おいしい店とのつきあい方。

017 シアワセな食べ方。 その8
おいしいものをつくろう、という心。

料理長から、おいしいティラミスの
作り方を教えてもらった母。
それからいろんなお店に行っては
プロの秘密を教えてもらい、
それを手帳に残すことを始めました。

とびきりにおいしいステーキの焼き方。
ただのパプリカを極上のムースに変身させるテクニック。
安い豚バラ肉を、ふっくらとして
カリッと揚がった極上の酢豚に仕上げる方法などなど。
母のノートには次々レシピが書き溜められていきました。


和食あり。
フランス料理やイタリア料理、中国料理あり。
その内容はさまざまで、けれどそれぞれの共通点が
「手に入りやすい素材で
ちょっとコツを覚えればできそうな料理」
であるということ。
おかぁさんって、
作れそうな料理のレシピばかりを集めるよね。
どうせだったら、
珍しい料理のレシピを訊けばいいのに‥‥、
って聞いたことがあります。

答えは明快。

「だって、私が鳩のローストを作る姿が想像できる?
さぁ、公園にいって
晩ご飯の食材を調達しようかしら‥‥、
なんて罠を仕掛けるところなんて見たくないでしょう。
私はレシピを集めたくって
シェフに聞いているわけじゃないの。
この料理だったら、作れるかもしれない。
でも、せっかく作るんだったらおいしく作りたいから、
シェフの知恵を拝借したい‥‥、
ってそう思うから聞いたレシピを
大切に扱うことができるのよ」

そういえば、知り合いのシェフが
こんなコトを言っていました。

「この料理はおいしかった。
どうやって作ってらっしゃるんですか?
と聞く人がたくさんいらっしゃる。
でも、そういう方はその料理を作りたくて
レシピを聞いているわけじゃないんだね。
ただ、調理人と話をしたい。
そのきっかけとして、
どう作っているのかと聞いているだけ。
だからレシピを教えて差し上げても上の空。
丁寧に、一生懸命説明すればするほど、
関心のなさそうな表情になる。
『このソースは、これとこれを使って
こんなふうにして作っているんじゃないかと
思うんですけれど』
‥‥というような感じで質問をする人がいる。
あぁ、この人はこのソースを
本当に作ってみたい人なんだなぁ‥‥、
と、真剣にお教えしたくなる。
ただ、うちのソースは簡単にできるものでも
3日くらいはかかっちゃうから、
お召し上がりになりたければ、
いつでも当店へお越しください‥‥、
っていうことになっちゃうんだけどね‥‥」

って。

母は今では四国、高松で一人暮らし。
実家のある町。
昔からの友人もたくさんいて
さみしくはないのだろうと思いはするけど、やっぱり心配。
大丈夫? ‥‥、って聞くといつも母はこう答える。

「夫のため、家族のために生きる人生を一区切りして、
ひとりでのびのび生活する日々を
こころおきなくたのしんでるの」

‥‥、と。

「ひとりでレストランに行っても、
この料理はどうやって作られてるんだろう‥‥、
って思いながら食べるとあっという間だし、
とてもたのしい。
ひとりで料理が出てくるのを待つのも、
今、どうやって作っているのかしらと思って待つと
退屈なんかしないもの。
今でもレシピノートをもって食事に行くのはたのしいし、
シェフのサインは増える一方。
おいしい記憶が増えていくのは
いくつになってもうれしいコトネ」

でもひとりで料理を作って食べるのってつまらなくない?
‥‥、って聞くとスマフォを差し出し笑顔でいいます。

「写真を撮るの。
自分で作った料理は上手にできても、
できなくっても写真に撮る。
毎日、どんなものを撮ったのかあとで見直して、
最近、野菜を食べてないわ‥‥、
野菜の料理を作らなくちゃって思ったり。
高松に引っ越してきた直後は、
うどんばっかり食べてて
アルバムを開くと白々(しらじら)してたりしたものよ。
お医者様にそれを見せたら、
『サカキさん、これは太る兆候ですよ』
って言われたときにはもう手遅れで、
3ヶ月で2キロ太って大変だった。
本当に良くできたときには
誰かに褒めてもらいたくって
しょうがなくなるんだけれど、
あなたに送ってもいいかしら‥‥」

そこでLINEに家族みんなでグループを作って、
おいしい料理の画像をいつも送り合ってる。
おいしいモノを作りたくなる気持ちは、若さの秘訣です。

2018-03-01-THU