おさるアイコン



第45回 写真は、けっして四角くない。



雪国の朝。
人々もまだ寝静まる、凛と冷えた街の中に
朝日が差し込んできました。
その冷たくて、静かな世界と、
見るからにあたたかいと感じた朝日が交わる世界は
とてもうつくしい世界でした。
(クリックすると拡大します)


よく、写真を撮る際に、
「切り取る」という言葉を使いますが、
実は、ここに大きな落とし穴があると、
ぼくはいつも思っています。
ファインダーにしても、
モニターにしても、プリントにしても、
出来上がる写真のすべてが四角ですから、
「切り取る」という言葉でイメージするのも、
きっと“四角い世界”ですよね。

ところがそれに対して、ぼくたちの目は、
目に映るものを、けっして四角くは
切り取ってはいません。

ということは、写真というのは、
(大前提としては、)
カメラという道具を使って、
世界を四角く切り取っていくこと、
ということができるかもしれませんね。

そしてもうひとつ。
きっとみなさんも、
「ものごとをそぎ落とすことで見えてくることがある」
などと言われているのを耳にしたことがあると思います。
もちろん、ものごとを単純にすることによって
見えてくることだってあるでしょうし、
そこから何かを発見することだってあると思います。
たとえば、広い草原に花が咲き乱れていて、
遠くには、牛たちがいて、
青い空には、まっ白な雲が出ていたとします。
そんな時に、ひとつひとつのことがらを、
ていねいに、ゆっくりと切り取っていく、
そんな写真の撮り方も、あると思います。
しかし多くの場合は、やはり出来ることであれば、
あなたがその場所で「気持ちがいいなあー」と感じた
“そこにあるすべて”を
写してみたいのではないでしょうか。

丸いレンズは、丸い世界を写す。

さて、世界を四角におさめる写真を撮るために、
すべてのカメラについているレンズの形は?
そうです、すべてが「丸い」(まあるい)。
ぼくは、そこに、とても大きなヒントがあると、
いつも思っているのです。

実際、レンズが丸いわけですから、
フイルム上に(デジカメだったらCCD上に)
写し出されている世界は、
本当は丸いのです。
一般的に写真というのは、そのまあるい世界を
四角く切り取っているにすぎません。



そうやって四角く切り取られていることで、
ぼくたちがそこに感じる印象は、
とても平面的なものになってしまいます。
しかし、この世の中には平面的なものなんて、
ほとんど存在しないわけです。
その多くのものたちは、
みんな立体的なものなのですから、
とにかくそれを、平面である写真に写すことは、
物理的にも、とても難しいことではあるかもしれません。
きっとみなさんも、出来上がった写真を見て、
「あれっ、写したときと感じが違うなあー」
ということがあると思います。
そして、おそらくそんな風に感じる理由のほとんどが
「あの時の、感じたこととか、雰囲気とか、
 気配みたいなことが写っていない」
ということなのではないでしょうか。

もしも、一度でもそんな風に感じたことがある人は、
写真を撮るときに、こんなことを考えてみてください。

まず最初に
「あっ、きれいだなあー、いいなあー、
 撮っておきたいなあー」
と思ってカメラを構えますよね。
そして普通は、ファインダーなり、モニターなりに
写し出されている「切り取られた世界」をガイドに
シャッターを切るのですが、
その前に、目の前にある世界を
「まあるい世界」としてイメージします。
次に、その「まあるい世界」と、
「レンズ」の中心を結んで、
そこに大きく「円錐形に切り取られた世界」を
イメージしてみてください。
そして、その後に、その世界を意識しながら、
シャッターを切ってみて下さい。
すると、少なくとも今までとは格段の差で、
そこには、あなたが感じた世界が写ってくるはずですよ。

しかも実はこれ、ただのイメージではないのです。
カメラという道具は、スキャナーとは違うので、
たとえば、あなたが写そうとする被写体の手前に
何かがあったときには、たとえボケていても、
必ず、そのものも、その円錐形の世界の中に
存在している場合は、必ず写ってくるのです。

今回お話ししている“写し方”というのは、
けっして、思い入れの話ではありません。
カメラという道具においても、ほんとうのことなのです。
だから、かならず写ります。
ぜひとも試してみてくださいね。



目に写る世界は、立体で丸い。
写真に写る世界は四角いけれど、
さいしょにそれをとらえるレンズは、
丸く、立体のものをとらえている。
ファインダーをのぞくときに、
世界を四角く切り取るのではなく、
丸く、立体的な、目に見えるそのままを
写そうと、想像してみよう。
かならず「気配」が、四角い写真にも入り込む。




寒い冬の後の、新緑の葉はとてもきれいですよね。
この写真は、手前の葉にピントを合わせていますが、
ぼくがその時に写したかったのは、
その葉っぱだけではなくて、キラキラとした光につつまれた
その時、目の前にあった世界のすべてだったのです。
(クリックすると拡大します)

2007-01-19-FRI
戻る