さて、ちょっと寄り道をいたしましょう。

フォーマルな食事とプライベートな食事。
その両方をへだてる一番大きな違いといえば、
「席次」じゃないかと思います。
好きなところに座っていいプライベートな食事と異なり、
フォーマルディナーや接待の席にあっては
事前に座るべき場所がそれぞれ決まっているのがルール。

例えば晩餐会にお呼ばれしたといたしましょう。
あなたがその日、座るべき場所はしっかり決められている。
招待者との関係性が深ければ深いほど、
その場所は招待者から近いところにあり、
ラストネームやその人の所属がわかりはするけれど
ファーストネームまではわからぬ程度の人は、
遠くに席が用意されていることが通例で、
一旦着席するや、席を変わったりすることはなかれと
念をおされる。

晩餐会を模して開催される結婚披露宴でも
座席表というのが用意されていて、
基本的にそこに座らなくちゃいけないようになっている。
ただ、招待者である新郎新婦との関係性より、
往々にして両親との関係性であるとか
世間的に大切にされるべき人に
招待者から近い席が用意され、
関係性の深い身内や友人が遠いところに割り当てられる。
「逆さ晩餐会」のような感じであるのが
日本的といえば日本的。




とは言え、なぜフォーマルな食事の機会で
席がキチンと決まっているのか?
理由は3つあるように思います。

まずは、そこに集った人たちの関係が一目でわかる。
その会食に参加している人たちにとって、
それは便利であると同時に、サービスをする人にとっても
誰を優先してもてなせばいいのかというコトがよく分かる。

2つ目の理由は「会話がはずむ」環境づくり。
フォーマルな会食は時間がかかる。
特に不特定多数の人たちが集まるパーティーのような場所。
乾杯までに延々時間がかかったり、
料理と料理の間があいてしまったり。
知り合いが運良くいてくれれば
まだ気が紛れるに違いないけど、
そんな幸運がそうそうあるはずもなく、
フォーマルパーティーとは
忍耐が試される場所であることが極めて多い。
だから隣やお向かいにどんな人が座るかというコトは、
たのしく時間を過ごすための
最も重要なポイントだったりするのです。

そこでステキな会の主催者は、
どのお客様とどのお客様を同じテーブルに座らせようか。
なるべく趣味や仕事の内容が同じような人たち同士を、
近くに座らせ話が盛り上がるようにしてあげようと、
一生懸命考える。
パーティー上手と呼ばれる人の作った席次表には、
たのしい出会いとゴキゲンな友人作りの
チャンスに満ち溢れていたりする。

そしてもひとつ、そして最後の理由。
実はこれこそが接待において重要なコトなのですけれど、
大切にもてなされるべき人に
「サービスが行き届く席」を用意してさしあげるため。
そのため、お客様には
この席に座っていただかなくてはならない
というルールが出来上がったりしているワケです。




テーブルや座敷に座る座り方。
目上の人に上席を薦める仕方などが
いろんなマナーブックに書かれています。
曰く。
床の間の前の席が上席である。
入り口に対して奥の席が上席で、
個室でないときは
通路や厨房から遠いところが良い席である。
そんなコトがよく書かれてる。
床の間のような立派な景色を背負って座ると、
人は立派にみえるモノ。
お客様を立派に見せるというコトは、
その人をもてなすという行為の一部。
通路際でない奥の席は、居心地が良い。
居心地のよい席をおすすめするのも、
その人をもてなすという行為の一部。
けれどお客様をもてなす立場の
サービススタッフにとっては、
「最高のサービスをさせていただくために
 お客様に守ってほしいルール」なのです。

洋の東西を問わず、料理はお客様の右手から出し、
左側から下げるというルールがあります。
とは言え、テーブルの形や部屋の中での位置に応じて、
このルールが揺らいで、
「左側から失礼致します」と料理をお出しすることもある。
けれど飲み物。
特にワインのサーブに関しては、
どんなコトがあろうと「右から注ぐ」。
理由は、ワイングラスは必ず
お客様の右手に置くと決まっているから。
右側に置かれたグラスに、左側からワインを注ごうとすると
自然と、お客様の目の前をワインのボトルが
横切るように突き出すことになってしまう。
それはあまりに失礼で、
しかも粗相をすると大変なコトになってしまうから、
必ず右からワインを注ぐ。

とすると、右側からサービスがしやすい席が上席で、
お店によってはその上席であるべき席が
通路に面した落ち着かない席であったりすることがある。
なやましいです。
さて、どうしよう。
テーブルの奥の席は庭に面して景色がよくて、
落ち着くけれどサービス行き届かない席になる。

実は、そんなお店で接待をしなくちゃ
いけないコトがありました。




個室もある。
けれどそこはドッシリとした重たい空間。
窓もなく、密談にこそふさわしく、
おいしい料理で互いの気持ちをほぐしてくれるような
雰囲気ではない部屋。
それにその店は、お店の人とお客様との作り出す
華やかな雰囲気こそが最高のゴチソウで、
しかも東京タワーを真正面に眺めることができる
とびきりのテーブルがある。
ところがそのテーブルこそが、
右手からサービスしづらい場所に
上席がある店だったのです。

しょうがないからお店の人に相談しました。
お店の人はニッコリ。
そういうことであれば、おまかせください。
当日はお客様を、お庭の見える奥のお席に
自信をもってご案内くださいませ、と答えてくれる。

そして当日。
その店にいくとなんとお願いしていたテーブルの、
お客様が座る席の後ろ側。
本来あるべき隣のテーブルの椅子がすべて取り払われて、
ユッタリとした通路になってる。
これなら後ろ側から回ってサービスできる。
ルール通り、右手から。
しかもプライバシーもたのしめて、
申し訳ないですねと言ったら、
今日は予約をあまり頂戴していなかったものですから、
ご要望に添えてうれしゅうございます、と笑顔でニコリ。
なるほど、おもてなしのソリューションは
お店の人の経験と機転の中にあるのだなぁと
感心させられた出来事でした。

さてさてところで、この上席とか席次とかで
説明することができぬおもてなし文化が実はあるのです。
来週、お話いたしましょう。


2013-08-29-THU