194 コース料理のたのしみ方。 その2乾杯のタイミング。

サービスをする人たちにとって、
すべてのテーブルは平等であるべき。
お客様をもてなす原則のひとつであります。
けれど、本当にすべてのテーブルが平等に
サービスを受けることができるかというと、
決してそんなコトはない。

そもそもサービスっていうのは
一体どういう行為をいうのか?



「基本的にサービスというのは
「お店の人が手ぶらの状態で行うモノ」
であるとボクは思っています。

料理を運ぶ。
食べ終わったお皿を下げる。
こういうコトはサービスじゃなく「作業」であって、
それがどんなに丁寧に、
それがどんなに正確に、
あるいはどんなに頻繁に行われても、
それだけではいいサービスを受けたことには
ならないのです。

レストランの現場では、
熟練していないサービススタッフのコトを
「皿運びさん」と呼ぶことがある。
まさにお皿を運ぶ人。
それ以上のサービスを使う側も期待しない
「頭数」としての労働力。
ホテルや大きな宴会場では、そういう人たちのことを
「配膳さん」と呼び、その配膳さんたちを派遣する
配膳会という組織や会社があったりします。
結婚披露宴なんかで、キビキビと流れるようにお皿を運び、
そつなくすべての作業をこなす。
けれど笑顔がほとんどなくて、何か質問しても
「聞いてまいります」と決してその質問に答えたり、
自分の意見を言ったりしない。
そういう人たちが配膳さん。

大きな宴会が催されるのは不定期で、
だから必要なときだけ作業のプロに来てもらう。
高級なホテルでも配膳さんの役目は重要。
彼らが作業をしてくれるから、
他のスタッフはサービスをお客様に提供するという
本来の仕事に集中できることになる。

そう考えると、サービススタッフが
お皿を手に持っているとき、
サービスを要求してはならない
というコトになりましょうか。
忙しく出来立ての料理を運ぶ人に、
「すいません」と声をかけること。
すいませんと丁寧な言葉づかいではありますけれど、
それはサービスできない人に対してサービスを要求する、
暴力ににも似た行為。
サービスをしてほしい時には、
手にお皿を持っていない人を
探すことからはじめましょうネ。


ちなみに、サービススタッフにとって、
サービスをする上で基本的なルールがあります。
お皿が置かれているテーブルからは目を離さない。
お皿がなくなってしまったテーブルはなるべく見ない、
というルール。

お客様が料理を食べている間は、
サービスのキッカケが沢山あります。
塩や胡椒と言った調味料を必要とされてはいないだろうか?
ナイフやフォークは足りてるか。
お皿の上を転がる豆に難儀されていたら、
スプーンをもっていって差し上げようか。
お水やワイン。
お客様の手元にあるグラスの中は
さみしくなっていないかしらと、
見れば何かしらのサービスのキッカケが発見できる。
なによりそこには「料理」という、
お客様と従業員との共通の話題があって、
今日の食材の説明や、
ちょっとした楽しみ方のコツを教えて差し上げられる。

お皿の上の料理がなくなり、テーブルの上からお皿を
「引く」という作業。
これが完了すると、
一連のサービスが終了したというコトになる。
それからしばらく。
次の料理がやってくるまで、
その食卓はお客様のプライベートな空間になる。
「お料理はお口にあいましたでしょうか?」
などの言葉を残して、テーブルの上がキレイになったら、
こちらが呼ばぬかぎり
テーブルに彼らがやってくることはない。
例外はワイングラスが
残り僅かになったときくらいでしょうか。
かと言って、サービスをおねだりするために、
グビグビ、ワインをがぶ飲みするのは、
あまり褒められたことじゃない。


ここで復習。
じっくり時間をかけてたのしむコース料理の食卓で、
一皿と一皿の間の時間は15分ほど。
その15分をサービスをタップリ受けながら過ごす
15分にするか。
それともサービスなしの15分にするか。
せっかくだったら、
サービスをふんだんに受けるコトができる
15分にしたいですよね。
ならば、早食いはグッドサービスの敵。
ちょっとでも長くテーブルの上にお皿を乗せた状態にする。
それが「いいサービスを受けるコツ」の
ひとつだったりするのです。

それはそうと、料理をグズグズ食べていたら
おいしくなくなっちゃうよ…、と言われて育ったボク。
特にボクの実家は飲食店を経営していたこともあり、
みんな早食い。
忙しいときなんて、店に呼ばれて、
ココで晩御飯を食べて行きなさいって、
店の厨房で立ったまま食事をしたりしたこともある。
料理は出来たてがなによりおいしい。
にもかかわらず、よいサービスを受けるためには
ユックリ時間をかけて味わえ! とは、
なんたる矛盾。
来週、矛盾解消を試みます。



2014-07-03-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN