194 サカキ家のお正月。

新しい年。
みなさん、あけましておめでとうございます。

前回のエピソードで、
お店の人から思い切り呼び止められてしまったお客様が
一体、なんでそんなコトになってしまったのか。
そのなりゆきは、来週にご披露させていただくとして、
新年のご挨拶代わりにちょっとよりみち。

みなさまはどんな新年をお迎えでしょう。

サカキ家の新年にはさまざまな約束事がありました。
まず長男としてのボク。
みんなが起きる前にそっと置き、
寝床を出たら口をゆすいで顔や手を丁寧に水で清める。
石鹸は使わずひたすら、何度も何度も手をあらい、
台所にゆき、その年最初の水を汲む。
それを杯に入れて神棚に飾って一礼。
みんなが起きてくるのを無言で待つ、
というのがボクの正月。



本当は日が昇る前にこれだけのコトをして、
日があがるのを待つというのが本式なんだ。
でもそれじゃぁ、
みんなが起きてくるのを待つのが辛いだろうから‥‥、
と父は毎年恩着せがましく言っていた。

正月の朝にはなるべく仕事をしないこと。
口はゆすいでも磨かない。
台所にたっても包丁は使わず、
用意しておいたものをそのまま食べる。
例外的に雑煮は作る。
それも毎年変わらず同じ雑煮を作る。

特別甘い白味噌にかつお節だけでとった出汁。
えび芋をコックリ煮たモノ。
丸い水餅。
つきたての餅を丸く整え、水に浸したものですネ。
金時人参。
紅白かまぼこ。
結んだ三つ葉。

おせちを食卓の真ん中に置き、
あけましておめでとうとみんなで言い合い、
新しい年のお腹を料理でもてなす。
そんな朝。
食事をしながら、今年何を自分はしたいか。
あるいは目標。
家族みんなでこういうコトができるといいねと、
年のはじめの抱負を語る。
そのうち、みんなの会話の中心は
おいしいモノの話になって、
食いしん坊なサカキ家のいつもの朝になってくんだけど、
みんなで迎える正月の朝は格別でした。



人と人とのつながりを、新たな気持ちで考えるのも
正月という特別な日の過ごし方でもあるでしょう。
実家に帰って、実際、顔を合わせて感じるつながりもある。
けれどここ数年は家族別々。
それでもなぜだか、
ボクは実家にいたときにしていた正月の朝を迎える。

口をゆすいで手を清め、
若水(わかみず)とって
神棚はないから台所の一番上の棚におく。
おせちを並べて、雑煮を作る。
白味噌、かまぼこ、結んだ三つ葉に丸餅と、
ずっと食べてたモノを作っているうちに、
家族と一緒にいるような甘い気持ちで
朝があかるくなっていく。
食べることとは、人と人とをつなげることで、
大切にしなくちゃいけない、と思いながら
新しい年をはじめるのでしょう。

さて今年一年。
ボクは「食べる」というコトに、
夢を持ち続ける一年にしようと思ってる。
夢を持つと同時に、世界中でおいしいモノを作って
人をたのしくさせようと一生懸命がんばっている人に
期待をし続けようと。

期待する。
期待を伝えて、伝えた期待に応えてくれる。
期待以上を得たときこそが、感動した! 
っていう瞬間で、感動のない生活なんて
ただ退屈で耐えられないもの。
それと同時に、お店の人たちから期待される
お客様にもなりたいなぁ‥‥、と。

そんなコトを思いつつ。
さて、来週。
話の続きをいたします。

 

2015-01-01-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN