ガールズ・フライト!
宇田敦子。宮下マキ。坂本美雨。
御免、糸井重里。

 
第1回 宇田敦子さん。


「『ここまでやったけど、ダメだった。
  でも、自分としては、満足のいく仕事だった』
 ・・・若い時には、それを、できるじゃない?
 そこが、うらやましいよ。失敗していいんだもん。
 失敗していい仕事をいっぱいできるって、最高だよね」
             (企画打ちあわせの会話から)






これからしばらく、
映像作家の宇田敦子さんと、
写真家の宮下マキさんというふたりによる
コラボレーションを、「ほぼ日」は見守っていきます。

「ふたりで、映像作品をつくろっか?」
という気持ち以外には、まだ、何も決まっていない企画。

失敗しても、いい仕事。

これから誰が飛び入り参加するかもわからないし、
どんな形態で発表するかも、わからない。

そんな試みだったら、
リアルタイムで見つめていたいと、強く思いました。

現在、企画がはじまって約1か月ですが、
おもしろい動きが出てきはじめているんです。

今回は、まず、
宇田敦子さんと糸井重里の会話を、お届けします。
これは、ふたりがはじめてじっくりしゃべった日です。
企画もまだ生まれていない状態の日ですし、
まだ、宮下さんと宇田さんは、出会っていません。

何がどうはじまるのかもわからない状態で、
敢えて、この会話を聞いてみてください。
ものごとの展開する様子を、楽しめると思いますので。






こちらが、宇田敦子さん。
糸井重里イチ押しの若手映像作家さんです。
「Image Forum Festival 1999」大賞受賞で
バンクーバー国際映画祭にも招待上映された
デジタルビデオ映画「福田さん」を皮切りに、
本格的な活動をはじめられたかたなんですよ。
99年発表の"The Presents"以降は、見る側の
反応でドラマが進行していく映像を主に制作。
"A couple", "Women", "An Autumn Day" など
「よりたくさんの人に観ていただきたいから」
という理由から、2000年と2001年の作品は、
Web上で観られるものが、多くなっています。




宇田 あ、こんにちは。
糸井 どうも。
宇田さん、いつもいいもの、作りますよねぇ。

デジタル系のデザインって、
いまの世の中には、すごく多いけど、 
その中でも宇田さんは、群を抜いて
レイアウトに気を使っている感じがあるんです。

いわゆるデジタルと言われるデザインは、
こういうテーマでこう撮るという
コンセプトで終わらせてしまっているでしょ?

「どういう分量で、人にはどう見えるのか」
というようなデザインの細部を
意外におろそかにしちゃう人が、多い。
 

でも、宇田さんの映像は、ぜんぶ
「タブロー(絵画)」になっているというか。
出身は、グラフィックデザイン?
宇田 出身は、インテリアデザイナーです。
糸井 へえ。インテリアなんですか。
宇田 インテリアって言っても、
建築のほうの勉強に近かったので、
「トータルデザイン」とか、
「構造から来る美しさ」とかを叩きこまれてて。
ですから、「出だしと終わり」に
かなり気をつかうような作りかたをしています。
糸井 なるほど。
だからなんですね。

宇田さんの作品って、作るのには、
どれくらいかかるものなんですか?
宇田 こういう(その場にあったもの)ものだと、
十日間ぐらいです。
糸井 何からはじめるんですか。
宇田 ぼんやりと、まずいろいろ考えて、
コンセプトが決まったら絵コンテを描いて、
つぎは小物が決まってくるんです。
糸井 絵コンテって言うのは、フリーハンドで?
宇田 ええ、画用紙に、
「こんな感じかなぁ?」って、しゅるっと。
糸井 絵コンテで決めるのは、
構図とキャスティングですか?
宇田 そうですね。
で、構図とかが見えてきたら、
今度は撮影に一日かけて、
あと大体一週間がオーサリングって感じです。
糸井 撮影のあとが、けっこう時間かかるわけですね。
宇田 希望のシーンがうまく撮れてなかったりすると、
それに合わせて編集を変えたりとか。
うまく撮れていないからといっても
撮影自体をやり直したりするよりは、
「一回ぽっきり」っていう緊張感があったほうが
いいと思うので、じゃあ、
撮れたものをどう活かすかになるんです。
そうなると、もとの絵コンテと
できあがりは、かなり変わってきたりもします。
糸井 ・・・なんかねぇ、
宇田さん、大物の風格があるんですよね。
宇田 え?
糸井 何年か後には
「あ、イトイさん、
 宇田先生をご存じだそうですけど
 ご紹介いただけませんか?」
とか、言われそうな気がして。
宇田 (笑)まさか。
糸井 こないだ、
中島信也くん(CMクリエーター)と
たまたま会って、あなたの話になったんですよ。
「宇田さんは、イイよねぇ!」
って、なぜか石川県で言いあったんですけど。

デジタルの世界を表現する時って、
「未来の人たちが銀色の服を着て
 おとなしくしゃべっているようなイメージ」
が、あるでしょう?

