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第30回 いちまいの写真は、
ひとつのドアみたいなもの。



アフリカの夏の朝
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前回は、“写真を観る”編
ブレッソンのお話をしましたが、
今回は、それをふまえた上で、
“写真を撮る”ということはどういうことなんだろう?
というお話をします。

日頃から、ぼくはことあるごとに
「写真というのは、ひとつのドアのようなもの」
と言っています。
それというのも、たとえば前回の
ブレッソンの写真にしてもそうなのですが、
彼の写真を観ているだけで、
たとえパリに行ったことがなかったとしても、
何となく、その“一枚の写真”をきっかけに
パリという街を思い描いたりするものですよね。
だからぼくは、時に“一枚の写真”というのは、
一言で言うと、そういった想像を描くための
“ひとつのドア”なのではないかと思っているのです。

まずは、それにまつわる、
ちょっとお面白い話がありますので
そのエピソードから、話を始めたいと思います。

都会のデパートが、
写真一枚でサバンナにつながる。


一昨年ぼくは、ある百貨店で開催する
展覧会の打ち合わせをしていました。
その打ち合わせが終わった後に、
担当者の方から、展覧会とは別に
ちょっと相談に乗ってもらいたいことがあるとのことで、
まずは、「ちょっと見て欲しいものがある」と、
ある場所に連れて行かれました。

それは、百貨店のひとつの入り口でした。

最初はぼくも、何のことだかわからなかったのですが、
どうやら、その方は店舗のリニューアルに当たって、
どうしたら、少しでも多くのひとに
そのお店の特徴を伝えることが出来るのか、
そして、多くのひとに足を運んでもらえるのかを
悩んでいたようでした。
その店舗は、いわゆる“アウトドアスポーツ館”。
ということは、そこには様々な
その為の道具が販売されているわけです。
だとしたら、その大きなビルの入り口は、
それこそ、“アウトドア”に向かうための
“大きなドア”であるべきなのではないかと
ぼくは思いました。
そして最終的に、ぼくはその場所に
広大なサバンナの地平線の写真をお貸ししました。
そして、「ここから、歩きましょう」と題して、
リニューアルのお手伝いをしました。

これはあくまでも、ひとつの例にすぎませんが、
このように、“一枚の写真”をきっかけに
想像をかき立てられるということは、
他の多くの写真にも言えるのではないでしょうか。

新聞の中の写真だって、
週刊誌のグラビア写真だって、
それこそブロマイドなんかもそうですよね。
現実的には、見ることが出来ない光景や、
実際には、会ったことがない人たちであったとしても、
みんな、その“一枚の写真”を観ながら、
それをきっかけに、様々な想像をしたりするものです。

このことは、いい意味でもわるい意味でも
写真の大きな魅力のひとつであることに違いないのですが、
今回皆さんにお話ししたかったのは、
そんなことを意識しながら、
写真を撮ってみましょうということではありません。
ただ、今までよりも少しだけ、
“写真を観る”ということに
積極的になっていただけたらなあ、と思っています。


サバンナをお散歩する、象の家族。
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たとえば、上の写真を見て下さい。
ある時、アフリカのサバンナを車で走っているときに、
目の前に、3頭の象の家族が現れたとします。
その時に、「あー、象だ!」と思って撮るだけではなくて、
その光景を目の前にしながら、楽しみながらも、
その後のストーリーを、自由に思い描いてみてください。
この後、こちらに向かってくるのでは? とか、
この後、3頭が寄り添って
水を飲むのではないかな? とか、
何だっていいのです。
その時、あなたの頭の中に浮かんだことを
思い描きながら、頭の中で、
シャッターを切ってみてください。
(まぶたを、シャッターがわりにして、
 目をつぶってみるのもいいかもしれませんね。)
すると面白いもので、少しでもそんなことを
考えながらものごとを観ることで、
“写真を観る”ことと同じように、
その“一枚の写真”は、とても自然なかたちで
そこから別の世界へとつながる
“ひとつのドア”になったりするのです。

これはもちろん、写真を撮るときにも応用できます。
「この先のこと」を考えながら、シャッターを切る。
だからといって、そのことばかりを考えすぎると、
かえってあざとい写真になってしまいますから、
あくまでも、自然にシャッターを切ってみてくださいね。
とにかく、これはいくら言葉で説明しても、
なかなか伝わることでもないですから、
まずは、だまされたと思って、試しに撮ってみて下さい。

時には、「あれっ?」ということもあるかもしれませんが、
何度か試しているうちに、必ずそんな写真は生まれます。
そして、そんな風にして撮られた写真は、
撮影したあなた自身も楽しむことが出来るでしょうし、
それこそ「見て、見て!」と言いたくなるような
写真が、出来上がるはずです。
しかもその写真は、あなたの近くにいる誰かを、
たのしませることができるはずです。



待ちに待った梅雨も明けて、
いよいよ、本格的な夏の到来です。
今年の梅雨は長かったですね。
そのせいで、カメラを片手にお散歩なんてことも、
めっきり減ってしまった人も
やはり多いのではないでしょうか。

まずは、何はさておいても
それこそドアを出て、写真を撮りに出かけましょう。
そして、そこで“あなただけのドア”を
たくさん見つけてみてくださいね。


夕暮れ時のサバンナをお散歩する、シマウマの群れ。
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次回は、夏休み特別企画として
「誰にでも簡単にできる、写真集の作り方」
というお話をします。お楽しみに。

2006-08-04-FRI
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