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第46回 三脚のすすめ。



この写真は、夜明けのアンコールワットです。
ぼくは、まだ暗いうちから三脚にカメラを立てて、
独特の熱気の中で、ゆっくりとその夜明けを待ちました。
(クリックすると拡大します)


前回は、レンズがじっさいに写し出している世界について
お話しをしました。
おそらくみなさんも、何となくその原理を知ることで、
もともと写真が写そうとしているものは、
そんなに表面的なことではない。ということを、
わかってもらえたのではないでしょうか。
ところが、そんなそれなりの体積を持ち合わせた世界を
いざ写そうということになると、
やはり、時には、それなりの工夫も必要になってきます。
今回お話しする、三脚を使ってみる、ということは、
とても大事なそんな工夫のひとつです。

時間といっしょに、光だって動いている。

おそらくみなさんも、
たとえ少しばかり暗かったとしても、
面倒な三脚など使わずに、
撮影されていることと思います。
そして、後で大きくプリントしてみたり、
モニター上で拡大してみたときに、
実は“ブレていた”なんていう、
経験をされたことがあるのではないでしょうか。
そんな時に、一般的に言われている効果的な方法が、
“カメラを三脚に固定する”ということ。
たしかに、そうやってカメラを固定することで、
“手ブレ”そのものを防ぐことも出来ますが、
実は、時にはそんな風に手間をかけて、
三脚に固定して、撮影することでこそ、
知ることが出来る、
もうひとつの大切なことがあるのです。
そして、「第24回 写真は、けっして止まっていない。」
の回でもお話ししたように、
もちろん、ただ止まってさえいればいい写真、
というわけではありません。

これは、言葉で理解するよりも、
じっさいに試してもられば、
すぐにわかることでもあるので、
まずは「ちょっと、暗いなー」と感じたり、
「ブレてしまうかもしれないなー」と思ったときに、
三脚を使ってみてください。
三脚がない場合は、何かの台の上にでもかまいませんので、
しっかりとカメラを固定してください。
そしてその状態で、静かにゆっくりと
被写体と向かい合いながら、フイルムや、デジカメに
光をしみ込ませるイメージを持って、
静かにゆっくりとシャッターを切ってみてください。

そうすると、どうでしょうか。
おそらく、まず最初にあなたは、
もしかしたら、当たり前のように感じている、
“この世界は動いている”ということを、
改めて、あなたが写した写真の中から
見つけることが出来るのではないでしょうか。
また、そうやってカメラを固定することで、
実は、ただ写真が止まるということだけではなくて、
特に、シャッターを切っている時間が
長ければ長いほど、
その動いている世界の中で、
時間といっしょに、光だって動いている。
ということが、よくわかるはずです。
ぼくは、そのことを知ることが、
むしろカメラを固定して撮影する、
最大の効果ではないかと思っています。
しかも、そうやって光を含めたすべてのものたちが、
実は、はっきりと“動いている”と、
改めて、再認識することで、
たとえ、三脚を使う必要がない明るい場所で、
いつものように写真を撮るときにしても、
おそらく、こちらの意識だって、
かならず変わってくるのではないでしょうか。
そして、そうなるとふしぎと、
“写真を撮る”ということにしても、
驚くほどに、撮りやすくなっていくはずなのです。

なぜなら、たとえば、転がっているボールにしても、
“動いている”ということがわかっているからこそ、
キャッチすることが出来るのであって、
もしも、“止まっている”と思っていた場合に、
とつぜんボールが転がってきたって、
誰だって、キャッチすることは出来ませんよね。
ぼくは、写真だってそれは同じだと思っています。
“写真を撮る”ということは、
何かに出会ったり、目にしたときに、
“反応する”ということなのではないでしょうか。
だからこそ、まわりが動いているということを
改めて知ることで、
撮れるものだって、たくさんあると思うのです。
ですので、まずはそのことを知るためにも、
ぜひとも、一度、カメラを固定して、
自分自身がしっかりと止まって、
写真を撮ってみてほしいと思っています。



三脚をつかって、ゆっくり写真を撮ってみましょう。
すると、きっとあなたのまわりでも、
今まで気が付かなかった、
たくさんの楽しい世界が、しっかりと動いていることを
かならず見つけることが出来るはずです。
しかも、その中から生まれた写真というのは、
きっとあなたにとって、大切な写真になると思います。




カメラを構えて、20分ほど経ったでしょうか。
あたりは少しずつ明るくなってきました。
すると、先程までただ蒸していたその世界の中を、
湖面にも写っているように、風が吹いていきました。
そして、あたらしい一日という世界が生まれていったのです。
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2007-01-26-FRI
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