057 どこでも一緒? その2ピンポーン!

人の体は個性的です。
誰一人として同じ体で生きてはいない。
身長、体重。
手足の長さ。
痩せていたりでっぷりしてたり、筋肉質な人もいて、
この人の体つきって何が作り上げたんだろう‥‥。
生まれながらの資質の上に、
食生活や体を動かす習慣がよってたかって作った体。
人それぞれの生き方の個性が体を作ってる‥‥、
とそう思うとなんだかいとおしくなってきます。

ただ、多様にできているはずの人間の体も
ある用途に最適化されはじめると
途端に個性をなくしていきます。
例えば体操選手の体つきは、
誰が見ても体操をしている人なんだろうな‥‥、
と予想できるほど肩幅が張り腕の筋肉がモリモリしてる。
なのに、おそらく床体操や鞍馬をするとき、
邪魔になるからなのでしょう‥‥、
不思議なほどに太ももは大きくはない。
競輪選手との体格差は一目瞭然。
水泳選手は筋肉がゴツゴツ目立つことはなく、
水中哺乳類のイルカがそうであるように、
表面なめらかで水に対してストレスの低い
体つきになっていく。



目的に最適化していく過程で、個性をなくす。

飲食店においても同じようなコトが言えるのですね。
典型的な例が、郊外型のファミリーレストラン。
会社が違っても箱型の建物。
限りなく長方形に近い形で、建物の中の壁は最小限で、
しかも窓が大きい。
建築コストを考えると、あの形が一番、いいのです。
空調効率を考えるなら、窓は小さい方がいいのだけれど
中の様子が見えない店は入りづらくて
気軽な店には向いてない。
それに夜、お店の中の光が表を照らすことで、
車で移動している人にもお店をやってるってことが伝わる。
エネルギー効率を優先するか、
それとも集客パワーを選ぶかという
せめぎ合いの中でああいう形になった。
ちなみにお店の裏側は、たいていプレハブ。
窓もなければ、たいていの場合、倉庫が建物に隣接してる。
中には倉庫が店本体に突き刺さっていたりします。
エネルギーを逃がさぬためと、
倉庫は厳密に言うと建物ではないのですネ‥‥、
簡単に撤去できるから
建築面積にいれなくていいというルールがあって、
建築コストダウンに貢献するのです。

店の外は看板だとかロゴだとか、
お店のそれぞれのテーマカラーで彩られていて、
どこの店かの区別ができる。
ところがお店の中に入ると、
どこも同じで区別がつかなくなったりします。



少ない壁は、お店の隅々が見通し効いて、
お客様の様子を観察することができるようという工夫。
サービススタッフをたくさん雇いおくことができる
高級なレストランなら、壁でこまかく仕切った店で、
お客様のプライバシーを守ることができるのだけど、
最少の人数で、お客様に迷惑をかけないサービスをしないと
利益を出せないファミレスみたいな場所では、
壁は効率を阻害する。
それでああいう形になります。

ただ、今ではそれほど高くはない店なのにほぼ個室‥‥、
なんてお店がたくさんあります。
理由はボタンひとつで「ピンポン!」と、
サービススタッフを呼びつける便利な装置ができたから。
この便利な、しかしなやましい装置が市場に登場したのが
今から30年ほど前のこと。
日本で初めて装置を開発した会社が、
ボクのコンサルタント会社に、
販売先を紹介してくれないか‥‥、とやってきた。
コンサルタントとして、その装置には懐疑的でした。
なぜなら、サービススタッフが
「本当のおもてなし」をするために、最も必要なのが
「お客様を観察し、
 呼ばれる前にお客様に近づく
 感度の高さ」を養うというもので、
なのにこの装置はそういう気づきを育てる
邪魔をするではないか‥‥、と。
まだ日本の外食産業は、
今のように効率優先の現実的な産業ではなく、
夢見がちでおだやかな産業だった頃のことです。
飲食店も、効率を追いかけながらも
十分に人手をさくことができた時代。
だから、紹介するのは居酒屋のような目が行き届きづらい、
しかも追加注文が頻繁に起こるお店だけに
限定しましょう‥‥、と、
約束事を作って紹介することにした。



ところが今では見通しが効くようにつくられた
郊外型のファミリーレストランにさえ
装置が置かれるようになってる。
それだけ人手が足りないんだ‥‥、ということでしょう。
「ピンポーン」とベルが一つ鳴り響くごとに、
本来、養われるはずのサービス精神が育ち損ない、
飲食店がつまらなくなる。
ビクビクしながら、それでもベルをならないと
やってこない従業員。
目の前にいて、手を上げて合図をしても
ベルがなった方を優先して走る。
なんだかさみしくなっちゃいます。

とはいえ個性を競うお店も中にはあって、
けれどどんな飲食店でも個性的であることが
求められない場所がある。
飲食店の店作りがわかっていれば、
必ず「あそこ」が同じ場所にある。
さぁ、そのあそこはどこ?
来週のおたのしみといたしましょう。


サカキシンイチロウさん
書き下ろしの書籍が刊行されました

『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか
 半径1時間30分のビジネスモデル』

発行年月:2015.12
出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
価格:1,296円(税込)
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「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
 どうして博多うどんのお店が東京にはないんだろう?
 いや、あることにはあるけど、少し違うのだ、
 私は博多で食べた、あのままの味が食べたいのだ。」

福岡一のソウルフードでありながら、
なぜか全国的には無名であり、
東京進出もしない博多うどん。
その魅力に取りつかれたサカキシンイチロウさんが、
理由を探るべく福岡に飛び、
「牧のうどん」「ウエスト」「かろのうろん」
「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。






2016-04-28-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN