おいしい店とのつきあい方。

年末年始番外編。 その1
大切な人を元気づけたい一心で。

先日、ひさしぶりに行った日本料理店での話です。
厨房で調理人たちが料理を作るさまを
間近に楽しむことができるカウンターがたのしいお店。
上等な料理をくつろいだ雰囲気で味わえる。
料理長でもあるご主人の、
お客様との接し方があたたかくって、
おいしいご褒美を食べたくなると
まず頭に思う浮かぶような店でもあります。

平日の夜でした。
予約でほとんどの席が埋まっています。
相変わらずのご繁盛でなによりです‥‥、
なんて会話を交わしながら、
一皿目の料理に手を付けようかと
していたときのことでした。

落ち着いた男性にエスコートされて、
女性がお店に入ってきました。
その左腕は包帯でグルグル巻かれて、
首から吊り下げられているという、
ちょっと痛々しい姿。

カウンターの左端の席に彼女が、
男性はボクの隣に座りました。

「今日はご迷惑をおかけします‥‥」
と、女性がお店のご主人に。
「いえいえ、たのしみにお待ち申し上げておりました」
と店のご主人が笑顔で答える。
お店の中にちょっとした緊張と、
遠慮気味の好奇心が漂います。

腕を骨折して、
料理を食べるのに不自由している自分の彼女。
元気づけてあげたいからと、
何か気晴らしになることはないの?
と聞いたら、おいしいものを食べたいという。
彼女、フランス料理が好きだから‥‥、
と思ったんだけれど、
片腕が不自由な状態だと
ナイフ・フォークを操ることはむつかしい。
日本料理なら箸で食べられるから、
利き手の自由がききさえすれば、
と思ってお願いをしたんですよ‥‥、
とエスコート役の男性が言う。

大きな店ではないですから、
このご主人とのやり取りはボクらの耳にも自然と入る。
なるほどそうか‥‥、とホッと合点し、
でも本当に片手で
日本料理を食べることが出来るんだろうか?
と好奇心が次へと向かう。

だって日本料理は、
世界にも例を見ないほどにみずみずしい料理です。

その花形はお椀もの。
丹念にとった出汁を味わう料理で、
味わうためにはお椀を片手で持ち上げて、
中の具材を箸でつまむコトが必要。
醤油にひたして味わう刺し身も、
ぼんやりしてると醤油が垂れる。
食べるために器を手に取り持ち上げることを
要する料理を、片手でたのしむ‥‥、
ってこりゃ、大変なことかもしれないと
彼らに提供される料理のひとつひとつが気になって、
もう気もそぞろ。

ご主人、そんなボクの気持ちを知ってか知らずか
ひとつひとつの料理を丁寧に説明します。
その説明がすべて
「片手で安心して召し上がっていただけるよう
工夫をしました」という内容で、
それでなおさら気になって
出て来る料理を見たくてしょうがない気持ちが
エスコート役の隣の男性にも伝わったのでしょう。
ご覧になりますか‥‥、
って料理のひとつひとつを見せてくれた。

感心しました。

お椀は持ち手のついた木製のマグカップの中に、
蕪や白子をすり流しにして
ポタージュみたいな状態にする。
スプーン入らずで片手で飲める。
刺し身は切り身のひとつひとつに塩やポン酢のジュレ、
乾燥させた醤油をほどこし
タレを心配しないで口に運べるようになってる。
ほとんどのものが一口大に切り分け、
うつくしく盛り付けられて、
中には歯ごたえをたのしむように塊のままの食材もあり、
けれどそれらは味をしっかり料理の中に閉じ込め
脂や汁が滲み出さないような工夫がなされてる。

なによりいいなと思ったのが、
エスコートの男性も腕を怪我した女性も
同じ料理が供され、たのしんでいるというところ。
ハンディキャップを抱えた人を特別扱いするのではなく、
ハンディキャップをもった人を含めて
ひと組を丸ごと特別扱いする。
同じものを食べる、食べたという経験が、
どんなゴチソウよりもゴチソウなんだなぁ‥‥、
と感心しながら、そろそろコースも〆にくる。

おむすびでした。
炊きたての御飯を塩でむすんだ塩むすび。
濡らしたザルにのせたのに、
炙ったばかりの海苔が別添えでついてくる。
エスコートの男性がご主人の顔をキリッと見ました。
片手で海苔をくるむというのはぎこちなく、
なんでココに来てこんな配慮のないことを‥‥、
って感じで訝しげに。
ご主人、笑いながらこう言います。

大切な人のためにおむすびを海苔で巻く‥‥、
ってそれが本当のエスコートではございますまいか‥‥、
って。

つまり、男性に手伝うことを仄めかしたのですね。

横で聞いているボクも、
「あぁ、いい経験をさせてもらった」。
件のカップルも大いに満足したようで、
特に女性は
「ご迷惑をおかけいたしましたが、
本当にありがとうございました」
と恐縮しながらお礼をいいます。
ご主人ニッコリ。

いえいえ、ワタクシどもも頭のしぼりがいがございました。
勉強させていただけるお客様に、
鍛えていただけるのはシアワセですから
またなんなりと‥‥、って。

そういえばこの夜のすべてのコトは、
大切な人を元気づけたい一心で
ココに電話をかけた勇気からスタートしてる。
何事も、あきらめちゃ損。
だって世の中にはたのしいコトに貪欲な人と、
たのしませることが大好きな人が
たくさん生きているんですもの。

さて来年がみなさまにとっても
すばらしい一年でありますように。
来年のはじめは、
「食事を楽しむことに貪欲であるコト」を
ちょっと考えてみようかなぁ‥‥、と思っております。
また来年。

2017-12-28-THU