PHILADELPHIA
お医者さんと患者さん。
「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。

手紙256 大貫妙子さんとHIV(10)
糸井さんのところの救急箱


こんにちは。

前回は、
社会的な問題について
さまざまなことをお考えになっている大貫さんが、
音楽に関しては、
メッセージ性の強いものはあえてお聴きにならないし
ご自分でも、お作りになることはない、ということを伺って
とても興味深く思ったので、
大貫さんの音楽に対するお考えを
もう少し伺ってみるところから始めました。

本田 歌はいいですよね。
頭の中に情景が浮かんで、
そこに自分のこれまでを重ねることが
できるような気がします。
大貫 そうですね。
つねに音楽は生活の中心でしたし
60年代から70年代、80年代の中期までが
もっとも音楽を吸収した時期なので、
その頃の曲が流れると、
当時の情景が、ばーっとよみがえってきますね。
本田 大貫さんはご自分でもお作りになるから、
ますますいろんなものが
オーバーラップしてくるのでしょうね。
大貫 自分が作ってるときはひたすら大変ですから
その大変さも一緒に思い出されますが(笑)、
人の作った作品のほうが、
むしろ思い入れはありますね。

だって、自分が作ったものよりも
聴いてるものの方が何十倍も多いですから。
本田 ああ、そうなんですか。
ちょっと意外でした。
大貫 本とか映画あるいは絵画、演劇などの場合も
足を運ぶ、あるいは読むということを
しないとならないので、
そのためだけの時間が必要ですよね。

でも、音楽は車運転しながらも聴けるし、
掃除しながらも聴けるし、というのがあるから。
お手軽ですよね。結構。
本田 あと、誰かと一緒に口ずさめる、
というのもありますね。
大貫 そうですね。
お風呂で鼻歌っていうのもあるし。
文学を口ずさむのはちょっとむずかしいものね。
本田 今日は長い間本当にありがとうございました。
とても楽しかったです。

今回のインタビューは、
糸井さんがやっていらっしゃる、
「ほぼ日刊イトイ新聞」でご紹介していこうと
思っているのですが、
ここにお世話になってもうすぐ9年になります。

アメリカで働いていたときに
まだ始まって数ヶ月の頃のこのサイトを見つけて、
何て面白いことがたくさん書いてあるんだ、と
夢中になって読んだのですが、
つい、「すごく面白かったです」と
感想を書いて送ったんです。

今から思うと、
何でまたそんなことをしたのか?と
自分でも不思議なのですが、
読んだら誰でも何か言いたくなるような、
そんな雰囲気があったので。

そしたら、糸井さんからお返事をいただいて、
おまけに、「書いてみる?」と
誘ってくださいました。

わたしはもともと
臨床医として
健康について広くお知らせしたい、ということを
ずっと考えていました。
医者として、
こうすれば絶対役に立つと知っているのに
なかなかそれを伝える術がない、ということを
研修医の頃からずっともどかしく思っていました。

たとえば、
ぜんそくは死ぬかもしれない重篤な病気だから、
息ができないくらい苦しいときには
救急車を呼んでもいいんだ、とか、
刃物が体に刺さったときには
不用意に抜くと出血が止まらなくなるから、
とりあえず刺さったままで
病院に来てください、とか。

そういったことを
誰かにお伝えしたい、とずっと思っていたんです。
大貫 大事ですよね、そういうこと。
今おっしゃたことは、私も知っていました。
火傷した時にすぐ何をすればいいかとか・・・。
教育テレビなんかでも、とっさの応急処置なんかは
時々やっていますよ。

そいういうことは
一度見れば、意外と覚えるもので、
わたしにとっては
どうでもいいバラエティー番組なんかより、
よっぽど役に立つし、
なるほどー、ということばかりです。

紙に印刷された言葉で書かれていても
忘れちゃうけれど、
映像と一緒になっているとリアルだから
視覚に訴えることも必要だと思います。
本田 テレビが持ちえる、
圧倒的な量の情報の届け方というのは
すごいですものね。

わたしはそのようなメディアとは無縁で、
お伝えしたいと思う内容は増える一方なのに、
でも、なかったんです。
お伝えできる場所が。

ですから
糸井さんからお誘いをいただいたときには
本当にうれしく思いました。
大貫 本田さんがおやりになっていることは
糸井さんちの救急箱みたいな役目なんでしょう、
きっと。
救急マークがついてるような。
本田 ときどき休んでるし、
くだらないことも
いっぱい書いたりするんですけど、
でも、健康についてお知らせしたいことについて
途切れ途切れなんですが、続けています。
しかも、読んだ方から
ご自身の感想や意見もいただくことができる、
すごく良い場所をいただいていることを
糸井さんにとても感謝しています。
大貫 あって助かったな、と思ってる方
たくさんいると思いますよ。
本田 もし、そうだったら、
本当にありがたいと思います。
今日は、本当にありがとうございました。
大貫 こちらこそです。
現実の治療については、
なってみないとわからない
個々の症状というのがおありでしょうし、
だんだん病名をつけられない
複雑な病気も増えているようですから、
「医者に行けば治してもらえる、
医者はなんでも知っている」という時代では
なくなっていると思うんですね。

私たちの暮らしの中での
食についても考え直すべきだし、
自分がかかえるストレスの基は何なのか
自分に正直に問いかけるということも
大切だと思います。

現在は、薬を処方する時も
専門の方が
こまかく説明してくれるようになりましたね、
それを飲むことによる副作用も含め。

昔のように、何だかわからないけれど
医者の出したものだから
飲んでおくという時代とは、
変わったなぁ、という印象です。

本田さんと患者さんの関係は1対無限大だけれど
患者さんにとっては1対1の関係なんですよね。

お医者さまが患者に
どれだけ向かい合ってくれているかは、
患者の立場からすると
たちどころにわかることだし、
患者にとっても、
忙しいお医者さまを独り占めできないことなど
わかっていても、
やはり、そうして向き合ってくれることが
とっても力になって、
励ましてくれたり、かけてくれる言葉が
いちばんの特効薬になると思うんですね。

日々、大変だと思いますが
頑張ってくださいね!
本田 ありがとうございます。
これからもいろいろ試しながらやってみます。
今日は本当にありがとうございました。

大貫妙子さんとの2時間半は
こうして終わりました。

最初に思っていたよりも、
うんと広がりのあるお話を伺えることになって
本当に楽しかったです。

読んでくださった方々に、
大貫さんの「勢い」を
うまくお伝えできてるといいな、と思います。

では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2008-04-11-FRI

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