061どこでも一緒? その6満席です。

まず、満席にはいろんな満席がある、
という話をいたしましょう。

一般的に、満席といえばすべての席が埋まった状態。
例えば100席あるファミリーレストランなら、
100名のお客様がくれば満席、という考え方。
けれど、そんな満席はまずおこらない。
ちょうど100名様のグループ客がいらっしゃって、
どこに座っても大丈夫とすべての客席を埋めてくれる‥‥、
ようなシチュエーションがあれば
満席ってコトにめでたくなるんでしょうけど、
一般的にそういう状況はないですものね。

お客様って1人の人もいれば
2名、3名で一組というお客様もいる。
例えば2人掛けのテーブルばかりがある店で、
100席といえば50テーブル。
開店と同時に50人がやってきて、すべて1人客。
しかも相席お断りだと、50人で満席です。

だから、飲食店の人たちは日常的には
「満席」というより
「満卓」という言葉をよく使う。
テーブルがひとつも空いていないから、
もうこれ以上、お客様をご案内することができない
という状態。
それが「満卓」。



満席と満卓が限りなく同じ人数になるように、
飲食店の人たちは工夫をします。
まず店作り。

1人、2人、3人と
すべてのお客様をもれなく格納しようと思えば、
カウンターが最適。
そうでなければ、大きなテーブルをどんと置いて、
相席前提で座ってもらうというのが
お店にとってはありがたい。
けれど、それではプライバシーが保てないから、
ファミリー客などには都合が悪い。
そこでどうしてもテーブル席を
用意しなくちゃいけなくなる。

2人席が一番効率がいいのですネ。
テーブルが動くようにしておけば、
3人来たらテーブルを2つくっつければいいワケで、
無駄になる席が少なくてすむ。
ただ、2人席ばかりになると
カップル向けのお店のように見えてしまうから、
ファミリーレストランのような店では4人席を作って、
家族連れでもウェルカムですよ‥‥、
というメッセージをお店にこめる。

1人客用のカウンター席。
ファミリー向けの大きなテーブル。
2人客用と、つなげれば4人以上のグループ客にも
対応できる可動式の2人がけテーブル。
それらをどのような割合でレイアウトするか。
それがチェーン本部の腕の見せどころ。
郊外の新興住宅地にお店を作るときには4人席を6割、
2人がけのテーブルを3割、残りをカウンター。
オフィス街のお店であれば
カウンターや大テーブルが4割ほどで、
2人がけが3割、
残りが4人席というのが黄金比だったりした。
そうすることで、満卓が限りなく
満席であるよう工夫したのです。



ただそういう工夫をしても結局、
椅子の数しかお客様は座れない。
100席のレストランは
100人席以上になることはない‥‥、
というのが普通のレストランの常識。
ところが、席数を超えることができるレストランがある。

田舎によくある、ずっと繁盛し続けている
家族でやってる蕎麦屋さんとかラーメン屋さん。
昔、家族で住んでたのであろう民家をそのまま使ったお店。
靴を脱いでお店に上がると、案内されるのが大きな座敷。
そこに大きなテーブルと座布団が並んで置かれて、
好きなところを選んで座る。
相席なんか当然で、しかも座布団の並べ方次第で
何人でも座れるのです。
ちょっと窮屈だけどごめんなさいね‥‥、って言いながら、
間隔を狭めて座布団をしけば
8人がけの座卓の周りに10人くらいが座れたりする。
居酒屋だとか、和食のお店の宴会場がときに
定員40人なのに、気づけば45人くらい座ってた‥‥、
なんてコトがよく起こる。
飲食店の経営者にとってとても便利な
座敷に座布団という組み合わせ。

そこまで柔軟で便利でなくても、
ファミリーレストランにあるベンチ席。
あるいはテーブルをグルリと囲んでできた
ブース席と呼ばれる席が、
お座敷+座布団と同じ効果を発揮する。
洋風座敷って、業界の人たちは呼んだりする。



そういう様々な工夫をして、
一人でも多い人数で満席をむかえるようにしている‥‥、
にもかかわらず、満席はおろか、
満卓になってもいないのに
「満席でございます」とお客様に頭を下げる店がある。
お店の外にはウェイティングの行列があり、
お店の中を覗くと空席がいくつかある。
にもかかわらず、お客様をテーブルに案内しない。
しばらくお待ち下さいというその理由。

着席していただいたすべてのお客様に
納得できるサービスを
提供してさしあげることができる客数を
もう超えてしまいました。
だから満席。
最近、そういう満席でお客様を待たせるお店が増えました。

理由を来週、考えましょう。


サカキシンイチロウさん
書き下ろしの書籍が刊行されました

『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか
 半径1時間30分のビジネスモデル』

発行年月:2015.12
出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
価格:1,296円(税込)
Amazon

「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
 どうして博多うどんのお店が東京にはないんだろう?
 いや、あることにはあるけど、少し違うのだ、
 私は博多で食べた、あのままの味が食べたいのだ。」

福岡一のソウルフードでありながら、
なぜか全国的には無名であり、
東京進出もしない博多うどん。
その魅力に取りつかれたサカキシンイチロウさんが、
理由を探るべく福岡に飛び、
「牧のうどん」「ウエスト」「かろのうろん」
「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。






2016-05-26-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN