おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。




あなたの手帳にリストアップしておくべき店のみっつ目。
普段使いの店、すなわち
「仲の良い人たちと気軽に食事できる店」です。

海外からのお客様を
接待しなくてはならなくなったとします。
しかも、そのお客様、
日本での数日をあわただしくすごされて、
もう何回もレストランでおもてなしを受けている。
そんな時、ボクは
「同じテーブルに付いたすべての人が
 一瞬にして友達になれるような店」を探して、
利用することにしています。

鍵は「自分たちと同年代のスタッフが働いている店」です。
できれば少々、年下の、でもかろうじて同年代の、
というような人達が生き生きと働いている、
というのが理想的です。
居酒屋のような店でも構わないでしょう。
当然、レストランであっても
あるいは中国料理屋のような店であっても構わない。
カジュアルで、そこにいれば
大きく伸びをしたようなおおらかな気持ちになれる店。
──あるでしょう?

働いている人が自分と同じ年代であって、
その店がとても良い店として受け入れられているとすれば、
その店のお客様も、
私達と同じ年代であることがとても多いものです。
同じ年代の人達の中でする食事というのは
本当にココロからのびのびするものです。

こう考えると、私達は
「誰に会いに行くのか?」ということを基準に、
お店の使い勝手を決めているような気がします。
料理人に会いに行く店。
サービススタッフに会いに行く店。
そしてそこで食事を楽しんでいるお客様に会いに行く店。
それぞれにそれぞれの持ち味があり、楽しさがある、
というわけです。

ファミリーレストランの凄さ。

そしてそれから最後に
やっぱりおなか一杯になるのが目的のお店。
予約する必要もなく、ふらっと立ち寄れば
必ずワタシを待っているテーブルが一つは残っている店。
定食屋でもよし。
カフェであっても当然、よし。
ワタシの顔と、食べるモノに関する少々の癖を
理解してくれる従業員がいれば、
それが最高のシアワセ、というものでしょう。

日常生活の中で、わざわざ予約してまで
レストランを利用する機会と、
なんとなくふらっとレストランに足を向ける機会、
どちらが多いかといえば、
それは確実に「ふらっと無目的」な利用機会だろう、
と思います。
ただ私達がなんの気なしに利用している、
どこにでもありそうな特別じゃないレストランも、
そこで料理を作りサービスをしている人達にとっては
特別な場所です。
今日の食事を、お客様にとって
よろこばしい特別な外食にしてもらいたい、
と思いながら働いている、ということを
忘れて頂きたくないな、と思います。

では、ファミリーレストランは?
もうすっかり特別な場所では
なくなってしまったかもしれませんが、
でも彼らも一生懸命、努力をしているのです。
こんなハナシがあります。

昔、ファミリーレストランといえば
コーヒーがお代わり出来る、というのが
売り物の一つでありました。
どんなチェーン店も一様にお代わり自由で、
それでも差別化しなくちゃいけない、ということで、
あるチェーンがこんな努力をしていました。

「お客様から呼ばれる前に
 コーヒーを注ぎにいきましょう」

コーヒーをそろそろお代わりしたいな、
と思っているお客様を見分けて、
すぐさまそこに飛んで行き、
コーヒーをついであげれば喜ぶだろう、
ということです。
確かに理にかなっている。
確かにそうしてくれれば誰だって嬉しい。
でもどうすれば、あのお客様、
そろそろコーヒーカップの中が空っぽになるな、
とわかるのでしょう?

彼らはお客様がコーヒーカップを口に付ける時の
角度を一生懸命観察していました。
カップの中身が少なくなれば、
どうしてもコーヒーカップは大きな角度で傾きます。
満タンの時は水平に近い角度でも
中身が口の中に入ってくるけれど、
徐々に大きく傾けないと、
コーヒーを飲むことが出来なくなってしまう、
という部分に目を付けて、
お客様の口元と手元を一生懸命観察していました。
新人教育の大きな部分が、
そうした「お客様の行動観察」に向けられていました。
その時のこのチェーン店のサービスの水準は
素晴らしいものでした。
アメリカから外食産業の視察の人が来て、
ホテルのコーヒーショップよりも
このファミリーレストランのサービスの方が素晴らしい、
と驚いて帰っていったことがあるほどでした。

高級だからサービスが素晴らしい。
予約が取れないことが価値のあることである。
というようなかたくななレストランの見方では、
発見することが出来ないような、
素晴らしく価値のある店が
私達の周りにはたくさんあるのです。

ささやかな、しかしかけがえのない
おもてなしのココロに気が付くこと。
そうした感度の高さを発揮することが出来れば、
私達の外食生活は、
もっともっと楽しいモノになると思うのです。



──さて、長く続けてきました
「おいしい店とのつきあい方」、
第一部は、これで終了です。

第一部‥‥というコトは、第二部もある?
ハイ、あります。

次回からはちょっと趣向をかえて、
私達がレストランで遭遇する、
ちょっとした疑問を一緒に考えていきます。
楽しい話の種にしてもらえそうな軽い切り口で、
あれこれ考えていければ面白いかな、と思っています。

では、また来週、いつものように。


illustration = ポー・ワング

2004-07-15-THU

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