

いままでの矢内さんの「社長に学べ!」
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ごはんを食べずに
酒ばかり飲んだというのは、
みんなでワイワイやるには、
酒はいいだろうと……。
安い飲み屋が沢山ありましたし。
新宿西口に「道灌」という
窓も何にもない地下の店がありました。
タバコむんむんで、
換気も何もできていないところの酒が、
ものすごく安かったんです。
それは、今もおぼえてます。
トリスのウィスキーグラス一杯で、
十円だったんです。
百円で、十杯飲めるんですからね。
つまみで、いちばん安かったのは、
たくあんでした。
これが、見るからに
人工着色料という真黄色のもので……
こんなちいさな皿に、
スライスしてふたきれ入っていて、
それで五円。 |
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(笑)十円、十円、五円みたいな。
たくあんは、
はしっこを、ちょこっと食べるの? |
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ええ。
貴重なつまみですからね。
いっぺんに
パクッとなんて食べられないです。
もったいないですから。 |
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(笑)そうそう。
百円あると
けっこうよっぱらったりしてね。 |
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ただ、それにしては
『ぴあ』創刊号の百円は高いですよね?
タバコとおなじ値段だけど、
当時、
もらいタバコばかりするやつのことを、
イヤなヤツだと
思っていたのをおぼえてるし……。 |
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ぼくは
七十円のハイライトを
吸ってたんですが、
セブンスターというタバコが
百円で登場して……
ハイライトより三十円も高いじゃない、
と恨みがあったんですね。
それで百円にしたんですけど。 |
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ぼくは
適正価格だと思ってたんです。
それ以降、
ずっとこの百円にこだわるので。 |
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資金面は、どうなりましたか。
お父さんの三十万も、
そんなにいつまでも持ちませんよね。 |
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ええ。
TBSでバイトしてた関係で、
クイズ番組のクイズを作って資金にしたり。 |
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矢内さんは、
ご自分では、
実業をやっているつもりだったんですか?
編集をやっているつもりだったんですか?
つまり、
何をやっているつもりだったんですか? |
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いやぁ……
客観的に見れば両方なんですけど……
うーん、なんていったらいいんですかね。 |
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もともと、
このまま大学を卒業して
サラリーマンになっていく
レールに乗せられることが癪だ、
という気分があったから、
なんか……
「俺たちの生き方をしようよ」
というようなものなんですよね。 |
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はい。
いわゆる経営者と自覚するのは、
もっとずっとあとです。
大卒の新入社員を
正規で募集するときでさえも、
まだ学生のころの延長線上でしたから。
ただ、新卒が入って何年目かのときに、
入社まもなくの
女子社員が結婚したんです。
それで
主賓か何かで結婚式に呼ばれまして。
その女子社員の両親にはじめて会うわけで、
向こうはていねいに
あいさつしてくれるわけですよね。
そのときようやく
「この子たちはみんな親がいるんだ」
という当たり前のことに気がつくわけです。
それまでは、どこか、なにか、
ピーターパンのネバーランドに
いるような気分で
いたのかもしれないですね。
ところが、
女子社員のご両親に会って
話をしているうちに、あぁそうか、
俺はこういうことを
考えなければいけないんだ、
ということに気がついたんですよ。 |
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意外にはやく気づきましたね。
ピーターパン時代は五〜六年、
という感じですね。
そのさびしさはありますね。 |
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はい。
ネバーランド的な要素も残したいし、
かといって現実を無視して
やっていくわけには
いきませんからね。 |
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ベンチャーのはしり、
ともいわれる矢内さんの気分と、
いまの若いベンチャー起業家の気分とは、
やっぱりすこし
ちがう雰囲気がありますよね。
何が、いちばんちがいますか? |
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さきほど、糸井さんの
「一所懸命がんばってる時は、
編集者として?
それとも経営者として?」
という質問がありましたよね。
あれはパッと
こたえられなかったんです。
考えてみると
「生き方」でしかないですから。
ただ、今のあたらしい
ベンチャー起業家たちは
ある意味では非常に頭がいいわけですが、
非常に強く「価値規準がお金」という
要素がありますよね。
お金がたくさん
あったほうがいいということが、
唯一とはいいませんが
ほとんどの価値観を占めているなかで
動いている……たしかに
お金が大事だということはわかるけど、
それだけではないんじゃないかなぁ、
と思えるんですね。
そこのへんは、
すこしちがうところかもしれません。 |
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矢内さんと話をしていると、
デカイ声は出していないけれども
自然に場を作っていくみたいな
リーダー像って
あるんだなぁと思います。
この連載のタイトルは
「社長に学べ!」といいまして
「社長という人たちが
直に風を受けるなかで
学ばざるをえなかったことが
やまほどあるから、
それを直にきいたらおもしろいぞ」
というところからはじまったんです。
矢内さんは
最初から社長をやってしまった、
という例ですけど、
そういう人はどう学んできたのでしょうか。
矢内さんは、
何が自分を学ばせたと思いますか。 |
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やっぱり人でしょう。
大先輩たちですよね。
さきほどの教文館の中村さんは、
まあもちろん確かに
いちばん最初に
紹介状を書いてくださって、
それがなければもちろん
『ぴあ』は世に出られなかったわけです。
ただ、
そういう部分をさしおいたとしても、
中村さんとずっとおつきあいを
させていただくなかで、
学ぶことはたくさんありました。
会話から
何かを学ぶということも
あるのでしょうけど、
むしろもっと、
その人の生き方とか考え方とかに
刺激を受けて、
触発されたりすることが
多いような気がしますね。 |
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いま、これだけは
しておきたいんだ、
みたいなことはありますか。 |
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やっぱり、
学生時代に集まってたときと
おなじように、
生活そのものなんですね。 |
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そうなのかもしれません。
ずいぶん前に
大島渚さんと六本木のバーで会いまして。
大島さんが週に一回ぐらい
出ていた番組があった時代です。
収録前にそんなに飲んで、
番組はだいじょうぶかなと思ったんですが、
久しぶりに会ったので
「なんで映画監督をつづけてるんですか」
みたいな話をしまして。
酔っていたせいもあるんでしょうが、
大島さんは、直球の質問に答えてくれまして。
「結局、
映画が作りたいんじゃ
ないかもしれないな」
「それどういうことですか」
「作りたいテーマはあるし、
結果的には映画を作るんだ。
でも、きかれてみると、
仲間が集まってきて、
ワイワイガヤガヤ、
ああでもないこうでもない、
酒を飲んでバカヤロウとか
いってるのが
たのしいのかもしれないな」
その言葉を、
なんか妙におぼえていましてね。 |
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うん。
狩りにいくし
獲物は欲しいけれど、
獲物そのものが目的というよりは、
狩りをしてる仲間たちが大事、
という感じですよね。 |
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そうそう、
ワイワイやってるときが
おもしろいんだっていうね。 |
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あぁ、
それはありますねぇ……
だってぼくは「ほぼ日」初期のときに、
矢内さんの栄養失調の話を
はげみにしていたような人間ですから。
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(矢内さん編はおわりです。
ご愛読いただきありがとうございました。
次回に登場の社長を、おたのしみに……) |
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