そもそもレストランビジネスは広告業なんだ‥‥、
っていう人がいます。

確かにレストランの経営者の人たちが
気にするコトのひとつに
「どうやって、お客様を集めようか」というコトがある。
ライバルと違った特徴をアピールする。
そのコトによって、お客様の関心を集めて
それを売り上げにつなげるというコトを、
もし「広告だ」と定義するなら、
まさにレストランのすべてが広告。


ファミリーレストランが日本全国、
ロードサイドに出店しはじめた頃のコト。
新しいお店を作ると当然、人を採用する必要がある。
店長さんや調理長というような人は、
会社が採用して新しくできるお店に配属することになる。
けれどアルバイトやパートさんという人たちは、
お店で採用することになるのですね。
ちなみに郊外でファミリーレストランを
新築しようとすると、
建築開始から2ヶ月ほどの工程を必要とするのです。
何十人もの店舗スタッフの中心で
働けるような人を育てようとすれば
2ヶ月とか3ヶ月とかを必要とする。
だからお店の建築がスタートする前から、
スタッフ募集のチラシを配ったりすることになる。
ところが最初はうんともすんとも、反応がない。
この町にはレストランで働こうと思うような人は
いないのか‥‥、って心配になるほど
返事がやってこないのです。
ところがそのうち、柱が立ちます。
大きな屋根がその上にのり、徐々にお店の形ができてくる。
すると徐々に履歴書が送られてきたり、
面接してくれませんかと、
連絡が入ってきたりするようになる。

どんなチラシよりも、飲食店の立派な建物は
人の注目をあつめる優れた求人ツールになる。
人の注目を集めるというレストランの特徴のある建物は、
当然、お客様の注目も十分集める。
だからファミリーレストランチェーンはどこもこぞって、
ひと目でそれぞれのレストランだということがわかる
建物造りにまずこだわった。
建物から作り始めるコトができるわけではない
町中のレストランでも、
例えば、目立つ場所に立派な看板を立てるというのも
広告になる。
ちょっとした駅前にたつと
ファストフードや居酒屋の看板だらけ。
みんなこぞって「見て、見て!、ボクを見て!」
って言うから、逆に目立たなくなっちゃうようなコトが
そこここで起こったりする。

店の外観だけでなく、お店の中にも趣向を凝らす。
お店の外観は、はじめてくるお客様にアピールするため。
お店の内装は、来ていただいたお客様に
もう一度来てくださいネ‥‥、とお願いするためのもの。
どちらもそういう意味では等しく広告。
似通った外観のお店のどちらを選ぼうかとか、
インターネットや雑誌の情報を元にお店を選ぼうと、
そういうときにはお店の内装の写真をたよりに
判断したりする。

ボクもそうすることがよくあるけれど、
失敗しないお店選びのヒントをひとつ。


実は、写真映りのいい店を作るコトが
上手なデザイナーとか建築家とかがいるのです。
飲食店の業界誌ではなく、
建築雑誌に取り上げられるようなお店を作る人。
たしかに写真を見るとほれぼれするようなインテリアで、
けれどその写真映りの中には
「居心地の良さ」は含まれてない。

写真映りのいい店というのは大抵の場合、
「陰影のコントラストの強い店」。
ピンスポットの下に座ると、
薄くなってしまった頭がバレてしまったり、
ほうれい線が強調されて
実年齢より10歳ほども歳をとってみえたりしちゃう。
広さより奥行きを強調した写真を好んで使う店があって、
それは短い足がばれないように
足元から見上げるようなアングルで
写真を撮りたがる人がごとし。
つまり、思ったよりも大きくはない、
息が詰まるようなお店が多い。
お店の写真をみるときは、
そこに写っている椅子やテーブルの素材は
何を使っているんだろうとか、
壁や床は音を跳ね返すような素材なのかなぁ‥‥、
だとしたら大きな声で話し笑える、
にぎやかなお店に違いないとか、
そこに自分の身をおくつもりで見るといい。

まぁ、それでも失敗してしまうのが
お店選びのむつかしいところ。
写真映りのいいことが
唯一のとりえのようなお店を選んでしまったときには、
一番安くて早く食べ終えられそうなものをたのんで、
帰ることにする。
それもひとつのおいしい勉強。


ちょっと話が脇道にそれちゃいましたか‥‥。
言いたかったのは
「飲食店は店そのものが広告ツール」であるというコト。
にもかかわらず、それに満足することなく、
お客様の心をひこうと手を変え品を変え、
アプローチするお店があります。
今日も街を歩いてて、
交差点のところでティッシュを手渡され、
見ると近くの居酒屋チェーンの
「生ビール一杯サービス」って印刷されてた。
そういうお店はどういうお店?
そのチケットをどう考えればいいんだろう‥‥、
って、また来週といたします。


2014-01-23-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN