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第16回 桜の花びらが、はらはらと散る理由。


at Koganei Kouen,Tokyo
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今年の桜は、例年よりも開花が早かったこともあって、
東京でも、間もなく満開です。

日本人は、桜という花が本当に好きなようで、
この季節になると、あちらこちらで、
花見をする人たちを見かけますよね。

ぼくもこの季節になると、
何となく気持ちが、ワクワクとしてきます。
うれしいことに、仕事でも桜の撮影がありますし、
ここ数年は「湿板写真」で撮ってみたり、
といったことも加わって、
毎年この季節は大忙しなのです。

そんな桜という花には
みなさんにお話ししたくなるような
人を引きつける、面白い話がいくつもあるのですが、
もちろん、今回も写真に関係する話から始めますね。

桜の花びらは、紫外線を乱反射させている!

皆さんは、桜の写真を撮ってはみたものの
出来上がったその写真を見て、
「あれっ、なんか違うなぁ?」
というような、経験をされたことがありませんか。
そうなんです、桜というのは、
いざ、その印象を写すとなると、とても難しくて、
なかなか思ったように、
その美しさが写真になってくれません。
あの遠くから見たときにボーッと光っている感じ、
それを写すことが、とても難しいのです。

実はそれには、ちょっとしたわけがあります。

桜の花というのは、一般的にも、どちらかというと、
“はかない花”という印象がありますよね。
そして実際にも、その通りで、
満開の瞬間がとても短い花なんです。
だからこそ、その美しさが
特別のものだったりするのですが、
変な話ですが、当の桜にしてみたら、
それはそれで結構たいへんなことのようなのです。
と言いますのも、桜も当たり前のことながら、
生き物のひとつなわけですから、
その命をつなげて行かなくてはなりません。
花を咲かせる目的は、昆虫たちを惹きつけて、
交配をさせることにあります。

しかし、この春という季節は、
桜以外にも美しい花で満ちあふれています。
そうなのです、昆虫だって大忙しなのです。
よって植物たちは植物たちで、
何としても、その大忙しの昆虫に手伝ってもらうために
美しく咲き誇ってみたり、
蜜を提供してみたりと、様々な工夫を凝らしています。

そんな中で、桜の花の開花期間の短さは
大きなリスクなわけです。
短い時間の中で、
昆虫たちを惹きつけなくてはなりませんから、
桜の花は、彼らならではの工夫をしています。

実はその「工夫」と、
桜の写真の写り方には、深い関係があって、
先程の「あれっ、なんか違うなぁ?」の、
一番の原因だったりもするのです。
具体的に言うと、桜の花は、
短い開花期間に出来るだけ多くの昆虫を呼び寄せるために、
花びらに紫外線を反射させて、
キラキラと光らせているのです。
そうやって、この自然界の中において、
自分たちの存在を、アピールしているのでしょうね。

それではなぜ、そのことが写真に関係あるのでしょう。
じつはこの紫外線の光域は、
一般的に「不可視光域」と呼ばれ、
昆虫たちには、そのキラキラした感じが
より明確なかたちで見えているようなのですが、
ぼくたち人間にとっては
視覚的に、認識することが出来ません。
しかし、どうやらぼくたち人間も
それらを“感じる”ことは出来ているようです。
だからこそ、春になると、これだけ昆虫のように
その美しさに引き寄せられているのかもしれません。

現在のカメラやレンズ、フイルム、
今ではCCD(デジタルカメラの記憶媒体)といった
写真装置は、人間が視覚認識できる光域のデータをもとに
開発されています。
そのため、一般的なカメラでは、
紫外線は写真に写りません。
なので、桜を撮っても
「あれっ、なんか違うなぁ?」
ということになってしまうのですね。
このことを、音楽に当てはめてみても、
アナログレコードからCDに変わったときに、
同じことを感じた方がいらっしゃるのではないでしょうか。

桜の写真について言えば
今ぼくが進めている「湿板写真」のような
古典技法の方が、そのキラキラ感は写りますし、
こと桜のそのぼんやりとした印象は
トイカメラの方が、よく写る場合もあります。
以前、紫外線カメラで撮影された、
桜の花の写真を見たことがあるのですが、
それはもう、ものすごい勢いで、光っていました。

桜の花は、朝、いちばんに
撮ってみてください。


でも、桜を撮影するにあたって
ぼくがおすすめしたいのは、
具体的に、このような方法で撮ってみてください、
ということではなくて、
早朝の、桜の花を観てみましょう、
撮ってみましょう、ということなのです。
桜が咲いている晴れた朝、
それも早朝、桜の花を撮ってみましょう。
早朝というのは、比較的紫外線も少なくて、
本来の、桜そのものの姿を観ることが出来ます。
そしてやがて、朝日が桜の花に当たると、
彼らは、キラキラと輝き始めます。
そしてその瞬間を、カメラにおさめてみて下さい。
そのキラキラとした感じは、
きっと、最新型のデジカメだって写るはずです。
そしてその変化を見ることで、見つけることで、
桜に対する見方も、きっと今までとは
少し違ったものになるはずです。

京都の、第十六代佐野藤右衛門さんという
桜の専門家でもある桜守も
「桜は、朝しかもの言わへんのや」と言っています。
それほどに、早朝の桜の花は、
いろんなことを教えてくれるはずですから、
少し早起きして、まだ花見の人で賑わう前の
桜の姿を観に行ってみるのもいいかもしれませんね。

それにしても、“はらはら散る”とは
よく言ったものですね。
ぼくにはこの一言の中に、
桜のすべてがあるような気がします。

そして今年も、そんな写真を撮るために
ぼくも、桜の樹の下に足を運ぶつもりです。
今年は、花もきれいなようですし、
皆さんも、一緒にそんな桜の写真を撮ってみませんか。



早起きして、桜を見に行こう。
そして日が当たったところを、
写真におさめてみよう。
たぶん、あなたが感じている
「桜って、こうだよね」という印象が、
いつもよりも、ちゃんと写るはずだから。



at Yoshino
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次回は、
「誰にでも、大切な写真はある」
というお話です。お楽しみに。


2006-03-31-FRI
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