社会で指揮をとっている社長たちから、じかに学ぶ連載。
第3弾はCulture Convenience Club の増田宗昭さんが登場!
Culture Convenience Club は、TSUTAYA事業の、
おおもとを担う会社、というと、わかりやすいかもしれません。



ディレクTVをやっていた時に、
英語力と、それからもうひとつ、
コーポレートガバナンス……
いわゆる大企業の組織を
マネジメントするスキルが
当時のぼくにあったとしたら、
やはり結果は、
ぜんぜん変わっていたと思います。

そこは、
今と当時とでは、ずいぶんちがいますか。

「ぜんぜんちがう」と思います。

おぉ……
そこでの反省があって鍛えられたと。
痛い経験でしたか?

おかげで、死にかけましたから。

ありゃ!

その時には、
ぼくのアイデンティティーは
崩壊しました。

ぼくにはスタイルがあります。
仕事のパートナーと
情報をぜんぶシェアしてきたのも
そのスタイルのうちのひとつでした。

タライの水、
という小話をごぞんじですか?

タライの水を
自分の方にかきよせようとしても
水は向こうにいってしまうけれども、
水を向こうに送ってあげると
こちらにちゃんと戻ってくるという……。

情報もそういうものだというのが
ぼくのスタイルなんです。

ところが、
その当時に組んでいた
パートナーのうちのある会社は、
機密事項にあたる情報を、
黙って自分たちのものにしてしまって、
自分のところの会社でそれを使いました。
自分のライフスタイルが否定されると、
アイデンティティは壊れます。

当時の「痛手」というのは、
規模でいうと
どの程度のものだったんですか?

日本興業銀行の当時のCCCの担当が
三木谷くん(のちの楽天の三木谷社長)で、
彼と一緒にビジネスプランを作ったんです。

ぼくは
事業の実行可能性を検討する時には
「最もうまくいかなかった時には、
 どこまでの損害が出るのか?」
に注目することにしています。

計算してみると
「最も失敗してしまうと
 六〇〇億円へこむ」
という数字が出ました。

ぼくはサラリーマンを
十年経験していましたから、
ジョイントベンチャーの行く末も
ある程度はながめていました。

たいていは
百億円で立ちあげておきましょうといっても、
うまくいかなければ
「もうすこし資金をください。
 増資してください」ということになります。

増資、増資、増資と
なんどもおねがいをしなければ
いけなくなるような状態では
戦えないだろうと
ぼくは考えていました。

だから、最初から、
六〇〇億円集めようと決めたんです。
そのうちの三分の一を負担しますよと。

アメリカの
ディレクTV本社の親会社である
ヒューズ・エレクトロニクスには
二〇〇億円出してちょうだいねといいまして、
残りの二〇〇億円を
日本のパートナーたちに出していただくために、
営業して六〇〇億円ぶんを集めたんです。

うち、つまりCCC
(カルチュア・コンビニエンス・ストア)
の社員は当時
三〇〇人という規模だったんですが……。

なんだか、愉快でおそろしい話ですねぇ

なぜ二〇〇億円だったのかというと、
当時のCCCには、
表には出ていなかったものの、
きちんとやれば
年間で四〇〜五〇億円の
経常利益が出るということは確実でした。

まぁおそらく、
その四年ぶんぐらいというのが、
出資できる限度だと思っていたんです。
経常利益四年ぶん以上も
はきだしてしまったら、
それこそ会社が死んでしまいますけど、
まぁ四年はいけるだろうというので、
二〇〇億円をリミットに決めたんです。

だから六〇〇億円という数字が出た時に、
ぼくたちは三分の一しか持てませんね、
ということがわかりました。

もしも四〇〇億円がリミットなら
それを出したでしょう。
出資の半分以上を占めたいとは
思っていたのですが、できなかった……
まぁ、そのへんもぼくのミスなんですけど。

つまり、資金面での
実力がたりなかったということですか?

やはり
「分不相応」というところはありました。
つまりまだ、
弓でいうとひきしぼっていない状態で
放してしまったと……
それにしても、二〇〇億円という
ものすごいところまでは弓をひきましたね。
どう資金を調達したかといいますと、
ぼくが個人で持っていた
CCCの非上場株を
担保にするかたちで銀行から借りたんです。

つまり個人保証をしたわけですが、
結果はご存知のように失敗したでしょう?

まぁ、
いろいろないきさつがありまして、
二〇〇億円はパーになりました。

早い話、ディレクTVでは
ぼくは解任されました。
株券の半分は既存の株主に
ひきとってもらいましたが、
半分の一〇〇億円ぶんの株券は
残っていたわけです。

つまり手元には
「借金」と「株券」があるだけで、
ディレクTVが倒産してしまうと、
資金がゼロのままで、一〇〇億円の
個人としての借金だけが残りました……

これはふつうに考えると
「そんなふうに人生が終わりました」
というお話ですよね?

事業が思いどおりにいかなくなると、
どんなふうになるかといいますと、
こう、自分が見ている風景の
立体感がなくなって「平面」になるんです。
においもしません。もうまったくの静止画。

あの、へんな感想ですけど、
それってきいているぶんには
おもしろいですね。

そんな景色を見ちゃった人なんて、
あんまりいないでしょうから。

景色は「平面」だから、
朝に起きても夜になっても、
ぜんぜんリアリティがないんです。
うわぁ!

そのなかでひたすら、
「倒産から逃れなければならない」
と必死にやるわけです。
それこそいちばん頭を使って──。

それは、
ある程度の期間、つづくことですよね?

ずっと、何年もです。

ありゃ……。
2005-04-07-THU