だけど実際は、人間っていうのは、
そんな風に変わったりは、しないですよね?
人間には、うぶ毛が生えているんだし、
そんなにツルッといた銀色な感じじゃあ、ない。

その、「うぶ毛的なもの」が、
ぼくは、欲しかったんです。
体温だとか、うぶ毛だとか、汗だとか、
そういうものがないのがインターネットだったら、
ぼくはそんなのは、イヤだった
んです。
でも、宇田さんの作品は「ひと」の話だった。

NHKの「デジタルスタジアム」の
賞を取った作品で、宇田さんは、
お父さんとお母さんを、撮っていたでしょ?
あれは、他に応募されていた
「デジタルデジタルしてる作品」に対しては、
かなり挑発的でさえあったと感じました。
あんなに、おとなしい作品なんだけど。

ぼくは、宇田さんの作品を
たくさんの人に、特にデジタル系の
デザイナーたちに見せたいと思ったんです。
「お前らの機械的なのは、それでイイの?」
と、言いたくもあった。

宇田さんの作るものは、見事に肉体的で、
現場のにおいが、観ているぼくらに
伝わってくるんですよ。
親やともだちとの関係を書いてるから、
メディアがどうだとか通信がどうだとか、
そんなお題目を忘れさせてくれる。

短いコマの中にも、
人間が動いている感じが詰まっているので、
見ていて、うれしかったんです。
こどもに見せたいし、
お年よりにも見て欲しいし。

なんか、銀でピカピカしていない、
っていうのが、よかった
んです。
宇田 (笑)



糸井 いまは、
「技術を知っているかいないか」
「容量を載せられるか載せられないか」
が、ネット映像をやる上で、
大きな問題になっていると思うけど、
これから通信速度がどんどん速くなって、
もっと身近に、
大きな容量のものも送れるようになったら、
きっと、変わりますよね。

「重い・軽い」「デジタル的な画」「技術」
だのといったものは、今後は、いまほど
「おおごと」ではなくなってくるはずでしょう?
宇田さんの作品は、それに対する実験なんですよ。
未来のクリエイティブの種として、
宇田さんの作品を、
みんなが見てくれたらいいな、と思うの。
宇田 そう言ってくださるなんて、
どうもありがとうございます。
糸井 僕だけの感想ですが、
「宇田さん」という作家と
江戸時代の「戯作者」って、
似ているような気がするんですよ。
宇田 え?
糸井 宇田さんの作品には、
いつも「見立て」があると思う。

江戸時代に、
浮世絵師の人たちが、
カレンダーとかをたくさん作ったんだけど、
そこには「とんち」がたくさん入ってるんです。

「この着物の柄が正月の『一』になってる」
「ここに11月の『十一』の漢字が隠れてたぞ」

そういう、
言葉遊びも絵遊びもある、だまし絵なんだけど。
ああいうものを作る体質の人かな?
と思っていました。
宇田 見つけたり選んだりするより、
切り取るほうが、好きなんです。
糸井 「なんだ、そこにあるじゃないか」
っていうのを、やりたい人ですよね?

その気持ちの典型としては、
はじめから、宇田さんはドラマの出演者を
お父さんやお母さんにしてみたり、
ともだちにしたりしてみたところに、
出ていますよ。
宇田 そうですね(笑)。
糸井 そこが、素晴らしいと思ったの。
宇田さんの立場は、
「人間を描くことが必要だったら、
 人間は、すぐそばにいるじゃないか」

っていうことですよね。

あの安さが、いいんですよ。
「ああ、俺の映像に、
 キムタクが出ていたら、もっと良いのに」
「・・・キムタクさえ、出てくれたらなぁ」
つい、そうやって考えちゃうのが、
若い人の感性なんですけど。

でも、人間を捉えたいと思う時に、
キムタクじゃなきゃいけないなんて、
なんか、最初から遠くを見すぎている
と思う。
宇田さんの良さって、そうじゃなくて、
「近くに宇宙がある」みたいな感じだよね。
宇田 そう言えば、最近は自分の作品を、
あまりゆっくり考えないところがあったので、
昔、写真を撮っていた時を思い出しながら、
糸井さんの話を、聞いていたんですけど。
糸井 自分の作品を考えられない時期は、
誰にだって、ありますよ、そりゃ。

フリーでやっていた人が認められると、
だんだん、頼まれた仕事というか、
受注生産も、やるようになりますよね?

