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第34回 “標準レンズ”で見える、
大切な“ふつう”。


at Kenya,Africa
(クリックすると拡大します)


おそらくみなさんも気付いていると思いますが、
秋がやって来て、
空の光も雲のかたちも、明らかに変わってきましたよね。

今まで、感じることは出来ても目に見えない光であったり、
時には、光に限ったことでなかったとしても
それを感じた時の、それぞれの“思い”みたいなものを
どうしたら少しでも写すことが出来るのか、
というお話をしてきましたが、
今回から2回に分けて、そういったことを、
よりしっかりと写すためにも、
避けては通ることの出来ない
レンズの画角についてのお話をします。

レンズの画角は、
例えば50ミリであるとか、28ミリといった具合に、
その焦点距離によって変化します。
一般的にはそのようなレンズを
広角レンズ、標準レンズ、望遠レンズといった具合に
大きく3種類に分けて表記しています。
今回はまずそのなかの“標準レンズ”のお話です。

こうやってレンズの話をしようと考えれば考えるほど、
人間の眼というのは、
とても良く出来ていることに気づきます。
人間の眼とカメラとの決定的な違いは、
人間の眼は常にすべての距離のものに対して
焦点を合わすことが出来るということです。
しかも、その上カメラのように画角がありません。
もちろん、だからといって
360度見えているわけではないのですが、
少なくとも、そこに境界線のような
閉ざされた印象は、どこにもありませんよね。

一方カメラの場合は、
その肉眼で認識するものと同じ光景を
いったんフイルムなりCCDなりに定着して、
その後、視覚的なものに変換する関係上、
あくまでも、画角という限られた世界の中で
その光景を写し出すわけです。
その際に用いられるのが、
レンズというわけです。

前置きが長くなってしまいましたが、
レンズの画角のことを考える前に、
あるいはそれと一緒に、
あくまでも、すべては人間の眼がお手本なのだということを
覚えていて欲しいと思っています。

標準レンズは、
ほんとうに肉眼のように見えるんだろうか?


では、本題の“標準レンズ”は、
なぜ標準と呼ばれているのかについてです。
一般的には、実際に肉眼で見たときの印象に、
最も近い写真を撮ることに適しているので、
“標準レンズ”と呼ばれています。
しかし実際はどうかと言いますと、
試しに、まず最初に眼で対象物を見てみてください。
そしてその後に、今度は一般的な35ミリのカメラで
標準レンズと呼ばれている“50ミリ”のレンズを通して、
対象物を見てみてください。
すると、どうでしょう。
そこに見える対象物の大きさも、小さく見えるはずですし、
画角そのものも、想像以上に広い世界が
写し出されているのではないでしょうか。

例えば、一枚目の写真をご覧下さい。
この写真は、アフリカの広大なサバンナの中に立つ
一本のアカシアの木を写したものですが、
それこそ、レンズは50ミリです。
しかし、この写真からは
ぼくらの眼で感じるよりもずっと広大なイメージを
感じとることが出来ますよね。
実はぼく自身も、このときに最初にカメラを構えて
ファインダーを覗いたときに、
“木が小さくなってしまうなー”と思いました。
ところがこうやって、写真になったものを観ると、
そこには確かに、あの時感じた印象が写っています。
だから、やはりそんなところが
“標準レンズ”ならではということなのかもしれませんね。

ズームレンズの、やっかいなところ。

ところが、いくら“標準レンズ”と言ってみても
最近のほとんどのカメラには、ズームレンズという、
自由自在に焦点距離を動かすことが出来る
とても便利なレンズが付いていることが多いと思います。
たしかに便利ではあるのですが、
時には、このズームレンズというのが、
やっかいな存在になることもあるのです。

実は写真にとって、被写体との距離というのは
とても大切な要素のひとつになります。
ところが、ズームレンズがあることで、
被写体に対して動くことなく
画角を決定してしまうことが多いのではないでしょうか。
すると、どうしても出来上がった写真そのもののすがたも
とても希薄な物になってしまいがちなのです。

そんな時は、レンズの画角を意識する練習だと思って
まずは一度、ズームレンズのズームの機能を封印して
写真を撮ってみて欲しいと思います。

それこそ、レンズの画角の違いによる印象というのは、
多少の個人差こそあるのですが、
本来は、どのような写真を撮りたいのかによって
変わってくるものなのです。

まずは、ズームレンズの場合は50ミリに固定して、
もしも標準レンズを持っている場合は、
そのレンズ一本だけで、
“見たときの印象をそのまま写す”
という練習をしてみて下さい。
それに、この標準レンズと呼ばれているレンズは、
使い方によっては、広角レンズのようにも使えますし、
やり方によっては、望遠レンズのような
使い方だって出来るのです。

とはいうものの、もしかしたらいろいろと出来る分、
50ミリレンズは、あらゆるレンズの中でも、
もっとも難しいレンズなのかもしれません。
ところが、この標準レンズを使って
写真を撮り続けていると、
たしかに最初は、なかなか思うように
写らないかもしれませんが、
それでもきっと、そのうちに必ず
しっかりと写ってきますから、
安心して撮影を繰り返してみて下さいね。
そうすることで、実は標準レンズの写しだす
“普通の感じ”が、一番格好いいということが
自然とわかってくるはずです。

そして、そこからが本当の
写真の始まりなのかもしれないと
ぼくはいつも思っています。


50ミリの標準レンズで、
(ズームレンズのときは50ミリに固定して)
写真を撮ってみよう。
ズーム機能は使用禁止。
被写体に近づきたかったら、歩み寄って。
被写体から離れたかったら、遠くに下がって。
撮りたいものとの距離を、からだで感じてみよう。



at Osaka
この写真は、以前はよく見かけた番地のプレートです。
なぜか塀の角に打ち付けられていたこともあって、
かなり歪んでいます。
標準レンズで、こんな写真だって撮れるのです。
(クリックすると拡大します)


次回は、今回の続編として
「気配を写す広角レンズ、視点を写す望遠レンズ。」
というお話をします。お楽しみに。


2006-09-15-FRI
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