POMPEII
「ポンペイに学べ」
青柳正規教授と、鼠穴で対談しました。

第9回 まずは掘ります
    
[今回のみどころ]
掘ると言っても埋蔵金じゃないっす。
毎度ですが今回も脱線しますのでよろしく。
以前コラムでdarlingが述べたソフトの運命について、
途中から次第に話はポンペイに向かっていきます。

糸井 ぼくの後年の人生に
すごいインパクトを与えた言葉があって、
経営のすごい上手なひとが言ったんですけど。
アメリカに開拓時代ってありましたよね?
開拓のときにひとが動いたのはゴールドが
あったからで、欲が人々の流通を支えたんです。
金が取れるからってみんながどっと動いた。
大移動ですよね。欲望が動かしたものだから
ほとんど古代史みたいなものなんですよ。
それで、ぼくに対して、
「誰がもうかったか糸井さん知ってますよね、
 金を一番掘ったひとじゃないんですよ。
 金を掘るひとにシャベルを売ったひとです。
 あるいは、宿屋をつくったひとですよ。
 もっと言うと、売春宿をつくったひとですよ」
そのかたはこんな風に言ったんです。
繁栄は金を掘ったひとがつくったんじゃなくて、
そのひとたちにものを売ったひとのものだって。
「だから糸井さんの考えてるように
 インターネットを一生懸命やるっていうのは
 すっごく『金を掘ってる』んですよ。
 だけど掘るなかで一番上手だったというだけで、
 ひとが2グラム探しているときに
 1トン探す力が糸井さんにはあるんだけど、
 ほんとうにもうかるのはそうじゃなくて
 シャベルを売って売春宿建てることなんです。
 そこは糸井さんは不得意なんですよ」 
これはもう目から鱗でした。経営と技術は違う。
「糸井さんは金を掘ることを上手なんだから、
 その金を入れ歯にして売ったらどうですか?
 掘ったものを仕入れ屋に売らずに入れ歯にしたり、
 金で芸術的な彫刻をつくって売ったら、
 掘る喜びも開拓の喜びもアートの喜びもある」
そうも言われてもう参った。すっごいでしょ?
ぼくより年下のひとなんですけどね。
それきいて自分の得意なことは売春宿を
建てることではなかったんだなあとわかった。
ただぼくは「売春宿建てればよかった」に
あとで気づくことは気づくんで、
環境として把握しているデザインはつくれる。
そこに自分の道があるだろうと思いますね。
ぼくは何をやればいいのかっていうと、
みんなが混迷している時代の今に、
とりあえず掘ることが上手だと自分で
思うんだったら、まずは掘りますよ、と。
売春宿で女の子を面接するのを今はできないから、
まず自分のできることを見て、それをやって、
あとはリンクしていけばいいんじゃないかなあ。
しゃべり屋さんや酒屋とリンクしたり……。
そうすると全部の仕事にそれが言えると思う。
 
ポンペイ展では「金」の純度を高められたし
きれいに展示会として精製することもできた。
でも、そこにひとを集められるかっていうと、
結局噂も立てられなかった……。
それに比べてぼくはわかってたのですが、でも
ポンペイから出発して掘ることはできなかった。
だからやっぱりここからはリンクだなあ、と思う。
おもしろいですよね。事業の話でもあるし
文明史の話でもあるし、政治の話でもある。
 
さきほどの、国境・宗教・民族の
3つの大きなハンディキャップが
あるときに政治家が進化するというところと、
それに併せて奴隷についての考えかたを
今簡単にレクチャーしてくださいますか?
青柳

まず政治についてですけど、
地中海世界というのはギリシャの頃から、
例えばフェニキアやカルタゴなんかと
しょっちゅうすごい戦争をしてたんです。

あの周辺に住んでいたのは約4〜5000万の人口。
周辺で取れる総農産物を4〜5000万で割ると
どうにか生きていけるんですが、余剰農産物を
つくれる場所と地味がよくないところがあるので、
どうしても食料の奪い合戦になるんです。
それが戦争の原因なんですね。
ローマは最初のうちには食料の争奪戦に
参加するわけですけども、徐々に、
大きな国にして足りないところには
あるところから持ってくればいいじゃないか、
というようになってくるんです。
それが、パックスロマーナですね。
パックスロマーナつくるのに約100年くらいで、
それまでに内戦もありいろいろあるんですけど、
ローマの政治家はまず民族問題について考えた。
 
民族の違いというのは切り抜けられないから、
そいつらには外人だろうが、少なくとも
社会的な権利として平等をあげたんです。
宗教に関してもキリスト教あるいはユダヤ教が
まず存在していて、ちょうどポンペイの火山が
爆発するときに活躍したひとは、そこをいかに
抑えつけることをして皇帝になるんですけど、
トップクラスの人間が怖い宗教に対峙している。
 
国境をローマのように広めると
国境防備という問題が出てくるんです。
ライン川周辺にはゲルマン人という
とんでもなく強いひとたちがいるのだし、
国境をどう維持するかは大変な課題なわけです。
それで有名なハドリアヌスの長城をつくるけど、
これは万里の長城に比べたらちゃちなもんです。
だからあれは防備じゃなくてむしろ信号的で、
ここから先は私たちも行かないから、逆に
あなたたちも来ないでね、というものなんです。

糸井 約束なんですね。
青柳 約束の線なんですよ。軍事的防衛をしない。
だけどそれで苦労してもいるんです。
そういうところでやっていたからこそ、
ローマは世界に冠たる政治家を輩出してきた。
政治家の動きの情報が、地方都市に
とんでもないスピードで流れていく。
その延長で町長さんになろうというひとたちも
政治レベルが高くて政治的な決断にまちがわない。
これは繁栄のひとつの理由でもあります。


[第9回目のひとくぎり]

なるほど、国境・宗教・民族に対峙せざるを
えないからこそ、ひとあじもふたあじも大物の
政治家が出てきたのか。これはすごくおもしろいな。

(つづく)

2000-02-09-WED

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