おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。



「お客様を楽しませるコト」を考える店を
“レストラン”と呼ぶことにしましょう。

飲食店。
いろんなお店があります。
驚くほど安くてボリュームたっぷりだってことを
売り物にしたお店もあれば、
恐ろしく高級で、誰がこんなお店で食事するんだろう?
と思ってしまうような店もあります。

なぜだろう?

それは、ボクたちが飲食店を
さまざまな目的を持って選ぶからです。
例えば、ただおなかいっぱいになりたいのであれば
安いのが特長のお店を選びます。
でも、誰かにその店に行ったことを
自慢したいだけであれば、
高級で知られ、
予約が取れないような店を探せばいいですよね。

人が外食に対して抱く欲求の種類がたくさんある限り、
世の中にはそれだけの種類の飲食店がある、
ということになります。

それぞれにそれぞれの良さがあり、
どれもが存在価値を持っています。

でも「どんな飲食店が好きですか?」と聞かれたら?
ボクは迷いなく「楽しいお店が好きですネ」と答えます。

お店で楽しく食事する。
笑顔。
すてきな会話。
素晴らしい料理、的確なサービス。
そしてかけがえのない思い出。
そんな楽しさが満ち溢れている店がボクは大好きです。
(ここではそうしたお店をもっともっと楽しむための
 ちょっとしたテクニックとヒントを
 お教えしたいと思っています。)

本格的な話を始める前に約束事をひとつ。
飲食店を表現するのにいろんな言葉があります。
食堂。
料亭。
ダイニングバー。
グランメゾン。
レストラン。
などなどなどなど、店の性格にあわせて
いろいろな呼び名が飲食店には付けられています。
中でも比較的一般的でよく使われるのが
「レストラン」という呼称で、
ボクも今回、レストランという言葉を多用すると思います。
でもボクが「レストラン」と言う時、
それは「お客様が楽しむための装置としての飲食店」、
という意味で使っている、と思ってください。
どんなに高級でも、どんなに気軽でも、
それが和食のお店であっても中国料理を売っていても、
そのお店の運営の目的が
「お客様を楽しませるコト」
である店はみんなレストラン。
そんな感じでボクはこの呼び名を使うんだ、
と思ってください。


「先味」「中味」「後味」の
3つがすぐれていなければ
「いい店」とは言えません。

さあ再び、レストランにおける幸せの数々。

笑顔。
すてきな会話。
素晴らしい料理、的確なサービス。
そしてかけがえのない思い出。

これら一連の幸せな出来事は、
いつどのように始まって、
どうやって終わりを迎えるのでしょう?
‥‥考えてみたことはありますか?

「それは当然、お店に入ってからでしょう?」

とほとんどの人は言うに違いありません。
でも、レストランで食事するということが
「レストランという施設」の中だけで完結している、
と思ったらそれは大間違いだし、勿体ないことです。

レストランの楽しみというのは、
レストランに行こうと決意したときから始まっている。
そう考えてもおかしくないんですよ。

いや、そう思った方が自然なんだよ、というコトです。

レストランビジネスの人達は
レストランには
「先味」
「中味」
「後味」
という
3つの味わいがある、と思っています。
しかも、その全ての段階において優れていなくては
お客様からお褒めの言葉をちょうだい出来ない、
という不文律があります。

「先味」というのは、
お客様が実際に食事されるまでに経験される
いろんなコトの総称です。
例えば、お出迎えの雰囲気。
インテリアとか、場合によっては
立地なんかも先味の大切な要素。
その店に対するお客様の期待感を盛り上げる
様々な工夫=「先味」、と考えればいいでしょう。

「中味」は実際の料理やサービスの品質。

「後味」はお客様のおなかが一杯になってからの
色々‥‥のコトをさしています。
例えば、お勘定書きをもらったときの印象、
なんて大切ですよね。
「ああ、高かった」もそうですが、
お客様のお見送り、など、
レストランのサービスの
締めくくり部分が作り出す満足感、
とでも言えばいいでしょう。

わかりますよネ?

先味ばかりがいい店、というのがあります。
新しくできた超高層ビルの最上階にある
かっこいいインテリアの店なんだけど、
料理はパッとしてない。
サービスは慇懃無礼だし、
何より来てるお客様の雰囲気が良くない。
ただバブリーなだけ。‥‥のような感じの店。
あるでしょう?

かと思うと、中味だけの店ってのもあります。
足がすくむほど寂れた場所の、
絶望的なほどに汚い店なんだけど
料理だけは目茶苦茶うまい。
とっつきづらそうに見える親父さんも、
知り合いになると楽しい人だし、
クリーニング寸前の汚い普段着で来ればいいんだよネ、
と思い込まなきゃ二度と来れない様な、そんな店。

後味だけがいい、というような店?
これはちょっと思い当たらないです。
だって、後味というのは前味と中味が
バランス良く味わえてこそ、なのですから。
でも強いて思い描けば、
期待もせず入った汚い店で
料理も美味しい訳じゃなかったけど
値段だけは安かった。
ああ、絶望的になる。こんな店。
そんな店で「でも安くて良かった」と思ってしまった
自分の気持ちが後味悪くなっちゃう…、ネ。
やだやだ。

いい店というのはこれらの3つの味が優れて良い店。
これだけは間違いないです。
そうした店ならお客様は
「もう一回来てみようか」ということになります。
次に来てみて同じように
先味・中味・後味ともに優れていれば、
「おなじみさんになってみたいな」
と思うようになるのですから。
多分、そうしたお店は繁盛店で、
そんなお店で働いている人は
どこのお店の人よりも生き生きしていて、
幸せそうに見えます。実際、幸せなはずなんです。


レストランがしている努力を
評価してあげることから
いいお客への第一歩がはじまります。

だからそんなこんなで
レストランの人達は一生懸命、
この3つの味を磨き上げる努力をしてるし、
その努力をお客様に正しく分かってもらいたい、
とも思っています。
だからレストランのことを熟知したお客様に
なってやろうと思えば、この3つの味、
先味・中味・後味を味わい尽くしてやろう…、
ぐらいの貪欲さがなくちゃいけません。
レストランで働く一生懸命な人達に、
寛容でいて愛されるお客様になろうと思ったら、
この3つの部分に彼らが注いでいるいろんな努力を感じ、
評価して上げよう…、
という意思表示をしなきゃいけません。

そうだ、こう考えてみたらどうでしょう?
先味、中味、後味を大切にする
レストランのお客様である皆さんも、
同じく先味、中味、後味に優れた
食べ手になってみては、どうでしょう。

味のあるお客様。
優れてバランスが取れ、味わいのあるお客様。
どんな人なんだろう…、と期待感を持たせてくれ、
美味しそうに食べ楽しんでくれ、
しかも食後をくつろぎ、
ああ、もう一度、うちの店に来てもらいたい!
と思われるようなお客様。
うちのお馴染みさんになって貰いたい、
と切望されるようなお客様。

そうなろうと思ったら、まずあなたがすべきことは?
そう「予約」です。
その瞬間から楽しい食事は始まっています。
その瞬間からすてきなお客様への第一歩は始まっています。

というわけで、次回は「予約の準備」について
お話ししましょう。


illustration = ポー・ワング

2003-07-09-THU
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