194 レストランでの大失敗。その2。カプチーノをディナーの後に頼んではいけません。

デザートも入らないほど、お腹いっぱい。
フィレンツェの美味を堪能した
レストランでの出来事でした。
カプチーノを食後に飲みたいという母の一言に、
レストランはてんやわんやの大騒ぎ。
シェフまででてきて、彼らが言うには、
カプチーノみたいにお腹が膨れるものを
食後にたのむとはけしからん。
うちの料理でお腹いっぱいにしたくないから、
カプチーノをたのむんだろう‥‥、と。

いや、そんなことはないんだよ。
料理は本当においしくて、お腹いっぱい。
でもどうしても、
カプチーノが飲みたいだけなんです‥‥、
どうか作ってくれませんか?
と、事情を説明するのだけれど。
イタリア人ならそんな不作法はしないと言われて、
「あら、ワタシは大和撫子よ」と母はつっぱり、
ますますシェフは意固地になる。

お腹いっぱいというけど、
デザートを食べていないじゃないか‥‥、
と、言われて、分かった。
甘いモノを食べた上でカプチーノを飲めばいいのね!
って、母は一言。

「デザートメニューを見せて頂戴!」



メニューを見るもなにも、ボクは本当に腹一杯で、
もしデザートを食べる羽目になったら
ジェラートですませようと思ってた。
ピスタチオのジェラートがおいしいというので、
迷わずそれ。
母は「Bongo」って名前を見つけて、
おもしろそうじゃない‥‥、ってそれを指さすと、
ウェイターは「グッドチョイス」ににんまり笑う。

あぁ、スゴいのが出てくるんだろう‥‥、
って思っていたら、
お皿に山のように小さな揚げシューが盛り上げられて、
そこにトロンとチョコレートソース。
プロフィットロールって名前で知られた、
どっしりとしたデザートの大盛りバージョンがやってくる。
それで十分、少食女子の一食分ほどありそうな、
ボリュームたっぷりのお皿を見つめて、
「あら、おいしそう。お腹がすくわね」と強がる母。
ボクがたのんだジェラートもどっしり、タップリ。
しかも分厚く大きなビスケットがささってる。

「トルタ・デッラ・ノンナをサービスしておいたから」‥‥、と
不敵に笑うウェイター。
あばぁちゃんのケーキと名前はやさしいけれど、
アーモンド風味のビスケット生地の中に
カスタードクリームを詰めた、
それで十分デザートとして成立しそうなボリュームで、
それでも食べた!
今日の別腹と、明日の別腹。
それから明後日の別腹までも動員して、
なんとかお腹に押し込んで、
あぁ、終わったと思った
その絶妙のタイミングにてカプチーノがやってきた。

あぁ、それは意地悪なほどに
大きなカップになみなみ注がれ、
ミルクの泡がそこからこぼれ落ちそうなほど。
取っ手に指を突っ込み持ち上げようにも
重くてそれは果たせず、
両手でズッシリ持ち上げ飲まなきゃいけないボリューム。
これはおそらく「試練」でしょうネ。
郷に入っては郷に従えというルールを守らず、
我を張ってしまったことに対する試練。

エスプレッソのビターな味わい。
しかもミルクの泡が甘くて、トロンと喉を撫で回す。
さすが本場のカプチーノ。
オイシイよなぁ‥‥、と思いながらも、
けれどかなりの重量感。
お腹にポッテリ溜まっていくのが
食後のお腹にはかなりのつらさ。
これなら、フォカッチャにカプチーノで
十分食事がわりになるほど。
おそらくカプチーノは日本における味噌汁で、
たしかに食事を終えた最後に、
味噌汁頂戴って言ったら叱られるに違いない。

だから食事の後にはエスプレッソ。
ほんの少しの苦みばしった液体を、
お腹の中に収めて消化の助けとする。
つまり、それは「飲み物」ではなく
「消化を助ける飲む薬」。
それをキュキュッと粋に煽って、
ごちそうさまというのはつまり、
食べ過ぎちゃうほど美味しかった!
というメッセージ。

ボクらはそれとは違ったメッセージを
知らずに送ってしまっていたのです。


お腹いっぱい以上にお腹はいっぱい。
テーブルから立ち上がるのも億劫なほどに
お腹を満たしたボクら。
シェフがニコニコしながら近づいてきて、
ガラスの瓶をトンッとテーブルの上におく。
そしていいます。

さぁ、食後にレモンチェッロはいかがかな‥‥、って。

空気を吸うのも苦しいほどです。
申し訳ない。
もう勘弁していただけませんか‥‥、
と言うボクたちにシェフは瓶を紙でグルグル包み、
旅のお供にと一本丸ごと、おみやげとしてもたせてくれた。
大食いのイタリア人も惚れ惚れするほどの食べっぷり。
特に、そちらの小さな体のレディーの食欲には
感服しましたと、ハグにキス。

食べる角には福来たる。
レストランでの失敗のそのほとんどは、
なりふり構わずおいしく食べるコトで解決されるモノ。
まだ失敗は続きます。


2014-10-09-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN