おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。
(三冊目のノート)

新しいお店の情報。
皆さんはどうやって手に入れてらっしゃるでしょう?
信頼できる友達。
レストランの事情に詳しい情報通の知り合い。
テレビやラジオ。
情報を手に入れることが出来る媒体は
たくさんありますが、中でも雑誌のレストラン情報。
気軽で一番、便利な情報源であろうか、と思います。

今でこそレストランの情報を扱う総合情報誌‥‥、
たくさんあります。
総合誌のレストラン紹介ページなんてのは当たり前で、
中には一般読者向けの
レストラン情報専門誌のようなものまで発行されてる。
レストラン好きにとっては、
本当に素敵な時代になりました。
ボクがレストランの様々に興味を持つようになった
今から20年以上も前には、
今のような情報誌はほとんど無かった。
だから「業界専門誌」が唯一、新鮮な情報源でした。
会社に行けば当然のように専門誌が転がっている。
どこそこにこんな感じのお店が出来た、
という記事が満載で、しかも写真まで掲載されている。
もう宝物のような存在でした。

特に写真。
へぇぇ、凄い店が出来たんだなぁ‥‥、
と思わず飛んでいきたくなるような写真が満載。
当時、流行っていたのは
アメリカっぽいカジュアルなレストラン。
例えばグラスがキラキラ輝くバーカウンターとか、
天井にグルグル回っている扇風機の羽根だとか、
それまでの日本の日常から遠ければ遠いほど
良い店、といわれていました。
だから雑誌のグラビアページ。
それはそれは魅力的で、
そこに出ている店を予約をしては
次々、訪れるのが日課のようになっていました。
勉強熱心なボク‥‥、でありますからネ。


◆ありゃりゃ?! なんだか様子がちがうぞ?!


ところが写真のイメージを
頭の中にインプリントして向かう。
地図を頼りに店を探して、
ココだ、ココだと喜び勇んでドアを開け、中に入る。
ふーん、こんな店なんだ、
と拍子抜けするのがほとんどでした。
ガッカリとか、失望とは違う。
拍子抜け!
写真でみたあのバーカウンターもある。
あの雑誌に出ていたあの扇風機も
キチンとグルグル回ってるし、
確かに写真どおりではあるのだけれど、
イメージしていた店の雰囲気とちょっと違う。
どうしてなんだろう‥‥、と思うことがかなりありました。
自分のイメージの作り方が悪いのかなぁ、と反省し、
まだまだ勉強が足りないのかなぁと
思ったりもするようになっていたのです。

そんなあるとき、一緒に仕事をした設計士の人が
こんなことを言いました。

「いい店って写真うつりが悪いんだよね。困っちゃうなぁ」

ええっ?
そうなの?
いい店は写真うつりが悪いって、一体どういう意味なの?
それでボクはその疑問をその通り、
設計士さんにぶつけてみました。

曰く。
店というのはそもそもお客様が入った状態で
美しく、しかも居心地が良いように作るので、
店舗だけを写真でとってもキレイには写らない、
というのが答えでした。
でも写真にキレイに撮れなくちゃ様にならないし、
宣伝にも使えない、というので、
写真写りがいいような店を上手に作る設計士もいるんだヨ。
たいてい、そんな人が作った店は、
まるで映画のセットのようにリアリティがなくて、
居心地が悪い店であることが多いんだヨ。
‥‥と。

なるほど。
お客様が座って初めて完成するのがレストラン。
お客様不在で美しいのは、ただの容れ物。
しかも、お客様以上にお店のインテリアの方が
立派でえらそうにしている店まであって、
そうした店に限ってレンズを通すと、
とても素敵で優しく見える。
まるで修正に修正を加えたお見合い写真を信じて
相手探しをする、哀れな中年男性のようなことを
ボクは一所懸命していたんだ、と思いました。
情けない!


◆写真から何を読み取るか? が大事です。


さてレッスンです。
レンズの目を信じちゃいけない。
雑誌に載った素敵なお店の写真で
店の良し悪しを判断してはいけない、というコトです。
でも、何かを手がかりにお店を選びたい。
お店を選ぶときに、どんな雰囲気で
どんな感じのレストランなのかくらいは知っておきたい。
それでなるべく店選びで失敗することを防ぎたい。

どうすればいいんでしょう?

レストランの写真をよく撮っている
カメラマンからこんなことを聞きました。
写真を撮るためにレストランに行く。
ああ、いい店だなぁ‥‥、と思うときに限って、
どこの写真を撮ればそのいい雰囲気が伝わるだろう、
とまず悩む。
店を撮りたいのじゃなくて、
その店の雰囲気を撮りたくなる店というのは
よい店なんだ、と彼は言います。
そんなとき、いろんな手がかりを
お店の中に見つけよう、と目を凝らす。
ここの料理はおいしいんだろうな、と感じた店なら、
テーブルの上にナイフフォークにお皿を置いて
撮ったらどうなるだろう‥‥、とイメージする。
ここは多分、お洒落な人たちがやってくる
店なんだろうな、と思うと
クロゼットを写真にとったらどうなんだろう、
と考えたりする。
ゆったりとした時間をユックリ楽しんでみたい店だな、
と思えば壁の絵を仄かに照らす
蝋燭のともし火を写真におさめてみようか‥‥、
なんて思ったりする。
お店のインテリアを紹介するのでなく、
お店のディテールを使って
そこの空気を表現するような努力をするんですヨ。
‥‥、そうカメラマンが教えてくれた。

つまりです。
レストランの写真そのものを信じるのでなく、
その写真が発散している空気とか
イメージとかのメッセージを汲み取るようにすれば良い。
メッセージの無い写真はどんなに美しくても立派でも、
それはただの空虚なインテリア写真である、
ということです。

写真以外にも様々なヒントが実はある。
雑誌やあるいはインターネットに掲載されている情報の、
それじゃあどんな部分に目を留めて、
お店選びをすればいいのか、
次はそんなことを考えてみたい、と思います。

(つづきます)



2006-01-12-THU

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