おいしい店とのつきあい方。

077 お店の情報とのつきあい方。 その3
カウンターという舞台。

海外からいらっしゃった方に
「日本にしかないレストランに
連れて行ってほしいのだけど」とお願いされる。
一昔前であれば、迷わず「居酒屋」。
予約しないでもふらっと寄れて、たのしめる、
手軽なお店に案内しました。
おどろくほどの商品バリエーション。
どれも気軽な値段で、しかもたのむと
ほとんどの料理があっという間にやってくる。
作りおきかというとそれができたて。
どんな魔法をつかえばこんなコトができるんだろう‥‥、
と海外の人は必ずビックリしてくれた。
ただ、今では日本流の居酒屋が世界各国にできて、
それぞれ人気のお店になっているから、はたして
「日本にしかないレストランか?」と問われると、
今となっては自信がもてない。

代わりに最近、とあるとんかつ専門店に
お連れすることにしたのです。

お店に入ると目に飛び込んでくるのが大きなカウンター。
コの字の形にしつらえられた30席ほどのカウンターです。
2階に上がればテーブル席も用意されている。
けれどみんなカウンターに座りたいからと、
じっと待ちます。

普通は逆です。
カウンターならすぐにお座りいただけますが‥‥、
とすすめられても居心地の良いテーブル席を待つ。
それが普通。
けれどココではカウンターに座るため待つ。
なんでわざわざ、カウンターに座りたがるんだ?
‥‥、という海外からのお客様に、
背伸びしてカウンターの向こうを
ちょっとご覧なさいってすすめます。
カウンターの中には厨房。
大きく、しかもそこは板張り。
床も厨房機器を設置している台もすべて白木でできていて、
調理人がテキパキ料理を作っている一部始終が見て取れる。

これはスゴいね。
オープンキッチンというレストランは世界中にある。
けれどキッチンを眺めながら食事ができる席は一部で、
ほとんどのテーブルはキッチンから遠くて
調理の気配を感じる程度。
ところがここのカウンターは、
どこに座っても厨房の中の様子を身近に感じる。
しかもこの清潔さ。
床には水滴ひとつ落ちていないし、
厨房設備はどこもがピカピカ。
これは厨房というよりも、
調理が行われている舞台みたいな場所だね‥‥、
と、みんな感心しながら待ってくれる。

カウンターの後ろには座って待てるベンチがあって、
座ると目の前にカウンターに座って
食事をする人たちの背中が見える。
料理がやってくるのを待つ背中。
期待に満ちた背中がひときわ、
シャンと背中が伸びたかと思うと
目の前に注文していた料理が到着したのでしょう。
箸を手にして料理を口に運んで食べる。
大きく息をつきながら、箸が止まらぬおいしさが
背中越しに伝わってくる。

舞台はカウンターの中だけじゃないんだね。
カウンターに座ったお客様まで含めて大きな舞台。
こりゃ、ぼんやりしていちゃ、
かっこいいお客様にはなれないネ‥‥、
と、一度でこの店のファンになった
イタリアからの友人は言う。

たしかにカウンターという席は、見られる席。
他のお客様からは背中を見られ、
カウンターの前にいるお店の人からは
食べている正面の姿を見られることになるのです。
それを「居心地悪い」と感じる人は、
カウンター席を嫌ってテーブル席じゃなくちゃ‥‥。
できれば個室があれば助かるんだけどと、
プライバシーを守れる空間を自然と好む。
けれどこのお店のように、ただ見られるのでなく、
お客様同士が互いに互いを自然に観察し合いながら、
食事をたのしむコトができる空間に身をおくと、
見られているという緊張感と、見ているという好奇心。
その両方ともがレストランで食事することのたのしさを、
膨らませてくれるよきスパイスなんだというコトが
わかるのですネ。

ちなみに客席全部、あるいはほぼほとんどが
カウンター席というお店が日本には結構ある。
それらそれぞれがもつ意味を来週、お話いたしましょう。

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博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。

2016-09-15-THU