それまでフリーでやっていた人は、
「施主の希望をなるべく叶えてあげよう」
って、思っちゃいがちじゃないですか。

でも、職人さんとしては、
施主の依頼を自分なりに噛み砕いて、
自分の方法にひきよせてみて、
「わたしは、こう捉えたいんですけど」
という提案を、もういちど
施主のほうに投げかえせないと、
よくないですよね。

受注生産になると、
相手が何を求めてるのかが
わからない場合が多いですから。

施主側からの、完全な
オリエンテーション(方向づけ)があれば、
こちらもプレゼンテーションできますけど、
頼まれ仕事に、そんなことはないんですよ。

だったら、自分が
オリエンテーションの背後へまわりこんで、
「そうじゃないでしょ。わたしはこう思う」
って、ささやくみたいに
答えを返してあげるのが、いちばん親切な
プレゼンテーションだったりするんです。



  わかりにくい例かもしれないけど、
「あなたを好き」って、
言いたくてしょうがない女の子がいたら、
その子の気持ちをわかっていながら、
ずっとしらばっくれてるのは、悪いことでしょ。
その子が「好き」とは言えないんだったら、
こういう場を与えてあげたなら、
別の言葉で言えるんじゃないか、とか、
こちらで、代案を提示してあげられるじゃない。

胸元に糸くずをつけておいたら、
自分のことを好きな女の子は、
それに気づいて、
よろこんでそれを取ってくれますよね?
そうしたら、その場合は、
糸くずがもう、プレゼンテーションなんですよ。

そうしたら、主体が自分のほうにある、
プレゼンテーションになりますから。
相手からの球を待つんじゃなくて、
「ここに投げさせるためにここにこう構えよう」
ってところから、はじめる
んです。

極端に言えば、
ピッチャーからじゃなくて、
野球は、バッターから、
はじまってるのかもしれないよ?
そういうこと、できたらいいよね。

宇田さんの持っているもので、
追いつかないところがあるから、
お互いに力を発揮できる場所がわかれば、
ぜひいっしょに、何かをやりたいですね。
たまには会ってみたいし、
何ができるか、探したいと思う。
宇田 わたしはけっこう、
自分の中に入り過ぎるところがあって、
ヘタするとそこで、
やっていてつまらなくなるので・・・。

外のかたと組ませていただけるなら、
新しいことをできそうな気がします。
例えば、糸井さんの言葉から、
カメラを通して何かをする、
というのを、やってみたいです。
糸井 あ、やりましょう。
たとえば、ヌードでやるとか。
宇田 え!?
ヌードは、まだ撮ったことないんです。
糸井 だったら、宇田さんとぼく以外に、
もうひとり、別のカメラマンのひとに、
一緒に組んでもらうことも、できるじゃない?
・・・お、豪華だな、それ。
宇田 うん。豪華、豪華。
糸井 あ、だったら、
いいカメラマンが、いるよ!
『部屋と下着』っていう写真集を出した
宮下マキさん
っていうんだけど。
あの人が、一緒にやってくれると、
すごくうれしいなあ・・・。
宇田 あ、話題になりましたよね。
彼女、いい!
糸井 あの人もまた、宇田さんと一緒で、
小津安二郎のにおいがあるんだよ。
「いま生きてる小津」って感じ。
宇田 彼女と一緒にやれたら、
みんな驚くでしょうねぇ。
糸井 ぜひ、できたらやりましょう。
じゃあまた、ときどき話そうね。


まだ、具体的には、何もはじまらないまま、
このようにして、最初の雑談は終わりました。

しばらくすると、
写真家の宮下マキさんをお呼びして、
3人で話しあいをしてみることになるのですが、
それは、次回のこのコーナーでお届けしようと思います。

なお、宇田敦子さん、宮下マキさんが
現在進めているコラボレーションの様子は、
NHK-BS1で6月22日(金)深夜12時に放送の
「デジタルスタジアム」でも特集される予定です。

放送も、「ほぼ日」連載の今後も、
ぜひ、楽しみにしていてくださいませ。



(つづく)

2001-06-12-TUE

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