おいしい店とのつきあい方。

101 お店の情報とのつきあい方。その27
へんてこりんな配膳。

SNSに掲載されている料理の写真で
時間潰しをすることがあります。
移動の途中で持て余した時間を、
ランダムにいろんなお店の料理の写真を見比べる。
同じ名前の料理なのに、
なんでこんなに見た目が違うんだろう‥‥、
って感心しながら見ていると
あっという間に目的地に到着できる。
見ているうちにお腹が空いてしまうのが
なやましいところではあるけれど、
大抵の場合、目的地でボクを待っているのは試食の仕事。
よきアペタイザーになってくれている‥‥、
と思えばそれもまたたのし。

しかも「間違い探し」をたのしむこともできたりする。
ちょっと意地悪な私的タノシミ(笑)。

写真の中にうつりこむさまざまな間違い。
案外あるものなんですね。
とは言え、料理においてはお店それぞれに流儀や創作、
アレンジがあってだから、
どれが正解、どれが間違いと一概には言えぬモノ。
だからその間違い探しのほとんどは、
お料理の周りに見つかる。

例えばナイフとフォークの位置が
左右、入れ違ったりするようなコト。
たまたまその人のときだけ、
お店の人が間違ったのかなぁ‥‥。
あるいは、食事途中にお客様が入れ替えて、
それで写真を撮ったのかもネ‥‥、とか。
もしかしたらその写真を撮った人がたまたま左利きで、
それに合わせてお店の人が
ナイフ・フォークの位置を入れ替えてくれていたとしたら
ステキだなぁ。

‥‥、とそんなコトを思いながら見ていると、
それぞれの店の「料理をたのしんでもらう」
というコトに対する考え方が伝わってくるようで、
見ていて飽きない。
ナイフ・フォークを両方まとめて右側に置く。
あるいはバスケットやマグのような
容器に入れて置くスタイルも、
それぞれの店の楽しみ方にたいする提案‥‥、
と思うとなかなか見ごたえがある。

ただ、西洋料理のテーブルの上のありようには
寛容になれるのだけど、
日本料理のそれにはかなり厳しく見ちゃう。
お箸の位置や置かれ方。
食器の置き方。
料理の姿。

先日、とあるチェーン店で
へんてこりんな配膳に出会ったのです。
もともと洋食のレストランとしてスタートし、
ただのお腹いっぱいを売るのではなく
「料理文化を気軽な値段で売る」
というコトに執着していた会社でした。
洋食だけではお客様の利用動機がふくらまない。
だから和食も積極的にというコトで、
和定食のような商品にも力を入れるようになった。
それでためしにとってみたのです。
お膳にキレイに器が並んでやってきます。
メインディッシュにご飯に汁。
お新香、小鉢とそれぞれ料理はうつくしく、
食欲さそう内容。
なのにどこか違和感がある。
居心地悪く感じるのです。

理由は本来、手前の右に置かれる汁が、左の後ろ。
つまりご飯が入った茶碗の後ろに置かれてる。
これは何か間違いであるに違いない‥‥、
と思ってためしにSNSのその店のページを
開いて写真をみました。
するとどれもがそういう配置。
メニューブックを持ってきてもらって、
写真をみたらそういう配置で写ってます。
もしかしたら、そのように並べようとしても
器の大きさのためにできないのかと思って
並べなおしてみたら、
正しい配置でキレイにお膳の上におさまる。
なんと面妖で不思議な出来事。

聞いてみました。
なんで、こんな配置にしたの‥‥、と。
答えはこうです。

器は左手で持ち上げるので、
左側に集めたほうが扱いやすいという
お客様の声を反映してこの置き方にいたしました‥‥、と。

なるほど。
左手で持ち上げるお椀が右手に置かれていると
移動距離も長くて粗相をする確率も上がるということ‥‥、
なのかもしれない。
だから左奥に置く。
けれどこれって、
茶碗もお椀も片手で持ち上げ
片手でお膳に戻すということを前提としてる。
なんと品のないことよ‥‥、としんみりしました。

お椀はそもそも右手を添えながら左手で持つ。
その左手の指の間に箸を挟んで、
ほどよき位置までお椀を持ち上げた後、
右手で箸をとって汁を食べるというのがよき所作のはず。
そのときもしも、お椀が左の奥におかれていたら
洋服の袖が料理にふれたりするから、
それで長い歴史の中でお椀は右手の前に置く。
そのように決まったのでしょう。

優雅な所作や伝統を知らぬお客様からの意見に負けて、
へんてこりんな配膳をした。
あぁ、食の文化を売っていた会社が
お客様の声に負けちゃうコトがあるんだ‥‥、
と、一旦思った。
けれど待てよ‥‥、と。
おそらく別の理由で
こういう配膳になったんだろうと思い浮かんだ。

文化が仕組みに敗北したという、そういう話を来週に。

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2017-03-02-THU