おいしい店とのつきあい方。

079 お店の情報とのつきあい方。 その5
円卓のマジック。

カウンターを嫌う人がいます。
その嫌う理由のひとつが座り心地が悪いだとか、
落ち着かないだというカウンターのもつ機能的な特徴ゆえ。
もうひとつが、誰かから見られているようで
「気持ちが落ち着かない」という心理的な理由ゆえ。

ただ、そもそもレストランという場所は
「緊張」と「くつろぎ」がせめぎ合う場所。
おしゃれをしてレストランの椅子に座ると
背筋が思わずピンとのび、心地よい緊張とともに
普段味わうことのできない
非日常的なたのしい時間を過ごせるのです。
緊張を伴わぬ純粋なくつろぎを味わいたければ、
家で食事をすればいい。

レストランでいいサービスを受けようと思ったら、
他のお客様よりちょっとだけ目立つのがいい。
目立つということは見てもらえるというコト。
カウンターに座ると
「誰かに見られているよう」な気持ちになるという。
その「誰か」の中には、お店の人も入ってて、
つまりその分、
いいサービスを受けることができるのですネ。
目立つことなく、誰にも見てもらえない‥‥、
結局、何の特別なサービスも受けたくないのであれば
確かに、カウンターは居心地が悪いだけの席。
けれどその居心地悪さと仲良くなることができれば、
カウンターは実にたのしい特等席。

ところで25席という情報をもとに、
予約の電話をかけて
「カウンターはあるのですか?」と聞いた答え。
それが「いえ、当店にはカウンターはございません」
というモノだったら、
どうイマジネーションを膨らませましょう。

テーブルなのに奇数席。
お誕生席のある個室かなにかがあるのでしょうか?
もしそうだとしたら、それはかなり贅沢な個室です。
だって、おもてなししたいその日のゲストに
座っていただく席は当然、
入り口から遠い一番奥の席になる。
そこにまず真っ先に料理を優雅にサーブする。
そのためにはテーブルについた他のゲストの後ろを
スムーズに出たり入ったりするための
空間がなくちゃいけないコトになる。
それはかなり贅沢な空間です。

そうそう。
四角いテーブルの奇数目の席。
そこに座るというコトは、カウンターに座る以上に
いろんな人から見られることになりもする。
奇数席とは、緊張と引き換えに
最上のオモテナシを得ることができる‥‥、
つまりカウンター席と同じ性格の席というワケ。

あるいはもしかしたら円卓かな?って思ったりもする。

円卓というのはレストランにとっては
とても便利なテーブルで、
「何人がけ」という厳密な決まりをもたない
テーブルなんです。
ゆったり椅子を配置すれば、
接待にも使えるとても贅沢な食卓になる。
逆に、置ける限りの椅子を並べて、
隣同士が肩を触れ合うようなスタイルでアレンジすれば、
とても気軽でおしゃべりがはずむ食卓になってくれる。
偶数席でも奇数席でもどんとこい。
しかも必要のない椅子を取り払ってしまっても不自然でなく
「空席ができない」から、お祝いの席なんかにいいのです。
結婚披露宴のほとんどが円卓である理由。
急な用事で参加できなくなる人や、何かの理由で
急に参加しなくちゃいけなくなった人にやさしいから。
しかも上座がピタッと決まってしまう
四角テーブルに比べて、
なんとなく上座、なんとなく下座という
曖昧な位置関係で、着席順をきめることが便利だから‥‥、
だったりします。
便利です。

実は昔、ニューヨークのアルゴンキンホテルという
ホテルのメインダイニングにひとつ、
大きな円卓が置かれていたコトがある。
アルゴンキンラウンドテーブルといって、
当時、ニューヨークに集まってくる若いアーティストとか
文化人、あるいは裕福な紳士淑女が
身分の差なくその円卓に座って会話をたのしんだという
伝説のテーブルで、
円卓というものには不思議な力があるのです。

じゃあ、世の中のテーブルはみんな
四角じゃなくて円形をしてればいいじゃない‥‥、
って思う。
でもそうならない理由は
大きくなると真ん中に無駄なスペースができてしまうコト。
それにくわえて四角い部屋に丸いテーブルを置くと
回りに無駄なスペースができてしまうこと。
なによりすべてのお客様にサービスをしようとすると
グルリ回り込むために通路を広くとらなきゃいけない。
だからアルゴンキンラウンドテーブルも、
そのテーブルでホテルが儲けたかというと
決してそんなことはなかった。

そんな便利なようで不便な円卓。
中国の人はその無駄と言われる
真ん中部分に回る台を設置して、
テーブルの周りに通路がなくても
サービスができるようにしてしまった。
なんてステキなレイジースーザン。
円卓の真ん中の台のことを、
「怠け者のスーザン」と呼ぶ、その語源は諸説あるものの、
いつもは働き者のスーザンも
この台があれば怠けることができる‥‥、
なんとステキな発明。また来週。

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グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
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2016-09-29-THU