おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。



ファミリーレストランの最大のおもてなしはサービス。
なかでも飛び切りの笑顔が一番のおもてなし、
ということを前回、説明しました。
ステキなファミリーレストランのテーブルに
運良く座ることが出来たあなた。
もうここまでで、いろんな笑顔をもらったはずです。

入り口のところでいらっしゃいませと、お出迎えの笑顔。
テーブルの準備をするために、
少々、お待ちください、と言いながら笑顔。
お待たせしました、ご案内いたします、と元気良く笑顔。
そして客席に案内しながらこぼれるような穏やかな笑顔、
笑顔という笑顔のサービスを
もうあなたはたくさんしてもらっているでしょう。

レストランの食事を楽しくする基本は
「何かサービスしてもらったらそのお返しを必ずする」
ということ。
挨拶してもらったら挨拶をし返す。
決して、サービスしてもらいっぱなしにしない、
ということで、
それはファミリーレストランであっても同じことです。
だから笑顔のお返しをしなくちゃいけない。
そのタイミングは、いつがいいのでしょう?

さあ、この時が「にっこり」のチャンスです。

「メニューを受け取るとき」

それが笑顔のお返しをする最高のチャンスです。
レストランではメニューをお客様に手渡しながら、
必ず幾つかの言葉をかけます。
今日のお勧め料理のこと。
今、とてもお得になっている料理のこと。
あるいは、料理以外のちょっとしたサービスや情報を、
必ず付け加えながらメニューを渡す。
それを聞いているみなさんが、
もしメニューの方に釘づけで、
何を食べようか必死になって聞いていたとしたら、
サービス担当の人はどう思うでしょう?
確実に、悲しくなります。
自分がしゃべっている言葉が
放物線を描いてテーブルにポトポト、落ちていって
吸い込まれてしまうような感じがしてしまうでしょう。
自分を無視してお客様同士がおしゃべりに一生懸命で、
何も聞いてくれないよりはましかもしれないけれど、
それでもちょっと悲しくなっちゃう。
ワタシを見てっ!
そう思うに違いありません。
お客様のみなさんの役に立とうと思って
一生懸命なんです、‥‥だから私の方を見てください。

メニューを説明してくれる人の目を見て
話を聞いて上げる。
出来れば笑顔でうなづきながら。
そういうあなたを見ながら彼らはこう思います。
ああ、このお客様は私達に
気持ち良くサービスをさせてくれる人なんだ。
がんばらなくちゃ。
多分、彼らはこういってテーブルを後にする。

「ご注文がお決まりになりました頃、
 またお伺いいたします」

ひときわ元気な声で、ひときわ明るい笑顔を残して
他の作業にもどってゆく彼らの背中に、
あなたもひときわ素敵な笑顔を送る。

ほら、よいサービスをしてもらえる
きっかけが出来ました。

あなたも、スタッフを観察しましょう。

同時にあなたはある大切なことに気がつくはずです。
説明をする彼らの表情。
ボクは飲食店の状態を
チェックするという仕事をするとき、
この瞬間をとても大切にするようにしています。
ボクをこれからもてなしてくれる人の情熱の分量と、
力量の多寡が、この瞬間に現れる。

すばらしい笑顔ではあるけれど、
どこかにぎこちなさが残っている。

──まだ新人で現場に出て、
  間がないのかもしれないな?

商品の説明も完璧でかなり訓練を受けて
熟練しているように思えるけれど、
ちょっと笑顔に元気がない。

──ベテランだけど、昨日、
  ちょっと夜更かししたのかもしれないな?
  それとも上司にしかられた直後なんだろうか?

とか、そんなことを思いながら
彼らの表情を確認するのです。

基本的にファミリーレストランの接客は
「テーブル担当制」という
システムをとっているのが普通です。
これはひとつのテーブルのサービスを、
一人の人が責任をもって受け持つ、というシステムで、
注文のミスなどのサービスの不都合が
もっとも起こりづらい工夫だ、と言われています。
多くのテーブルが広いホールに散らばっている
ファミリーレストランのような店では、
確かに優れた方法なのですけれど、
自分のテーブルを担当する人のレベルによって、
その日のサービスが大きく左右される、
というちょっと厄介な問題も抱えています。
同じお店なのに、行くたびに印象が違う。
なんでなんだろう? というと、
たいていがそのときの担当の
サービススタッフが違うから、
ということが最大の理由だったりします。
ですから、今日のサービス担当者が
どんな人なのかを確認する。
食事を楽しむために、とても重要な行為です。

そして、こんなふうに対応しましょう。

ここがとても高級なレストランで、
しかもあなたがその店のとても大切な常連のお客様、
であるとするならば、
今日のサービススタッフが気に入らないから
担当する人を変えてくれない?
というようなリクエストをしてもよいでしょう。
それは決して理不尽じゃないリクエスト。
でもファミリーレストランというのは、
一人のサービススタッフが
4つとか5つのテーブルを担当するのが普通です。
しかもそのテーブル達は
なるべく近くになくちゃいけない。
だからあなた一人の都合で、テーブル担当を変える、
ということが非常に難しいようにできています。

ならばサービススタッフを何のために観察するのか?
というと、理由はこうです。

「今日の食事を期待はずれなものにしないための
 心構えを作るため」

もし不安そうで新人のスタッフらしき人が
担当になったとき。

──今日はあまり難しい注文をするのはよしておこう。
  ちょっと時間がかかるかもしれないし、
  もしかしたらちょっとしたミスを
  してしまうかもしれないけれど、
  ゆったりした気持ちでのりきろう。
  必要以上の期待を持たなければ
  失望することは少なくなる。

ベテランのようなのに元気がない
スタッフが担当になったら。

──ボクは大きな声で
  「ちょっと喉が渇いちゃってるんで、
   コーヒーをまずくれませんか?
   なるべく超特急でお願いしますねっ」
  とかって元気が出そうな一声を
  かけることにしています。
  よく訓練された人なら、
  この一言でハッと
  自分のすべきことを思い出すはず。
  大急ぎでコーヒーを取りに行き、
  熱々のコーヒーカップを
  テーブルの上に置いた頃には、
  もう飛び切りの笑顔になっていたりする。
  期待通りの食事を楽しむことができます。

着席直後の数分間で、
あなたは自分が素敵なお客様であることを
効果的に伝えました。
同時にあなたをサービスしてくれる人が
どんな人かのイメージもできた。
さて何を食べましょう。
何をどうたのめばいいのでしょうか?

illustration = ポー・ワング

2005-05-19-THU


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