194 レストランでの大失敗。その1。外食慣れした人、していない人。

外食慣れした人。
外食慣れしていない人。
その違いはどこにありますか?

と聞かれることがあります。
そう質問する人にとって、
外食慣れした人はレストランで得する人。
外食慣れしていない人は、
お店でおどおどしてしまい得することができない人と、
そういう意味で「慣れる、慣れない」を
使うコトが多いのですね。
そして、こう質問を続ける人もなかにはいらっしゃる。

何度くらい。
どのくらいの頻度で
外食をすれば外食慣れするコトができるでしょう‥‥、と。

使う回数が多いから、
外食慣れするかというと決してそんなコトはないんですよ。
レストランを使う回数が多いと中には、失敗がある。
なんであんなコトをしちゃったんだろう‥‥、
って後から考えると顔から火が出るような経験や、
お店の人から間違いを指摘されるようなこともある。

レストランで失敗した経験がないんですよネ‥‥、
っていう人に限って、お店に行っても、
自発的にメニューを決めたりしないコトが多い。
誰かが決めてくれたメニューを、
ただモクモクと食べてるだけでは、
失敗のしようがなくて当然でしょう。
あるいは、失敗をしているのに、
自分が失敗したと気づかぬ人もいる。
気づかないから直しようがなく、
何度も何度も同じ失敗をし続ける。
レストランを「使い慣れている」のに
「外食慣れ」したとは思ってもらえぬ人ほど、
さみしい人ってないでしょう。

レストランで沢山の失敗を経験した人。
失敗のたび、何かを学んで、同じ失敗をしない人。
自分が失敗してしまったと、
お店の人のリアクションから気づく人。
失敗しつつある状況を、修復したり、してしまった失敗を
「災い転じて福となす」コトができる人。
そういう人が、外食慣れした人っていうのだろうと
思うのです。


ボクも沢山失敗しました。
特に母と一緒に旅行をしたときの、数々の失敗話は
今となってはたのしい思い出。
しかも、失敗のたびに
いろんなコトを学んで賢くなっていく。
なにより負けず嫌いの母のコト。
失敗を失敗にしない押しの強さと笑顔で、
お店の人と仲良くなるキッカケにしたりするのです。

さて、先週の「おいしい店とのつきあい方。」は
イタリアンレストランに失礼なお客様が最近増えたと、
シェフから相談された話で終えました。
実はそのシェフが「失礼だ」と憤慨するのと同じコトを、
ボクらは昔、イタリアで、した。
場所はフィレンツェ。
東京でいつもお世話になっていたイタリアンレストランの
シェフに教えてもらったお店で、
注文すべきモノを手帳に書いてもらって
それを見せながら注文をする。

生ハムをまずたのんで一緒にワインをスポン。
薄切りにした生のズッキーニをチーズとオリーブオイル、
それからバルサミコで味わう野菜のカルパッチョ。
産地が近いからこそのおいしさだよね、といいながら、
出てくる焼きたてフォカッチャを食べると
先が続かないよ‥‥、と注意しつつも手が伸びる。
白いんげんの煮込みに
カラスミをすりおろしてもらってハフっ。
ジャガイモニョッキをチーズソースでからめたところに、
胡椒をたっぷりふりかけたもの。
メインディッシュに、フィレンツェ名物の
ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナを
たのもうとしたら、
お前たちは本当に食べることができるんだろうな‥‥、
と念を押される。
果たしてやってきたステーキは、
両手を広げたくらいのサイズで、
骨を挟んでサーロインとヒレを同時に味わえる
アメリカ的にはTボーンと呼ばれる逸品。
炭で焼かれた表面ががっしりとして、中はレア。
脂の風味がおいしくて、
明日の朝は寝坊して朝ご飯をスキップしましょ
といいながら、ペロリとキレイに食べ上げた。

甘いモノはどうしましょうか‥‥、
と言われてさすがにお腹はパンパンで、
食後のコーヒーだけにしておきますとお願いをした。

エスプレッソでよろしいですか?
と、そういうサービス係に母。
「カプチーノをいただけないかしら」とニッコリいいます。
さて、ウェイター。
カプチーノのご用意はいたしかねますといい、
エスプレッソが苦手ならば
ハーブティーなどのご用意もございますが‥‥、と。

あら、不思議。イタリアのレストランなのに
カプチーノもできないの?
エスプレッソはあるんでしょう?
ミルクがなくてできないの?
本場のカプチーノってどんなモノなのか、
ワタシ、ぜひ飲んでみたいの。
お願いします‥‥、と。

そういう度にサービス係の顔は曇って、
困ったなぁ‥‥、って空気が漂う。
ちなみに失礼なお客様が増えてきたというシェフが、
嘆く理由が、食事の後にカプチーノだとか
ラテだとかをたのむ人が増えてきた、というコトでした。

そのとき、母は一歩もひかず、
カプチーノを飲ませてくれないんだったら、席を立たない。
帰らないってぐらいの勢いで、呪文のように
「カプチーノ」って言葉をずっと繰り返す。
カプチーノなんてたのむ奴はどこのどいつだ!
と、厨房の奥からシェフがとうとう飛び出してきて、
ひと騒動。

イタリア料理の最後になんでカプチーノって失礼なのか。
そしてこの夜、母は果たしてカプチーノを飲めたや否や。
来週、お話いたします。




2014-10-02-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN