おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。
(三冊目のノート)

レストラン情報を集めることのできる、雑誌。
レストラン情報だけで1冊になりそうなくらい
特集のボリュームのある、雑誌。
たくさんあります。
半分仕事柄、半分趣味で驚くほどの雑誌を読みます。
毎週1度は必ず書店に行って、
雑誌で一杯になった紙袋を両手にぶら下げ
家に帰るのが習慣になってもうかれこれ20年。
全部の雑誌が勉強になり参考になるか、
というとそうでもなくて、
でもいつも買ってあげている雑誌を
買わずに置いておくのが、なんだか雑誌に申し訳なく、
それで気づくと買っている。
気になるページを切り取ったり、
あるいはこの店に行ってみよう、と思う店の
データを書き写したり‥‥、そんなことをしたりする。
情報源は多いにこしたことはないですからネ。

こうした雑誌が出始めたときにはビックリしました。
それまで外食産業に感心を持っている人向けの雑誌は
ある程度あったのだけれど、
一般消費者向けの雑誌にレストランの写真や
紹介記事がたっぷり載っていることなんて、
そうたくさんはなかったからです。
驚きました。
レストランビジネスに携わる人とは
違った視点のコメントが、とても新鮮に感じられたし、
業界誌にはのらないような面白い店が紹介されている、
ということにワクワクしながら読み込んだものです。
読み込むだけじゃなくて、
実際に掲載されているレストランに行き、
着々と自分ならではのアドレス帳作りに精を出す、
ようなことをしていました。


◆大失敗! ボクが店を選んだその雑誌は‥‥?!


あるとき会社の先輩にこんな質問をされました。
「今度、取引先を接待したいんだけれど、
 どっかいい店は知らないか?
 出来れば新しい店の方がいいんだけれど‥‥」
そういわれてボクは、
つい最近に読んだ雑誌に載っていた、
ある店のことを思い出しました。
「大人の雰囲気に溢れた和食ダイニングレストラン」
のような紹介のされ方をしていて、
それなら接待にいいんじゃないの、
と思って彼にそう言いました。
ううん、いいねぇ‥‥、ってな感じで
任せたヨ、と言われボクは予約までしてあげた。

数日後、先輩がボクのところにきてこう言いました。
「あの店、駄目だったヨ。周り、子供ばっかりで。
 ほとんど20代のカップルばっかりだったぞ。」
料理は悪くなかったし、店の雰囲気も良かったから
まったく駄目だったわけじゃないけど、
若い子の中にポツンと
おじさん達だけ4人のテーブルはかなり場違い。
だからあんまりくつろげなかったんだ、と言われました。

大人に楽しんで欲しい店、
という雑誌に書いてあったコメントとは裏腹に、
そこにきているお客様は若い人ばかりだった。
何故なんだろう?
おかしいですネェ、というボクに、
そのレストランが出ていた雑誌を手にしたその先輩は、
こう言いました。
「おいおい、これ、大学生向けの雑誌じゃないか?」
なるほど、そう言われて見直したその雑誌の、
他のほとんどの記事はキャンパスライフを
なんだらかんだら‥‥、みたいな感じの内容。
つまりこの雑誌の読者が「大人の気分」で食事をしよう、
と思ってその店に集まってしまっていた、
ということに気がついたわけです。
大失敗です。

大人のためのダイニングレストランが、
そうした若者向けの雑誌に記事を掲載してもらう、
ということそのものも大失敗でしょう。
が、その記事を鵜呑みにしてしまった
ボクもかなりの大失敗。
その後、そのレストラン。
多分、失敗に気がついたんでしょう。
他の大人向けの雑誌やメディアで一所懸命、
「大人向けレストラン」
を告知する努力をしたのだけれど、
結局、一番最初についてしまったイメージを
払拭することなく、
程なく、閉店を余儀なくされてしまいました。
いい店で、料理も決して悪くはなかったのですけれど。
残念でした。

どんなにそのお店が美しくても、
どんなにそこの料理が素敵であっても、
そしてどんなにそこで素晴らしいサービスが
提供されていたとしても、
最終的にそのお店の雰囲気を決定するのは、
お店にあつまるお客様。
つまりこのお店、どんなお客様が来てるんだろう。
そしてそのお客様の中で、ワタシは果たして
楽しく食事ができるんだろうか?
と思いながら、お店の情報を咀嚼する。
それが正しい店選びのコツのひとつ、
というコトになるのです。



◆雑誌のレストラン紹介、信じる信じない?!


ボクは「この店いいかなぁ」と思ったら
まず、掲載されている雑誌の
広告ページをみてみることにしています。
なるほど、このお店に行く人は
こんなハンドバッグを持って行くんだ。
この車に乗って、このジャケットを羽織ったような
人たちに来て欲しいんだな。
あるいは広告だけではなくて、
映画とか演劇とか、エンターテイメント関係の記事。
これもそのお店を利用する人たちの
「過ごしたい時間」に対する気持ちを知るのにとても便利。
こんな映画を好んで見る人と
一緒に食事したら楽しいだろうなぁ。
でもこうした音楽がもしお店の中に
ガンガンかかっていたとしたら、
ボクはちょっとイヤだなぁ。
そんな具合に、そのお店の状態を探る手がかり。
それに雑誌の様々な情報を活用してみる。
その通りである場合もあるし、
当然、そのイメージ通りではないこともあるけれど、
でも失敗の確率はかなり減る。
すくなくとも「場違いな場所に来たなぁ」と
後悔することはあまりなくなるような気がします。

そうした意味でボクは、
“いろんな雑誌に掲載されている店”を信用しません。
いろんな種類の雑誌からの取材を受ける店は、
つまり、いろんな人に来て欲しい店ということになります。
それはつまり、来ていただきたいお客様を
選ぶようなことも出来ない店。
そうした店が、素晴らしいサービスや料理を
作り出すことが出来る、とは思わないものですから。
厳しいかもしれないけれど、良い店を作るということ。
それは良いお客様に選んでいただく、
というコトから始まるのであって、誰にでも来てもらいたい、
もの欲しげな顔をしたレストランには
そうした我慢や情熱を感じることができないものですから。

雑誌広告のページの裏側には、
そのレストランを支持している
お客様のイメージが隠れている。
そういうことです。
今度、雑誌を眺めるとき、
ちょっと心がけてイメージするようにしてみてください。
面白いです。
楽しいです。

(つづきます)


Illustration:Poh-Wang


2006-01-19-THU

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