059 どこでも一緒? その4厨房の場所。

お客様に「いらっしゃいませ」と、
「ありがとうございます」を言うべき場所。
そこがレジ。
そのレジの後ろには厨房がある。
それがチェーン店という、
お客様に叱られないよう
一生懸命工夫するお店に共通する特徴。

典型がハンバーガーショップのような
ファストフードのお店でしょう。
レジカウンターの後ろ側にはすぐキッチン。
最小の人数で、スピーディーに
商品提供をしようと思えばこの形になる。

ファストフードは機能がむき出しになっている飲食店。
他の業態では、お客様の目に触れぬように
工夫されている部分もむき出し。
だから、人出がかからぬように
お店のレイアウトができているなと
ひと目で気がつくようになってる。
客単価があがるにしたがって、
お客様に機能部分を見せぬようにと飾りをほどこす。
だからむき出しというワケではないけれど、機能は同じ。
ファミリーレストランにおいても
レジの後ろにすぐキッチン。
居酒屋もそう。
お客様がやってきたときや、帰ろうとするとき、
すぐに厨房の中からスタッフが出入り口や
レジのところにかけつけることができるように、
そういうレイアウトにしているのです。



実は、サービススタッフが
サービスだけをしているわけではないのが
チェーンストアの飲食店の特徴のひとつなんですネ。
サービススタッフは客席ホールにいて、
お客様の手元や表情にたえず気を配る。
食べ終わった食器を下げたり、
お冷や飲み物の継ぎ足しのタイミングを見極めて、
お客様から言われる前にテーブルに近づいていく。
それが仕事‥‥、であるのは建前。
厨房の中で調理人の仕事を手伝う機会がとても多いのが、
特にチェーン店では一般的。
だから、お店はほとんど満席なのに
従業員が誰ひとりとして
客席ホールにいないようなコトが日常的に起こったりする。

そのとき彼らは厨房の、
料理がでてくるカウンターの前で
せわしなく仕事をしている。
和食のお店であれば、定食をのせるためのお膳を並べる。
お漬物やサラダを並べて、ご飯や汁を器によそい、
メインディッシュがお膳に置かれれば
持っていけるように準備する。
洋食のお店でも、例えばコーンポタージュは
厨房の内側ではなく、
サービススタッフが立って待つ客席側に保温器があり、
それをよそう。
セットサラダはあらかじめ盛りつけられたものが
客席側に置かれてて、
それを取り出しドレッシングをかけて準備をするのは
サービススタッフの仕事だったりするのです。

特別な調理の技術がなくてもできることは、
サービススタッフがしてあげる。
そうすることで、
人件費の高い調理スタッフの数を減らして、
利益を出しやすい体質を作ることができるというワケ。
だから厨房の作業の手伝いをしているときに、
ささっとレジに移動できるようになっていないと
お客様から叱られる。
だから、レジの後ろに厨房があるお店が増える。



昔の店はお店の一番奥に厨房があったものです。
今でも老舗の蕎麦屋さんや洋食屋さんにいくと
そういう構造の店が残ってる。
厨房の中の人たちは調理の作業だけに専念。
サービスの人たちは基本的に
お客様の方だけをみて仕事をしていて、
料理が出来た時だけ呼ばれて、料理を厨房に取りに行く。
そして大抵そういう店には、お帳場があって、
入り口近くで「いらっしゃいませ」と
店の女将が挨拶をする。
「ありがとうございます」というのも
女将の仕事だったりした。
人件費のコトを気にしなくてすむシアワセな店は、
そういう形をしているのです。

ほとんどのお客様が予約をしてくれれば、
お出迎えの準備が出来ます。
ご予約の時間にあわせて、
入り口の方に気持ちを向ければ、
お客様を出迎え損なうことがなくなる。
レジに出向いて会計するのでなく、
テーブルの上で会計をすませることができれば
レジの位置を気にすることもなくなってくる。
ちょっと気取ったときに使える高級な店のしつらえが、
自由で個性的であるのはチェーンストアの人たちが考えた、
店舗レイアウトのルールに従わなくてすむからでもある。



ちなみに厨房という水回りの場所が決まると
自動的にトイレの場所も決まるのですね。
厨房の裏側。
あるいは横。
そうでなければレジの手前という場所が、
トイレが作られる理想的な場所。
そういう飲食店をもう1000軒近くも作ってきました。
だから、はじめてのお店に行っても
大体どこにトイレがあるかわかってしまう。
機能を突き詰めれば個性をなくす。
それもまたよし‥‥、なのかもしれない。

さて、叱られないように考えた末に
お店の構造がどんどん似てくる。
それ以外にも不思議なほどにお店の大きさまでもが
似てきたりして、それは一体なぜなのか。
来週、お話いたしましょう。


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2016-05-12-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN