041 超えてはならない一線のこと。その12
飲食店の評価サイトとどうつきあうか?

さて、SNS型の評価サイトとのつきあい方。

ボクはまず点数を見ないことにしています。
店名の下にひときわ目立つ赤い色で書かれた数字。
あれは、ただの記号であって、
なんの意味も持たぬもの‥‥、ってまず思います。

そしてコメントとのつきあい方。
コメントの内容を読むのではなく、
それぞれのコメントを書いた人の顔を想像しながら読む。
この人ってどんな表情で
このコメントを書いてるんだろう‥‥、
苦虫を噛み潰したような顔かなぁ。
それともニコニコしながらなんだろうか? って。
コメントを書いてる時の顔は多分、
そのまま、お店で食事をしている時の表情。

その表情を思い浮かべながら読んでると、
その人と一緒に食事をしているような気持ちになれる。

すると、一緒に食事を絶対したくない人が
思い浮かんだりするのです。
うんちくがましくて、料理を食べに来たのじゃなくて、
情報を確かめに来たような面倒くさい人がいる。
自分が一番じゃないと気が済まない、自己主張の強い人。
食事の最中に、他のお店の話ばかりして、
しかもそっちの方がおいしいんだと言って平気な人もいる。

そういうお友達に絶対なれなさそうな人のコメントは、
読まず、信じず、すぐに忘れる。
もしそういう人ばかりのコメントが集まるお店は、
多分、ボクに合わないお店。

明るくたのしいコメントが集まるお店は、
多分、ボクにあったお店とまず区別する。

中には何度読んでも、
顔が一向に見えてこないコメントがある。
大抵そういうコメントは
カットアンドペーストでできた、通り一辺倒のコメント。
そういうコメントばかりのお店は、宣伝上手。
もしかしたらブロガーさんたちにお願いをして
書いてもらったコメントかもね‥‥、
ってスルーすることにしています。

写真がたくさん載っています。
それもほとんどが料理の写真。
見ないことにしています。
だって、イマジネーションが湧かなくなるもの。
訪れる前からどんな料理が出てくるのかわかりすぎると
期待ばかりが高まって、
写真の料理と同じ料理が食べられないと
ガッカリしたりすることになる。



地図は見ます。
一生懸命、頭の中に叩き込む。
一応、地図のスクリーンショットをダウンロードして、
もしものためにスマフォに入れて店に出かける。
でも、よほどのことがないとそれを見ながら街を歩かない。
スマフォを見ながら歩くということ。
それはすなわち、周りの景色を見ないで
お店に向かうというコト。
目印と、記憶を頼りに歩いていると、
いろんな景色が見えてくる。

車通りの多い通りから一本入って、
どんどん寂しくなってって、こっちの方向で良かったのか?
って心配してたら、向こうにポツンと明かりが見えた。
あぁ、あそこかなぁ‥‥、って思って急いでいくと、
そこが目当ての店だった。

その安堵感も含めて
お店の人はロケーションを選んでいたのに、
スマフォを頼りに歩くとそういうたのしみはゼロ。
もったいなくてしょうがない。

どんなに記憶を駆使しても
なかなか見つからぬお店があったりするのも現実。
ちょっと歩いてスマフォを取り出し、
場所を確認しながらやっとお店に到着‥‥、
なんてこともある。
でもそんなときでも、お店のドアを開けるときには
スマフォはポケットの中に入れ、
何食わぬ顔してお店に入る。

だって、スマフォの画面を見ながらお店にやってくる人。
それって、「わたくし、はじめてここにまいりました」と、
明かしているようなものですものね。
この界隈も不慣れなよそ者。
ネットを見てたら、ココがいいっていうものだから、
それできました。よろしくね! って、
自らそう言っているように見えてしまうのですよね。

そんなお客様が得するか‥‥、
っていうとかなり微妙でしょう。
はじめてのお店に行くときには真剣勝負。
自分の弱みを見せぬように。
とはいえ虚勢をはらぬよう。
背筋を伸ばしてお店の人の目をしっかりみて、
にっこり笑って、
「はじめてやってまいりました。
 よろしくお願いいたします」と。
そっと小さく呟くコトが、
素敵なお店の扉を開くということなのです。



新宿の街のはずれに小さいながらも
人気の居酒屋が一軒あります。
ご主人ひとりでやっている店。
一生懸命料理を作り、でもサービスまで手が回らない。
お客様が料理を運んだり、
お酒のおかわりを自分で作ったりと
家庭的なところが売りのお店でもある。
みんなその店のことを語りたい。
頑張っているご主人のために、
贔屓にできる人をひとりでも増やしてあげたい、
と思うのだけど、
評価サイトで高い点数をつけてしまうと
いろんな人がやってくる。
点数が高い店ばかりを食べ歩き、
勝手な評価をする人たちに荒らされるのは
お店のためにも申し訳ない。
それでみんなで暗黙の了解を作って投稿しました。

コメントは書く。
けれど点数はつけずにおく。
そうすることで、
評価サイトの中にはいるけど
リストアップされないようにずっとしていた。
それでも口コミだけでいつも満員で、
いくとみんなニコニコしながらサービス手伝い、
長居もせずに次のお客様に席を譲って帰ってく。
みんなで守ったその店も、
今ではしっかり高得点がついている。
つくと残念、お馴染みさんがこなくなる。
なやましいなと思うのです。

サカキシンイチロウさん
書き下ろしの書籍が刊行されました

『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか
 半径1時間30分のビジネスモデル』

発行年月:2015.12
出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
価格:1,296円(税込)
Amazon

「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
 どうして博多うどんのお店が東京にはないんだろう?
 いや、あることにはあるけど、少し違うのだ、
 私は博多で食べた、あのままの味が食べたいのだ。」

福岡一のソウルフードでありながら、
なぜか全国的には無名であり、
東京進出もしない博多うどん。
その魅力に取りつかれたサカキシンイチロウさんが、
理由を探るべく福岡に飛び、
「牧のうどん」「ウエスト」「かろのうろん」
「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。


2015-12-17-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN