050 超えてはならない一線のこと。その21
シュガー・マジック。

甘みを旨みに勘違いさせるのでなく、
甘みそのものとしてたのしむ食べ方。
お菓子のほとんどすべてが、
「甘みをたのしむ」ことを目的に作られる。
お菓子のレシピをみると、
ハラハラするほどたくさんの砂糖を使う。
ジャムなんて、ひらたく言えば果物の砂糖煮。
甘くて当然。

しかも砂糖で煮込むことによって、
腐ることを防いでくれる。



腐食の原因になる、カビや細菌。
彼らも生き物です。
発生して育つためには栄養を必要とする。
特に水気が彼らにとっての大好物。
みずみずしさは、おいしさのひとつの要素。
なのに、みずみずしさ故に腐ってしまう‥‥、
なんともなやましいコトなのですね。
干物にすると長持ちする。
それは食材から水気を奪いとって、
腐敗の素を断ち切っちゃうから。
塩漬けにするという方法もある。
塩が食材の中の水分を吸い取り、腐敗を防ぐ。
塩自体も旨みをもった調味料のひとつだから、
塩漬けにしてそのまま食べることが
できるのであればいいのだろうけど、
過ぎた塩分は味を損なう。
だから食べる前に塩を洗い流すか、
他の素材を一緒に使って
塩辛さを薄めなくては食べられない。
塩鮭だとかがその代表でしょうか。
生ハムなんて、塩と乾燥が作り出した
味わい深い食材のひとつ。

砂糖も同じような働きをする。
水分をとりこんで、
腐敗を促すカビや細菌を増やさぬような
効果を発揮するのです。
しかも砂糖はたくさん使っても
食べられないようなことがない。
腐敗を防ぐ調味料を、そのまま食べることができる、
というわけですから、とっても便利。
かつては高価な調味料でもあったから、
「甘くて腐らぬ、しかも贅沢」
と魔法のような料理を作り出すことができたワケです。
今でも歌舞伎のような舞台のお供に
「甘煮」というお弁当のおかずがある。
砂糖をたっぷり加えて炊いた野菜で、
時間が経っても悪くならない‥‥、
だからお弁当のおかずにピッタリという料理。

砂糖は実は、うま味調味料であると同時に、
防腐剤でもあり安定剤でもあったりする。



そういえば、かつて缶コーヒーはみんな加糖で甘かった。
自動販売機で缶に入ったコーヒーが、気軽に買える。
その利便性にヒットしました。
ただ、その当時の缶コーヒーは甘かった。
しかもブラックコーヒーはほとんどなくて、
ミルクと砂糖がたっぷりはいったものが多かった。
たしかに当時、コーヒーは甘くして飲むものと
考える人も多かった。
けれど、なんで無糖の缶コーヒーが
なかなか市場にでなかったのか‥‥。

理由は砂糖が入らないと、
コーヒーが酸っぱくなってしまうから。
落としたてのコーヒーはおいしい。
そのおいしいコーヒーも時間が経つと
どんどん酸っぱくなってしまう。
昔ファミレスの一度に沢山落とした
フラスコの中のコーヒーが、
おかわり自由だった理由は、
早く使いきらないと酸っぱくなってしまうから。
味だけじゃなく匂いも酸っぱくなってしまって、
まだ飲めるものかどうかを調べるために、
フラスコの中に鼻を突っ込んで
匂いをたしかめたりしたモノです。

すべては酸化。
酸素と触れるとコーヒーの味も香りも劣化する。
その酸化をとめる役割を、なんと砂糖がしてくれる。
砂糖を入れるとコーヒーの粉が
水をしっかりとけあって安定するのも
長時間、缶の中に保存させるのに便利でもある。
今では窒素を缶の中に充填したりすることで、
酸化を防ぐ工夫ができて
それで無糖の缶コーヒーが製造されるようになった。
今やコンビニエンスストアに代表される、
賞味期限が長い商品は化学や科学でできるのですね。
文化系にはちとむつかしい。

そうそう、缶コーヒーの黎明期に
砂糖と一緒に使われていたクリーム類。
おいしい料理を安く製造するために、
実はクリームのとある性質が重宝されてる。
来週お話いたしましょう。


サカキシンイチロウさん
書き下ろしの書籍が刊行されました

『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか
 半径1時間30分のビジネスモデル』

発行年月:2015.12
出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
価格:1,296円(税込)
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「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
 どうして博多うどんのお店が東京にはないんだろう?
 いや、あることにはあるけど、少し違うのだ、
 私は博多で食べた、あのままの味が食べたいのだ。」

福岡一のソウルフードでありながら、
なぜか全国的には無名であり、
東京進出もしない博多うどん。
その魅力に取りつかれたサカキシンイチロウさんが、
理由を探るべく福岡に飛び、
「牧のうどん」「ウエスト」「かろのうろん」
「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。






2016-03-10-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN