007 たのしく味わう。その7
外でおいしいコーヒーを飲むのはむずかしい?

おいしいコーヒーが飲みたいんです。
ミルクの味にたよらない。
お菓子やドーナツのお供でもない、
ただただコーヒーのおいしさを味わいたいのだけど、
どういうお店に行けばいいですか?
‥‥、と、そう聞かれることがときにあります。

答えは簡単。
あなた自身がいれたコーヒーが
一番おいしいコーヒーでしょう‥‥、と。
それが「おいしいコーヒー」の
唯一無二の答えだとボクは信じています。

ただいくつか条件がある。
信頼のおける食品店で、生のコーヒー豆を焙煎してもらう。
できうる限り、使う分だけ。
焙煎してもらった豆をこれまた使う分だけ挽いて、
粉にしたらすぐにペーパードリップでジックリ落とす。
蒸らしながら、ユックリと。
自分の好みに落としたら、すぐさま味わう。
これが一番おいしいコーヒーの飲み方であるに違いない。

なめらかで、ふくよかで。
香り豊かで、やさしい苦味と軽い酸味。
砂糖をいれずとも甘みを感じるような味わい。

おいしいご飯が、精米したばかりの米をやさしく研いで、
食べる分だけ炊きあげて、
その炊きたてを食べればおいしい。
どんなに立派なお米でも、炊いて時間が経ったり、
温めなおしたりしたら味が損なわれる‥‥、
っていうのと同じ。



いや、そうじゃないんです。
自分でおとすコーヒーじゃなく、
お店でおいしいコーヒーを飲むとしたら
どういうお店に行けばいいか知りたいんです。
‥‥、ともし質問が続いたら、
ボクはこんなふうに答えるでしょう。

自分で作るおいしいコーヒーと同じようにして
コーヒーを作っている喫茶店を探せばいいんです。

焙煎機がある。
注文を受けてから一杯、一杯、
手落としでコーヒーを作ってくれる。
そういうお店のコーヒーはおいしいはずなんだけど、
この「焙煎機を持つ」というのが結構、むつかしい。
それというのも業務用の焙煎機で、
一度に焙煎できる豆の分量はかなりたくさん。
少量だとおいしく焙煎できなかったり
品質が安定しないから、
ある程度の量を焙煎しなくちゃいけないんだけど、
焙煎した途端、そこから豆は劣化する。
なるべく短期間で使いきらなきゃいけなくて、
たくさんのお客様を一度にこなせる
大きなお店じゃないと焙煎機を使いこなせない。
でも、大きなお店で注文を受けて
一杯、一杯作るのは大変な手間。

ジレンマです。
すべてのお客様に目が行き届き、
丁寧にコーヒーを落とせる小さな喫茶店。
焙煎機を買えばもっと
おいしいコーヒーが作れるというコトがわかっていても、
新鮮なうちに使いきらなきゃいけないコトを考えると、
無駄な投資になってしまう。
それで、たいていの喫茶店は、焙煎された豆を買う。



喫茶店の店先にそのお店の名前とは
違った名前の看板が出ていることがよくあるでしょう。
○○コーヒーとか、△△商会みたいな感じの名前。
大きな焙煎工場を持ったコーヒー専業のメーカーが、
貸与してくれる看板なんだけど、
そういうところのコーヒーはスーパーなんかで売ってる豆と
中身はほとんど変わらぬ量産品。
ただ、品質だけは安定していて、
それを使う人たちの試行錯誤で
ほどよくおいしいコーヒーになる。
ならばコーヒーを愛する普通の人たちが買いに行く、
信頼のおける食品会社で
焙煎してもらった豆を買えばいいじゃないかというと、
それではコストが合わない。

喫茶店でおいしいコーヒーを出し続けるとは、
かなりむつかしいコトなのです。

焙煎機なんかおける場所もないほど小さな喫茶店。
コーヒー焙煎業者のロゴも看板にはない。
なのに、なんとも味わい深いコーヒーが出る。
どこで豆を調達していらっしゃるのですか? と聞くと、
どこそこの喫茶店で分けて頂いているんですよ‥‥、
と答えがかえる。

喫茶店にコーヒー豆を分けてあげるコトができる喫茶店。
それはどんな喫茶店なのでしょうか。
また、来週。



2015-04-23-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN