さて、飲食店の料理の値段はどう決まるのか。

いろんな考え方があって、
ひと言で説明するのがとてもむつかしい問題。
それがレストランの「値付け」というモノ。

例えば「お客様が決めているんだ」と言う答えがあります。
飲食店は客商売。
だから、どんなにおいしい料理をつくろうが。
どんなに立派なインテリアで、
すばらしいサービスでもってお客様をもてなしたとしても、
お客様が「高い」とひと言おっしゃれば、
値付け失敗というコトになる。
つまり「お客様が値付けしているのと同じなんだよ」
という、確かに優等生的な答えではあります。

アメリカなんかで払うチップ。
お客様が自分が感じた満足にあわせて、帳尻合わせをする。
つまり、お客様が料理の値段を決める行為なんだよ‥‥、
という人もいる。
チップは料理にではなく、
サービスに対して払われるモノであるはずだから、
単純に、その意見にボクは賛成しかねはする。

とは言え、料理の値段の中には
サービスの良し悪しも含まれているんでしょう‥‥、
と言われると、確かにそうかと
ちょっと気持ちがゆらいだりする。


かつて日本を代表するホテルチェーン。
ほどよい高級感と合理性を兼ね備え日本中に支店をだして、
一時は跳ぶ鳥を落とす勢い。
ところが景気が低迷しはじめると、
中途半端な高級感が足をひっぱり、業績不振に陥った。
当時の高級ホテルというのは、
レストランと宴会場が稼がないと
利益がでない構造になっていました。
だから彼らは一生懸命、
レストランの売上を伸ばそうと
いろんな策をほどこしました。
けれど、おいしい料理やよいサービスを
提供してくれるレストランが
ホテルの外にもたくさんあって、
彼ら自身も他のレストランに負けないようにと
必死に爪を磨いている。

そもそもホテルのレストランの厨房というのは
融通が効かないようにできているのです。
いつでも同じような料理を作り続けるように出来ていて、
しかも24時間動くことを宿命付けられている。
特徴の料理をつくるコトが苦手な厨房。
サービスだってホテルの格式から大きく外れた、
例えば「フレンドリーなおもてなし」なんてコトは
なかなか試せなかった。
何しろ、日本中にイタリアンレストランが沢山あって
フランス料理を凌ぐほどの人気があっても、
ホテルの洋食といえばフランス料理に決まっていた。
そんな窮屈なホテルレストランの堅苦しさを、
なんとか壊そうと、
それで彼らが苦肉の一手として放ったのが、
「食べた満足度に合わせて
 お客様に値段を決めていただきましょう」
というキャンペーンでした。

結果はどうなったか。
ほとんどお客様がこなかったのです。
つまり失敗。
だってコワイですもん。
自分が食べたものに値段をつけなくちゃいけない。
高く払い過ぎたら損をする。
安く付け過ぎたら恥をかく。
どちらにしても、
レストランで食べ慣れていないお客様だとか、
あるいはただただ羽振りがいいだけの客なんだとか、
思われるのがコワくてしょうがなくて足がお店に向かない。
結局、値段のガイドラインをレストラン側が作って
メニューの名前の下にこっそり、記入したりしはじめる。
結局、それって普通のメニューブックですよねって、
多くの人に笑われた。

飲食店においては、値段まで含めてのおもてなし。
お客様に高いと思われない値段をつけて提案することが
お店の責任というコトなのです。


一方、「ライバル店に負けない値段」を
つければいいんだという人もいる。
たしかに同じような料理を売っている
ライバル店の価格設定を意識するのは、
商売としてはしょうがないコト。
けれど他のお店の値段を気にするがあまり、
こんなコトが起こったりします。

チェーン店の居酒屋に行って、メニューを開きます。
どこにいっても同じような料理が
同じような値段でそこには載っている。
一体、今、自分はどのお店に来ているんだろう‥‥、
とメニューを見ているだけでは
わからないようなコトがよくある。
メニューを作るとき。
そういう居酒屋の商品開発をしている人は、
ライバル店のメニューを徹底的に分析し、
いくらくらいのメニューをどのくらい揃えれば
彼らに負けないようにできるかというコトを
食品メーカーに伝えるのですね。
日本全国何百店も出ている、
安価に売れる均一化された食材なんて、
そんなに種類があるわけじゃなく、
しかもその食品メーカーに他の居酒屋チェーンも
同じようなリクエストを送ってきたりするわけです。
気づけば日本中が同じような居酒屋メニューに覆われる。
まるでみんなで手をつないで
ゴールテープを切る徒競走‥‥、みたいな競争。

負けないように他人の出方を気にしつつする戦いは、
ときにこんなに滑稽なモノ。

お客様がわざわざ行ってみたい。
そこの料理やサービスをこころおきなく
たのしみたいと思ってもらえるお店は、
自分の売りたいものを売りたい値段で
うれる自信があるお店。
そして、お店の人が売りたいと思うものを
売りたいと思う値段で買ってくれる人が
ファンがいてくれるお店はシアワセな店。
そういう店を「名店」と呼ぶのだろうと思います。

負けないようにではなく、
勝つためにがんばっているお店の人たちが、
勝つための定石として心がけている法則が
今日の結論となってくれます。

飲食店の値段というのは、
「使った食材の仕入原価のだいたい3倍」。

さて来週に続きます。

2014-04-03-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN