おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。
(四冊目のノート)
日本に生まれてよかったなぁ‥‥。
そう思うコトが最近、おおくなりました。

山や海、野を彩っているゆたかな自然。
その自然をおおっているうつくしさに、
まさるとも劣らない街の姿かたちのうつくしさ。
春、夏、秋、冬。
きっぱりと変わり続ける季節の、
それぞれに味わい深くて
まるで空気までが全部、
すっぱり入れ替わってしまうかのようなその変化。
このような国を他に探すことはむつかしい。
そう思うコトが最近、おおくなったのです。

日本人に生まれてよかったなぁ‥‥。
そう思うコトも最近、おおくなりました。

おだやかで、相手のことを思いやることが
自然にできる日本人のすばらしき美徳。
失敗をいたずらに追及するのでなく、
失敗した人の気まずい気持ちを
おもんぱかることができるやさしさ。
情けは人のためならず、
という寛容が自然とココロの中にフワンとやってくる。
海外に行ってそこでいろんな人と出会って、
いろんな厳しい人間関係に接すれば接するほど、
日本人である自分のステキを思い出す。
日本人にうまれてよかったなぁ‥‥、
と、そう思うコトがおおくなったのであります。


しあわせなコト。

そんな日本に日本人として生まれて、
ああ、よかったなぁ‥‥、
と中でも特に思うのが料理の世界。
あるいはレストランの世界だろう、と思います。

日本にいると世界中の料理を
気軽に食べることができるからシアワセだ。

そういうシアワセも確かにあります。
でも、世界中で今、豊かになるということと、
食べるものが多様になるということが、
同義語であるのじゃないかしら、と思うほど、
世界中でいろんな国の料理が食べられるようになっている。
世界的規模で豊かになる、というコトは、
世界中で同じものが食べられる、というコトですね。
マクドナルドやスターバックスが
世界、どこにいってもあって
同じものを食べることが出来る、というコト。
一方、ある国やある街が豊かになる、というコトは、
そこで世界中のものが食べられるようになる、
というコトなのですね。
だから今、確かに日本。
確かに東京は世界でもとても豊かなところだけれど、
でもそれだけが日本に生まれたシアワセじゃない。

日本人はもともと器用で、
だから日本人が作る料理はおいしい。
だから日本にいるということはシアワセなんだ、
という人もいます。

確かに日本人の料理に対する感性はすばらしい。
何故そうなのか?
という理由を云々しはじめると大変なことになるので、
ココはこれ。
代々、ボクたちが受け継いできた
おいしい記憶がしみ込んだDNAに
素直に感謝することといたしましょう。
いろんなところでその感覚のすばらしさが
証明されている現場に遭遇することができるんですね。
例えばフランスに言って、
フランス料理のレストランに行ったとしましょう。
とても繁盛している。
キチンと星も取っていて、
なによりとても洗練されて食べやすい料理であった‥‥、
ような気がするそのレストランの、
厨房を覗くとたいていそこには日本人シェフがいます。
かなりの確率で‥‥。
それも副調理長のような重要な役割で
厨房の中でテキパキ、働いていたりするんですね。
それが副料理長であって、料理長ではない、
‥‥、というのがまたほほえましいところであって、
やはり「独創性」とか、
フランス料理における「本物性」というコトに関しては
フランス人の方が数段上。
でも、決められたことを決められたとおりにやりとおす、
という点では日本人にまさる国民性はない、と言います。
なにより日本人の舌の繊細さに
かなう人はなかなかいない、とも言われます。
誇らしいことです。

日本人が日本料理の世界で活躍する、
というのは当たり前のコトでしょう。
日本人が日本のフランス料理店で活躍する、
のもある程度、当たり前かもしれませんが、
日本人がフランスのフランス料理店で
活躍できるというのは、
やはり特別なことなんだろう‥‥、と思います。

ただ、ボクが日本人であってよかったなぁ‥‥、
とレストランで実感すること。
それは、日本人がもっている独特の「美意識」。
こまやかな部分に対するうつくしさへのこだわりが、
とても日常的に、特別でなく発揮される
日本の食のすばらしさに一番の理由がある、と思うのです。

これからしばらく、ワタシたち、
日本人が当たり前と思っていて
だからあまり大切にしようとしない、
でも日本人が誇るべき、
すばらしい食に対する感覚に関して、
ちょっと話をしてみようか‥‥、と思います。

まずは寿司のハナシから。
日本の料理の一番、
日本的でうつくしい部分を持っている日本が
世界に誇る料理文化。
今では世界中に広がりつつある、
つまり、世界的に認められ始めてもいる日本の文化。
‥‥、であることに間違いないであろう、
寿司のハナシであります。
しばらくよろしく。


実は昔、北米大陸からある仕事の話が
舞い込んできたことがありました。
アメリカではなくカナダの太平洋側の大都市で、
寿司バーを一軒作ってくれないか‥‥、
という仕事のオファー。
現地にくわしい日本人と
在住の中国系カナダ人との共同出資のプロジェクトで、
今から20年ほど前のことでしょうか。
今ほど、寿司レストランが一般的ではなくて、
とはいえ、グルメを気取るカナダ人が
徐々に興味を持ち始めている、という時代のコト。
はたしてどのくらい、受け入れられるのだろう‥‥、
という心配半分。
でもだからこそ、やりがいがあるんじゃないの‥‥、
という山っけ半分。
その仕事をうけて、
現地で打ち合わせをすることになりました。

で、最初にクライアントである2人から出た要望。
これにボクはガツンと頭を叩かれるような
思いをしたのでありました。
さて来週。
 
2007-02-01-THU