おいしい店とのつきあい方。

131 ごきげんな食いしん坊。その25
玉子サンドを切る、母の方法。

たっぷり玉子サラダをはさんだサンドイッチ。
母はいつも、四角い食パンの角を対角線につないで、
X字型に切り、三角形4つに切り分けていた。
他のサンドイッチのときには
長方形になるように包丁を入れることが多かったのに、
玉子サンドイッチのときは、必ず4つ。
一切れひと切れは底辺の広い二等辺三角形になるように
切られていました。

なぜあの形だったの‥‥、って聞いたことがある。
そしたら母は長方形に切ったサンドイッチと、
二等辺三角形に切ったサンドイッチを
お皿に立てて並べるとき、
どうするか考えてごらんなさいってボクに言う。

「長方形に切ったサンドイッチは、
切った面のどちらかがお皿に触れるように並べる。
一方、二等辺三角形に切ったサンドイッチは、
切られていない面。
つまり食パンの外側の面が
必ずお皿に触れるように並べられることになるでしょ。
だって、その面が一番長くて
お皿の上で収まりがいいから」

玉子サンドイッチを切るときに、
どう注意してもパンから玉子サラダがこぼれて飛び出る。
長方形に切ったサンドイッチは
パンの両側から玉子サラダがこぼれだし、
それを露わにしたまま盛り付けることになる。
包丁でパンの中に戻すこともできるけれど、
パンを玉子サラダがよごしてしまってうつくしくない。
二等辺三角形に切ったときも、玉子サラダはこぼれだす。
でも、そのこぼれだした面を下にして
サンドイッチを立てることになる。
だからこぼれだした玉子サラダが気にならない。

「むしろ、こぼれだした玉子サラダが
接着剤の役目を果たして
倒れにくくなるって効果もあるからいいのよ」
‥‥、って。

なるほどこぼれだしてしまうということを逆手にとる。
さすがと思って、それからずっと
玉子サラダのサンドイッチやツナサンド、
あるいはポテトサラダのサンドイッチは
大抵、この切り方で切ることにしてる。

それにしてもキレイに切れた断面でした。
しかも冷凍食用のナイフなんかなかった時代の話です。
サンドイッチ用ナイフなんて言葉もなくて、
その状況で母はどうやってサンドイッチを切っていたのか。
母に先日聞いてみた。
答えにボクはビックリしました。
切るための道具を2種類使い分け、
切り分けていたというのです。

まず先の尖ったなるべく細い包丁を用意する。
母の場合は、フルーツの皮を剥くための
細い包丁だったそう。
それを食パンのちょうど真ん中にグサッと刺し込む。
上からまっすぐ刺したら抜く。
母曰く、パンが刺されてしまったコトを
意識しないくらい素早く、
必殺仕置人になったつもりでぐさっと。
刃の方向は、本来パンを切り分けるため
包丁で切り目を入れる方向‥‥、
つまり対角線状にある角を目指して斜めにぐさり。
バツ印になるよう再び包丁の方向を変えグサリを突き刺す。

それから2つめの切る道具。
それがなんと、包丁じゃなくて
ナイフフォークのナイフだったんだという。
しかもステンレス製のペナペナした
薄いナイフを選ぶのが、
玉子サンドイッチをキレイに切るためのコツだった‥‥、
っていうのです。

母はこういう。

「包丁の刃の断面は楔形。
上に向かって徐々に厚みを増していく。
刃が素材に圧力をかけ、割くようにして割り切っていく。
固いものを切るときにはいいんだけれど、
やわらかいパンのようなものを切ると、
刃がパンを巻き込んでいく。
一緒に玉子サラダも巻き込まれ、
断面スパッとはいかないのですね。
だからダメ。
薄くて刃の厚さが均等なものなら
やわらかい素材も巻き込まれることなく、
パンも玉子サラダもスパッと切れる。
ただ薄いナイフの刃そのものは鋭くないから、
一番最初のとっかかりを
先の鋭い包丁でつけてそこを手がかりにする。
切り目にナイフの刃をあてて、
力を入れずそっと動かすだけでスパッと切れてくれるの。
気持ちいいほど。

それにネ。
急いでるときにはナイフを何本も用意しておくの。
ナイフや包丁はひと切りするごとに洗って
キレイにしておかないと、
切れ味が悪くなるし断面が汚れてしまう。
包丁を何本も揃えておくことはできないけれど、
ナイフならたくさんあるから
急ぎのときには使い捨て感覚で
何本もナイフを使って切り分ける‥‥、
ってこともできるの。
便利でしょう?」

なるほど、ボクが今、サンドイッチを切るために使う
冷凍食品用の波刃包丁も上から下まで厚さは同じ。
しかも薄くて母がステンレスの
薄いナイフを使っていたのと同じ原理か‥‥、
って思ったりした。
オモシロイ。

ところでシンイチロウ。
あなたが小学生の頃、
ナイフのことでワタシに叱られたことを覚えてる?
覚えてますとも。
それからのボクの人との付き合い方を
大きく変えてくれた出来事。
来週ちょっと寄り道です。

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2017-09-28-THU