おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。
(三冊目のノート)

アメリカのレストランのコーヒー。
お替り自由が当たり前です。
コーヒーは水代わりのようなものだから、
という考え方で、だからアメリカのやり方を真似て出来た
日本のファミリーレストランでもコーヒーのお替りはただ。
そうしたものと、つい最近まで思われていました。

8年ほど前のことでしょうか?
ロサンゼルスに出張に行き、
ちょっと有名なホテルに宿泊する幸運に恵まれました。
ビバリーヒルズの中にあり、ハリウッドスターも利用する、
といわれるホテルで、気持ちよく時差を癒して朝が来ました。

朝ご飯です。


◆完璧な朝ご飯‥‥のはずが!


メインダイニングにいそいそ足を運んで、
入り口に立つマネジャー然としたスタッフに
笑顔でこう挨拶をしました。

「体の中からカリフォルニアンになるために、
 飛び切りの朝をとりに来ました。ヨロシクね」‥‥と。

気障であります。
でもアメリカでは往々にして、
気恥ずかしくなるくらいの自己表現が
思いがけないシアワセのドアを叩いて開く鍵になる。
案の定、そのときのボクは
色鮮やかな木々の間を潜り抜けて降り注ぐ、
緑色の朝日に照らされた、
この上もなく気持ちの良いテラスに面したテーブルを
せしめることが出来たのでした。
まずはめでたし。

オレンジジュースはいかがですか?
そういって近づいてくるブロンドのウェイトレスの
碧い瞳の美しいコト。
お願いします、と言ったついでに、
「コーヒーも下さいネ?」とあわせて言いました。
すると彼女がこう聞き返す。
「エスプレッソやカプチーノなどの
 ご用意もありますけれど‥‥」
おお、珍しい、と思いました。
アメリカでコーヒーといえば
まず普通のレストランであれば、
ドリップ式のいわゆるアメリカンコーヒーくらいしか
用意されていないのが当たり前の頃。
スターバックス的コーヒーショップが
あるにはあったけれど、それも一部のコーヒー好きの
へんてこりんな人たちのための店でしかなかった時代です。
ホテルのレストランといえども、
コーヒーはコーヒーでしかないのが当然。
なのに、エスプレッソタイプのモノもご用意できます、
とは、やはりお洒落なホテルは違うんだな、
とそのとき思いました。
考えてみればビバリーヒルズに似合いのコーヒーは、
やはりカプチーノしかないんじゃないか、
とそうも思い、それで迷わず、
「カプチーノをいただきましょう」と返事をしました。

卵一個分の黄身と、
二個分の白身で作ってもらったプレーンオムレツ。
全粒胚芽で焼き上げたパンを、一分余分に
ガリガリになるまで焼いてもらったトースト2枚。
スモークベーコンとアスパラガスに、
ハッシュブラウンをサイドにもらって、
素晴らしい一日が幕をユックリ上げてゆく。
そんなウレシイ食事でした。
なかでもカプチーノ。
素晴らしかった。
滑らかでトロトロ。
乾燥しがちの南カリフォルニアの鋭い空気に疲れた喉が、
みるみるうちに修復されて
柔らかく癒されるような優しい喉越し。
アメリカのコーヒーもおいしくなったんだな‥‥、
と目を細めるように飲んでいました。
と、先ほどのウェイトレスが近づいてきて、
空いたお皿を下げてゆく。
ボクは彼女に、コーヒーカップを
ボクの目線辺りまで持ち上げて、
中身がほとんどないですというジェスチャーをしました。
彼女はニコッと笑って、
もう一杯、お持ちしましょうか? と言う。
当然のようにボクはお願いしますと答えて、
都合、1時間ほどの朝食の間に、
ボクは6杯ほどのカプチーノのお替りをしました。

お勘定。
見てビックリ。
100ドル近い数字が請求書の一番下に書いてあった。
もうビックリ。
たった一人前の朝食にしても
法外にも思えるほどのその請求額の理由を知って、
またビックリ。
料理そのものはそれほど高いものではありませんでした。
玉子料理が15ドルほど。
サイドディッシュやトーストを付けても
30ドルをちょっと超える値段でしかなく、
税金を加えても40ドルにも満たなかった。
問題なのがカプチーノ。
一杯6ドル。
しかもお替り分は無料ではなく、
6回お替りをしたボク、つまり7杯のカプチーノを
胃袋の中に流し込んだことになるのですけれど、
その合計が42ドル。
税金を付けて50ドルを優に超える散財を
知らず知らずにしていたのでした。

メニューを見ればわかったことなのかもしれません。
でも何より、アメリカのコーヒーはお替り自由、
という先入観にとらわれていて、
確かめもせずにお替りをおねだりしてしまった自分に
一番の責任があり、それから何かをお替りするとき、
かなり慎重にならざるをえなくなりました。
一つ大人にさせてもらったエピソードです。



◆お替わりしていいものかどうかの訊ねかた。


さあレッスンです。
レストランの中には「お替り自由」なものと
「お替りが有料」なものの二種類の商品があるというコト。
その区別が簡単なモノは安全です。
ステーキハウスに行ってステーキを食べて、
誰もそのステーキがお替り自由とは思わない。
有料であるのが当然です。

困るのがお替りしていいものなのかどうか、
区別がつかない商品です。
例えば定食屋さんのお味噌汁。
微妙です。
例えばお水。
普通のお水はお替り自由であるのが当然ですが、
高級レストランに行って飲むお水。
いわゆるミネラルウォーターと呼ばれるお水ですが、
ボクはそれで1万円の散財をした経験があります。
そしてコーヒー。
そのホテルのメニューにも、
普通のコーヒーはお替りはただ、と書いてありました。
でもカプチーノは一杯幾らの値段がついてて、
それじゃあその区別をどのように質せばいいのか‥‥、
考えてみます。
結構、難しいです。単刀直入に、
「これお替りすると幾らになります」
と聞くのもいいけど、あまりにちょっと不躾で、
例えばお客様のおもてなしかなにかの機会であれば、
ちょっと失礼になったりします。

ボクはこんなとき、こう言うコトにしています。
「コレ、お替り、頂戴できますか?」

お替り下さい、じゃなくて、
お替りはいただけますか?
ヤンワリとはしているけれど、
非常に明確なメッセージです。
お替りは欲しいのですけれど、
もし追加料金が必要なのであれば
教えていただけませんか? という意味を含んだ言葉。
「いただけますか?」
重宝です。
それがただでお替りできるものであれば、
ニコッと笑顔で
「ええ、どうぞ。おもちしますね」と答えてくれる。
もしそれがただじゃなかったら、
声を潜めてこうつぶやいてくれるはず。
「ミネラルウォーターですので、
 追加料金をちょうだいすることになるのですが、
 いかがしましょう‥‥」
気が利いてます。
お勘定書きのときにビックリすることもなくなります。
安心です。

(つづきます)



2005-12-08-THU

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