おいしい店とのつきあい方。

080 お店の情報とのつきあい方。 その6
やせ我慢をたのしむ場所。

25席という謎めいた席数。
カウンター席があるわけじゃない。
お誕生日席のようなテーブルがあるわけでもない。
椅子の数を自由に設定できる円卓も
当店にはございません‥‥、と、お店の人に言われたとき。
さぁ、そこにはどんなテーブルがあるんでしょうか?

ボクはこんなお店をイメージします。
お店があるのは建物の1階部分。
車通りが決して多くない、
比較的静かな通りに面しているでしょう。
街路樹があるかなぁ‥‥。
ゆったり歩ける広めの歩道が、
お店の目の前にあるに違いない。
おしゃれな人たちが、せかせかではなく
ゆったりとしたリズムでそぞろ歩きしていると
ますますいいなぁ‥‥。
そんな歩道に面して、足元まで開く大きな窓。
壁と窓の役目を同時に果たす
フレンチ・ウィンドウが設えられている。
晴れて気持ちのいい日には、その窓が開かれて、
小さめの丸いテーブルが置かれてひととき客席になる。
どれもが一人がけ。
しかも椅子は通りに向けておかれているに違いない。

つまり、オープンエアのカフェによく見る
一人がけのテラス席。
それが5席。
あるいは7席、お店の前にある店ならば、
カウンター席でもお誕生日席でも、
円卓席でもない奇数席が登場できる。

気軽でカジュアルなお店でしょう。
お店の中にある他のテーブルはいざしらず、
少なくとも通りに面した一人席には
テーブルクロスはひかれていないに違いない。
気軽ではある。
でも、おしゃれな人たちが集まるんでしょうネ。
だって通りに面した一人席は、
通りを歩く人たちから見られる客席。
お店の外観が街の景色の一部であるのと同じように、
そこに座っている人たちも街の一部をなすわけで、
装いだけじゃなくてそこでくつろぎたのしむ姿も
景色に見合うものでなくちゃいけないわけです。
お店の中で食事をしている他のお客様には背中を向けて、
時間を過ごす。
彼らからどのように見えているのかを考えながら、
外の景色以上にうつくしく食事をしようという覚悟と
意気込みがなくては座ることができない。

背中の後ろのお店の中で、
どんなお客様がどうたのしんでいるんだろうと、
振り向いて見てみたい。
けれど、そうしたいからといって
急に振り向いてしまうと
お客様と目があってバツの悪い思いをしちゃう。
だってテラス席に座った人をみつめる目には、
その背中はあくまで街の景色の一部であって、
それがいきなり振り返るなんて思いもしない。
つまりそこは「やせ我慢」をたのしむ客席。
タバコを吸いたくてしょうがない人にとって、
禁煙席は「空いていてもないに等しい」
存在であると同じように、
さまざまなコトを我慢したくない人にとっては、
「あってもなきに等しい」テーブル。
それが通りに向かって置かれた一人用のテーブルだ‥‥、
ってことになるんでしょう。

とはいえ、そもそもレストランとは
「やせ我慢をたのしむ場所」だとボクは思うのです。
もっと楽な装いで、
楽な姿勢でお行儀悪く食事ができればいいのになぁ‥‥。
たのんだ料理を待たずにすぐに食べることができれば
どんなにいいだろう。
メニューにある料理をかたっぱしからちょっとずつ、
味見することができればいいのに。
なにより、他のお客様のことなんて後回しにして、
自分のコトをだけを優先してくれれば
たのしく食事ができるできるのに‥‥、って、
けれどそれらを我慢することで
みんながハッピーになっていく。
それがレストランという場所だとすれば、
そのやせ我慢を一番しなくちゃいけない席というのは、
一番レストランらしい場所かもしれない。
そう思ったら、そういうテーブルのあるお店に
行きたくてしょうがなくなる。

ちなみに通りに向かって置かれたテーブル。
待ち人を待つのにピッタリのテーブルでもある。
待ち遠しい人を、でもその待ち遠しさを気取らぬよう、
悠然と街の景色をながめながら待つ。
やせ我慢があなたの背中を凛々しく見せる。
ステキだとは思いませんか?
おりしも風も涼しい季節。
やせ我慢もたのしい季節‥‥、かもしれません。

サカキシンイチロウさん
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2016-10-06-THU