おさるアイコン




第39回 紅葉の色は、光の色。


(クリックすると拡大します)

くだものをつくる農家を訪れた際に、
農家のおじさんがこんなことを言いました。

「果物の味って、
 その年その年の天気によって
 全然違うんですよ。
 きっと、くだものが食べる光にも、
 味があるのかもしれませんね。
 おいしい光を食べたら、
 おいしいくだものが
 できるのかもしれないですね」

植物は、光をたべて、味をつくる。
なるほど!

なぜぼくが「なるほど」と思ったかというと、
紅葉のことを思い出したからです。
毎年、この時期になると、
ぼくは紅葉の撮影に出かけるのですが、
そういえば、夏の日差しが強かった年の紅葉は、
とても赤みが濃く、
夏の光が少なかった年の紅葉は、
その色も彩度が低いような気がします。
今年の夏は暑かったですから、
もしかしたら、今年の紅葉は、
その分、美しい色になるのかもしれません。

──紅葉の色は、光がつくる色。

ということは、紅葉を撮影するときにも
「光」と「色」を考えることが
とてもたいせつになってくるということ。
ということで、今回は、
紅葉の写し方のお話です。

うわあ、きれい! は、そのまま写らない。
でもちょっと意識すると、
その「きれい」が写ります


紅葉というのは、とにかくその色彩が鮮やかなので、
どうしたって、目はその色彩を楽しんでしまいます。
もちろん、それはそれで、
紅葉狩りの最大の楽しみなのですが、
「うわあ、きれい!」
と思って撮った景色が、
そのまま感動を写す結果になっていなかった、
というのは、よくあることですよね。

そうなんです、
こと“写真を撮る”ということにおいては、
その色彩ばかりに目を奪われてしまうと、
なかなか、その感じがうまく写ってくれません。

ぼくは、紅葉をたのしんで、
それを写真に撮るときには、
「鑑賞して楽しむ目」とは別に
「ゆっくりものを見る目」が必要なのだと思っています。
きれいだなあ、という印象は
そのまま、とっておく。
そして、カメラを向ける前に、
「どんなふうに光があたってるんだろう」
ということを観察してみるのです。
そして、その光と色が混じり合う場所を
ゆっくりと探してみます。

もしもその場所が、ちょっと逆光気味だったりすると、
葉の葉脈などが見つかります。
そして、そんな光と色が交わる瞬間を意識しながら、
さっき味わった
「きれいだなあ」という印象を思い描きながら、
シャッターを切ってみます。
すると、ぼくの味わった景色の印象を、
光と色が交わる瞬間にこめた写真が撮れるのです。

これ、けっして難しいことではないので、
ぜひためしてみてくださいね。


(クリックすると拡大します)

それにしても、自然の作用の中には、
まだまだ、たくさんの秘密が詰まっているのでしょうね。
もしかしたら、紅葉というのも、
植物たちが、この暖かい光を、
ぼくたちに、美しい色に変換して、
見せてくれている行為のひとつなのかもしれません。
しかもその色は、赤、橙、黄といった具合に、
すべてが、暖色系と呼ばれる暖かい色なのです。
だからなのでしょうか、
これは紅葉に限ったことではないのですが、
そんなことを意識しながら撮られた写真には、
いつの日も必ず、その暖かい感じが写っています。
紅葉の写真も、
少なくとも無意識で撮られたものよりは、
その暖かい色彩を感じることが出来るはずです。
だから今年は、紅葉の色は、光の色だと思って、
紅葉の写真を撮ってみて欲しいと思っています。


今年の紅葉は、例年以上に、
美しく色付くかもしれません。
まずは、それを確かめるつもりで、
カメラを持って、“紅葉狩り”に出かけてみましょう。
そして是非とも、今年の光の色を、
カメラに収めてみて下さい。
そこには美しい紅葉と一緒に、
もしかしたら、2006年の光の秘密が
写っているかもしれませんよ。



(クリックすると拡大します)

次回は、“写真を観る”編 第5回
アルフレッド・スティーグリッツについてお話しします。
お楽しみに。


2006-10-27-FRI
戻る