、そうでした、うかがいましたね。
西田 「イトイ」は六度法ではなく、
ふつうにていねいに書けばいい。
富澤先生 そうです。
あとはそうですね、
惜しかったのは「新」の字です。
右側の書き出しを、
もうすこし上から、
六度上から書けばもっと落ち着きます。
ナカバヤシ あーーー。
富澤先生 すこし細かいことを言いますと、
中林さんの「林」という字は、
このようなバランスでお書きになりますと、
また安定してまいります。
ナカバヤシ ほんとですね‥‥。
富澤先生 さらに、書いているところを拝見してまして、
お名前の書き順が違うようで。
ナカバヤシ え。
富澤先生 「華」と「恵」という字はですね‥‥(書く)、
このような書き順になります。
ナカバヤシ ‥‥どうしよう、わたし、
ずーっと書き順を間違えてました。
西田 えー(笑)。
富澤先生 正しい書き順のほうが書きやすくもありますし、
理にかなった動きで整って仕上がります。
ですので、ご自分のお名前の書き順は
覚えておいたほうがよろしいかと。
ナカバヤシ ありがとうございます、そうします。
いやぁ、ずっと正しいと思ってました。
──── さて、いかがでしたでしょうか、
今日の授業は。
ナカバヤシ はい、たのしかったです。
この短時間で簡単なルールを教えていただいて、
こんなに効果があるんですね。
西田 ちょっと、やっぱりびっくりしました。
ぼくはもう、もともとがほんとに
きたない字だったので、
はっきりときれいになったと自覚してます。
あとは、このていねいさを維持したいです。
──── 最後に、先生に質問があれば。
ナカバヤシ 左利きの人は、どうなるのでしょう?
富澤先生 左利きのかたの場合も、何も変わりません。
3つのルールは、まったく同じです。
ナカバヤシ 右上がり、六度で書いて。
西田 文字の右下に重心をかける。
富澤先生 そう。
点や線の間隔を等しくするというのは、
わりと自然にできますので、
重要なのは、第1第2のルールで、
それはまったく左利きの方も同じです。
西田 筆記具の持ち方は、どのように?
富澤先生 それについて私はですね、
「お好きなように」って言ってるんです。
西田 あ、そうなんですか。
富澤先生 どんな持ち方でも構いません。
極端なことを言えば、
グーで握って書いたって構わない。
ナカバヤシ へええーー、自由なメソッドですねぇ。
富澤先生 例えば、申し分ない持ち方をしても、
「川」という字を非等間隔で書いたら
きれいな字にはなりません。
つまり、どんなふうに持とうが、
3つのルールを使うことが
カギになるということですね。
西田 3つのルール、すごいな‥‥。
ナカバヤシ いやぁーー、おもしろかったぁ。
西田 おもしろかったです。
この時間ですごく自分が成長したような。
富澤先生 よかった(笑)。
ナカバヤシ 富澤先生、
きょうはほんとうにありがとうございました!
西田 ありがとうございました!
来年の手帳は、積極的に使えそうです。
(この連載は、これでおわります)
※最後に、富澤先生から
 メッセージをいただきました。

読者の皆様へ

ご愛読、ありがとうございました。
2月末に、1006字のモデル字集がNHK出版から出ます。
また、速書き(行書)も覚えたいという方は、
次の本で自学なさってください。
殴り書きでない速書きになります。
『大人の速書(はやがき)ノート』(小学館)
『簡単ルールで大人の字を書く練習帳』(NHK出版)
『きれいな字を速く書く技術』(中経文庫)
子ども向けには、
『どんな子でもきれいな字が書ける本』(PHP研究所)

2011-12-18-SUN
 
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