194 レストランでの大失敗。その11。メニューブックの読み解き方。

レストランは大きく分けに2つの商品を揃えて
お客様を待つ‥‥、と言われます。

お店の人が売りたいモノ。
お客様が買いたいモノ。

お店の人が売りたいものが、
お客様が買いたいものであったとしたら、
そこにはなんの行き違いもない。
とてもシアワセなレストランであるはずなのです。

ですけれど‥‥。

大抵、お店の人の希望と、
お客様の期待が微妙に食い違う。
その食い違いを認めずに
自分の売りたいモノばかり取りそろえるお店は、
自己満足だとか、自信過剰なお店と言われて敬遠される。
職人気質でへんくつな調理人がやっている
オンリーワンのお店‥‥、
なぞとよばれるお店がそういうお店の一例。
東京のような都会で小さな店で商売をしていれば、
同じようにへんくつな人がやってきて
お店を満たしてくれるから
そこそこ繁盛しているようにみえるけれども、
それはとても特殊なシアワセ。

一方で、お客様が食べたいモノばかり
揃えるお店があったりもする。
ファミリーレストランと呼ばれるお店が
そういうお店のひとつで
そこには「特徴がないという特徴」しかなかったりする。
意思のない無記名の店。
わざわざ行ってみたいという魅力に欠ける。

お客様とお店の人との意思の疎通をはかるためのモノ。
それがメニューブックというモノ。
だからお店の人たちは一生懸命、
メニューに工夫をこらします。



メニューを彩る料理たち。
いろんな性格をもっている。
おいしくて、かならずお客様が満足してくれるだろう料理。
原価をあまりかけずにできているから、
売れれば売れるほどもうかる料理。
手間をかけずにテキパキできて、
だから忙しいときに注文してもらえるとアリガタイ料理。
できればその本当の価値をわかってもらえる
お客様だけにたのしんでもらいたい料理。

一方、お客様の心の中には、
得をするには何をどのようにたのめばいいのか
という気持ちもあって、
それらが交わり合って戦う機会が
料理を注文するという場面。
だからますます、
レストランはメニューに工夫をこらすのです。

そういう見方でこのお店のメニューをみると、
これがとても良く出来ている。
「良く」というと正しく伝わらないかなぁ‥‥。
とても「良心的」で「正直に」できていた。



メニューを開きます。
冷たい前菜、温かい前菜。
サラダにパスタ、当店のスペシャリテなど、
わかりやすく分類されたそれぞれのカテゴリー別に
料理が10品ほどずつ割り当てられている。
メニューブックの中に書かれる料理の順番には、
一般的な法則がある。

それぞれのカテゴリーの最初に配置されるもの。
前菜系の料理ならば「すぐに提供できる料理」が並ぶ。
パスタやメインのようなカテゴリーであれば
「誰もがしっていて無難な料理」
がまず並ぶようになっているのです。
それに続いて、「ぜひ、食べてほしい料理」が配されて、
こんな料理もあるんですよ‥‥、
とさまざまな料理が続いていく。
そして終わりに向かっていくにしたがって、
特別の機会をことほぐにふさわしい贅沢な料理が顔を出す。
例えば初めていったお店であれば、
それぞれのカテゴリーの2番目か3番目に
書かれた料理を食べればそこのお店が売りたい料理。
つまり、自信をもって作っている料理を
食べるコトができると言われたりもするのです。

いかがでしょうか?とその夜勧められた、
生ハムとモッツァレラチーズの前菜は堂々、
メニューの一番最初に書かれてる。
バジリコのパスタは、パスタカテゴリーの3番目。
仔牛のグリルは、肉料理の2番目を誇らしげに飾ってる。
しかもどれもが決して高くはない値段。
食べて欲しい料理がこなれた値段であること。
それが「良心的で正直」なレストランを見分ける
ひとつのヒントなんだと、
自分に言い聞かせるようにつぶやくと、
それを決して聞き逃さなかった母が一言。

「仕事の話はレディーのいる前でせぬことよ」‥‥、と。

さて来週にいたしましょう。

 

2014-12-11-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN